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この調査研究は、競艇公益資金による日本財団の事業助成金を受けて実施したものである。
 
まえがき
 
 この報告書は、当協会が日本財団からの事業補助金を受けて実施した「離岸流等の観測手法及び特性把握に関する研究」平成15年度分に関した内容、成果等をとりまとめたものであります。各位におかれましてご参考になれば幸甚であります。
 わが国沿岸域特に遠浅海浜付近では特殊な流れが発生する。原因は先ずうねり、波浪が岸に向かって押し寄せることであり、発生した流れは向岸流、海浜流及び離岸流等と呼ばれるが、このような現象は海岸工学における海浜流理論の応用で体系的な説明ができるようになってきた。これまでの観測調査と解析の結果、流れの発生機構、波長、数値計算法に関する知見の蓄積及び研究の進展を見たが、離岸流については未だ不明な事項が多く、その解明と具体的な対策が急務であり、本事業で観測手法の確立、海岸特性把握と数値モデル化等の調査研究と成果活用による海浜の事故防止と安全な利用の増進を図る所存であります。
 本研究のご指導を賜った出口一郎委員長を初めとする研究委員会の各位、共同研究として一端を担っていただいた海洋情報部のご担当の方々及び研究の実施を担当していただいた国際航業(株)の方々に厚く御礼申し上げます。
 
平成16年3月
財団法人 日本水路協会
 
1.1 研究の目的
 わが国沿岸域特に遠浅海浜付近では特殊な流れが発生する。原因は先ずうねり、波浪が岸に向かって押し寄せることであり、発生した流れは向岸流、海浜流及び離岸流等と呼ばれるが、このような現象は海岸工学における海浜流理論の応用で体系的な説明ができるようになってきた。これまでの観測調査と解析の結果、流れの発生機構、流域、数値計算法に関する知見の蓄積及び研究の進展を見たが、離岸流については未だ不明な事項が多く、その解明と具体的な対策が急務であり、本事業で観測手法の確立、海岸特性把握と数値モデル化等の調査研究と成果活用による海浜の事故防止と安全な利用の増進を図ることを目的とする。
 
 多様化し発展しているマリンレジャーにおいて、離岸流が原因と考えられる水難事故は増加しており、平成13年度では全国で約900人を数えている。その対策の一環として本研究により当該モデル沿岸海域付近の各種観測とデータ解析、成果利用等による水難事故防止・海浜安全利用の増進に関する啓蒙・教育資料の作成と配布を行う。
 本事業は3年計画で離岸流について波高、波向等及び流れ等計器を用いた観測方法、海底地形測量、関連する気象、海象情報収集整理等総合的な観測手法の検討及び確立、モデル海岸付近での現地観測、観測データ解析による物理的発生機構解明、海岸特性把握、数値モデル開発及び成果利用を図るもので、平成15年度は、下記の研究事項を実施した。
 
1)観測手法の検討
 波高、波向、流れの計器等による観測方法と海底地形測量方法を検討して、一つの手法を決定する。
2)離岸流の現地観測
 1)で決定した手法により鹿児島、鳥取のモデル海岸を調査のうえ現地観測を行う。
3)観測データの整理・解析
 観測データを整理・解析して離岸流の発生機構の解明及び海岸特性の把握を行う。
 
1.3.1 委員会の構成
 下記の方々により構成し、ご審議、ご指導をいただいた。
(敬称略、順序不同)
委員長   出口 一郎 大阪大学大学院 工学研究科教授
委員     西隆 一郎 鹿児島大学 工学部助教授
高橋 重雄 独立行政法人 港湾空港技術研究所 統括研究官
船木 重雄 (財)日本海洋レジャー安全・振興協会 安全事業部長
関係官庁  熊坂 文雄 第八管区海上保安本部 海洋情報部長
岩渕 洋   第十管区海上保安本部 海洋情報部長
桂 忠彦   海上保安庁海洋情報部 環境調査課長
長井 俊夫 海上保安庁海洋情報部 環境調査課長(9月23日から)
寄高 博行 海上保安庁海洋情報部 環境調査課 課長補佐
井本 泰司 海上保安庁海洋情報部 環境調査課 漂流予測管理官
木下 秀樹 海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 主任研究官
松木 法明 海上保安庁警備救難部 救難課 海浜事故対策官
(作業部会)
井本 泰司   海上保安庁海洋情報部 環境調査課 漂流予測管理官
事務局   我如古 康弘 (財)日本水路協会 常務理事
桂 忠彦    (財)日本水路協会 審議役(平成15年9月23日から)
村井 弥亮   (財)日本水路協会 調査研究部長
桑木野 文章 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海洋情報提供部長
委託先   古賀 幸夫   国際航業(株) 国土マネジメント技術本部
          海洋エンジニアリング部主任技師
横山 省一   国際航業(株) 国土マネジメント技術本部
          関西海洋エンジニアリング部 課長
徳永 企世志 国際航業(株) 九州総合技術部 海洋調査担当 主任
長田 俊明   国際航業(株) 東日本営業部 部長
 
 
平成15年5月21日 第1回研究委員会 事業計画の了承、事業実施計画書の審議・承認
平成15年11月25日 第2回研究委員会 事業の中間報告の審議・承認
平成16年3月2日 第3回研究委員会 事業の最終報告及び総括、報告書(案)の審議・承認
 
この他、平成15年5月14日に作業部会を開催し、細目細部の整理・検討等を行った。
平成15年6月18日 舞鶴市で分科会を開催し、海事関係者と意見交換等を行なった。
平成15年7月15日 鹿児島市で分科会を開催し、海事関係者と意見交換等を行なった。
 
2.1 観測手法の調査
2.1.1 文献調査
 浅海域で、波浪によって引き起こされる流れは、通常図2.1.1に示す波の質量輸送(mass transport)、岸に平行な沿岸流、沖向きの離岸流および砕波帯沖のキノコ雲のような離岸流頭(rip head)に分類される。これらを総称して海浜流系(nearshore current system)、またこの水の循環を海浜循環流(nearshore circulation system)と呼ばれている。この海浜循環流の研究の先駆けとしては、E.K.Noda et al(1974)によるものがあり、海底地形の効果を取り込んで流れの数値計算が行われている。このように、離岸流はいわゆる海浜流を構成する1つの特徴的な流況を表現するものである。海浜流を構成する沿岸流については、古くから沿岸漂砂との関係で数多くの理論的・実験的な研究が行われてきた。
 
図2.1.1 海浜流の分類(Harris、1969)
 
 一方、離岸流に関する研究はBowenら(1969)によってラディエーション応力を用いた解析が行われて以来急速に進展し、数多くの現地実測、理論的な研究が精力的に行われてきた。まず、Bowenら(1969)は、定常モードのエッジ波が入射波と干渉し、沿岸方向に定常的な波高の変化を生じて、波高の小さいところに離岸流が生じると説明した。
 日野は、離岸流に関する一連の研究(1972、1973、1975)で、ラディエーション応力の空間分布に起因する海浜流と漂砂移動によって引き起こされる水深変化の複雑な交互干渉から生ずる不安定機構による離岸流発生理論を構築した。離岸流の発生にはラディエーション応力に伴う波による水位上昇が主因となり、沿岸流は離岸流の主因ではなく発生間隔に関係する要素であることを数値計算から説明している。
 また、堀川・佐々木ら(1971、1974〜1977)は離岸流の発生機構の相違は、表2.1.1に示すような発生機構の異なる領域が三つ存在するためであり、Bowen・Inmanと日野の各理論はその中の二つの領域では良い評価を与えるとして、他の一つ長周期重力波領域において、長周期重力波によって定常波が励起されるという新しい仮説を提案している。そしてその三つの領域を海底勾配(tanβ)と波形勾配という二つのパラメーターを用いて表される砕波帯相似パラメーター(surf similarity parameter)Irによって、表2.1.1のように分類している。
 
 
 離岸流の発生間隔Yrおよび離岸流の長さXr、(図2.1.2)については、その研究者によって種々の値が与えられている。これらは上記の発生領域の不明確さによるものとして、堀川・佐々木らは無次元離岸流間隔Yr*Yr/Xbが各領域において次のように与えられることを示した。ここでXbは砕波点までの距離である。
Yr*=157Ir2 長周期重力波領域(0.08<Ir<0.23)
Yr*=4 不安定領域(0.23<Ir<1)
 
 
 式(2.2)の中のnは岸に平行な節線の数(offshore modal number)といわれるもので、エッジ波の周期、波長によって次式のように与えられる。
 
 
TeLe:エッジ波の周期と波長
 
表2.1.1 海浜流発生の三つの領域(堀川・佐々木ら、1977)
理論(機構) 長周期重力波領域 不安定(SWELL) EDGE WAVE
提案者 佐々木民雄(1974)1) 日野(1973)6) Bowen・Inman(1969)5)
適用範囲( )      
特徴 砕波タイプ spilling spilling〜plunging plunging
surf 常にある あり又はなし 常にない
砕波帯中の波の数 3波以上 1〜3波 1波以上
入射波の反射率
( )
     
入射波の特性 風波とうねり うねり  
説明 tanβが小さい浜に波形勾配の大きい波がくるときに生ずる。 tanβが1/20〜1/40の浜にうねりがきたときに生ずる。 tanβが大きい浜に波形勾配の小さい波がくるときに生ずる。純粋の海浜流は生じにくい。
 
図2.1.2 海浜流の模式図
 
 次に、離岸流の長さXr、については、とくに定式化されたものはなく、堀川・佐々木は現地実測を行って図2.1.3のような結果を得ている。これによると、大きなばらつきはあるが、無次元離岸流長Xrは、
 
 
 がその平均値をあらわしているようである。
 
 これらの研究成果に基づき、従来観測されている離岸流のパターンは、以下のように分類される。
 
[流体運動場の不安定性に起因する離岸流]
Type-A1: 不安定性に起因する離岸流
平均水位、流体運動と漂砂移動(水深変化)、などの間の複雑な相互干渉と、
それらに起因する不安定現象によって発生する離岸流
Type-A2: shear instability, Far-infra-gravity waves
強い沿岸流の岸沖方向の速度勾配に起因するせん断不安定現象によって、沿岸方向に定まった波長を持って発生する離岸流
 
[地形によって生ずる波浪場の不均一性に起因する離岸流]
Type-B1: 入射波の集中・発散に起因する地形性離岸流(汀線の凹部から発生)
 
図2.1.3 地形性離岸流(1)
 
Type-B2: 入射波の集中・発散に起因する地形性離岸流(汀線の凸部から発生)
 
図2.1.4 地形性離岸流(2)
 
Type-B3: 波浪場の平面分布に起因する(構造物によって決定される波浪場)で発生する離岸方向流れ
 
図2.1.5 構造物周辺で発生する離岸流
 
[長周期流体運動による入射波波浪場の変調に起因する離岸流]
Type-C: 反射性海浜に波が斜め入射し定常エッジ波(Standing modeのEdge wave)が形成されることによって引き起こされる入射波浪場の空間的な不均一性によって発生する離岸流、逸散型海浜ではなく反射型海岸でエッジ波が形成される必要がある







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