日本財団 図書館


4.1.3 誘導機
 交流機のうち同期機を除いた非同期機は、更に誘導電動機と交流整流子電動機に分類される。交流整流子電動機は、電機子コイルと界磁コイルを直列接続した直流直巻電動機の端子に交流電流を供給するものである。
(1)誘導電動機の動作原理
 誘導電動機は、一次側コイルが発生する磁束の変化により二次側の導体に電磁誘導作用によって渦電流を誘導し、その渦電流と一次側コイルが発生する磁束との相互作用でトルクを得る電動機である。二次側のコイルもしくは導体の一点に注目すると、渦電流が誘導されるには、一次側電機子コイルが発生する回転磁界が時間的に変化する必要がある。言い換えると、二次側である回転子が一次側の電機子コイルが発生する回転磁界の回転速度(同期速度)と同じ速度で回転すると、二次側には渦電流が誘導されず、トルクが発生しないことになる。すなわち誘導電動機は、定常状態では同期速度と異なる速度で回転する。
 
図4.1.5 
誘導電動機の構造
(電気学会大学講義「電気機器工学I」より引用)
 
(2)誘導電動機の種類
 誘導電動機は、二次側の形状により、かご形誘導電動機、特殊かご形誘導電動機、巻線形誘導電動機の分類できる。かご形誘導電動機は、回転子のスロットに多数の棒状の導体を装着し、その両端を短絡環で短絡したかご形回転子をもつ誘導電動機のうち、円形または方形の単純形状導体を用いたものである。特殊かご形誘導電動機は、かご形誘導電動機の始動電流を制限し、始動トルクを大きくするために、表皮効果を利用して二次抵抗が始動時に大きく、高速時に小さくなるようかご形状を特殊な形にしたもので、二重かご形、深溝かご形がある。巻線形誘導電動機は、絶縁した巻線を回転子のスロットに納めた巻線構造をもつ誘導電動機で、二次巻線の端子をスリップリングとブラシを介して接続した外部の可変抵抗の抵抗値を変化して、始動や速度制御を行うものである。
(3)誘導電動機の構造
 誘導電動機は、直流電動機や同期電動機に比べて構造が簡単であるという特長を有する。すなわち、かご形誘導電動機は直流機や同期機のように整流子、スリップリング、ブラシなどが不要である。ただし、速度制御精度を改善したり、速度制御範囲を広げるために考案された巻線形誘導電動機では二次側にコイルを設ける必要があり、スリップリングとブラシを用いて固定子側から二次電流を供給する必要がある。
(4)誘導電動機の特徴と応用
 前項で述べたように、誘導電動機は構造が簡単という特長を有する一方で、回転子の回転数は回転磁界の回転速度(同期速度)と異なり、負荷の大きさに依存して変化する。最近のパワーエレクトロニクスの進展に伴って、インバータなど可変電圧可変電圧の電力変換器によるすべり周波数制御やベクトル制御技術により、速度制御性能の良好な誘導電動機駆動システムを構成することが可能となった。
 誘導電動機の加変速駆動システムは新幹線「のぞみ」の駆動に応用され、従来の直流電動機駆動方式に比して車両の大幅な小型軽量化や、保守性の改善に大きく貢献した他、ACサーボモータとして産業界の各種用途に応用が拡大しつつある。
(5)誘導電動機への超電導応用の可能性
 誘導電動機の構成要素は、回転磁界を発生する一次側電機子コイルと、電磁誘導作用により交流電流を誘起させる二次導体である。交流超電導技術の現状を考慮すると、当面は誘導電動機の超電導化は難しいと考えられる。
 ステッピングモータは、一次コイルに供給するパルス状電流の周波数を制御することにより、回転子の回転数や回転角度を制御するものである。回転子の構造により、VR(Variable Reluctance)形、PM(Permanent Magnet)形、HB(Hybrid)形に分類される。VR形ステッピングモータは、珪素鋼板や電磁軟鉄で構成された固定子と回転子の歯の間に働く磁気吸引力で位置の保持と回転をするモータで、単段形と多段形とがある。PM形ステッピングモータは、永久磁石形とも呼ばれ、固定子の磁極が永久磁石の磁極を吸引して保持あるいは回転するもので、分布形、クローポール形、ディスクロータ形に分類される。また、HB形は、小歯を外径に施した電磁鋼板のヨークで永久磁石をサンドイッチした回転子をもつもので、VR形とHB形を組み合わせたものである。
 
図4.1.6 
ステッピングモータ
(電気学会大学講座「電気機器工学II」より引用)
 
 リラクタンスモータは、回転子と固定子の鉄心が突極構造をしていると、回転子の回転位置に応じてリラクタンス(磁気抵抗)が変化することを利用してトルクを発生するもので、ステッピングモータと類似した構造を有する。シンクロナスリラクタンスモータは、固定子は分布巻の電機子コイル、回転子は強磁性体で突極構造をもち、回転磁界に同期して磁気抵抗が最小になるように回転する。また、スイッチトリラクタンスモータは、固定子・回転子ともに突極構造を有し、固定子の電機子巻線が集中巻されたものであり、構造が簡単で駆動回路の信頼性が高いという特徴を有する。リラクタンスモータは、従来、効率や力率、小型化などに問題があるが、最近のパワーエレクトロニクスの進歩にともなってその構造の単純さが見直され、実用化開発が進められている。
 バーニアモータは、低速で大トルクを要求される用途に向けたダイレクトドライブモータで、固定子のS個のスロットにP極の三相巻線が施され、回転子にはR極のスロットで構成すると、回転子の回転数が回転磁界のP/Rで現される低速回転が実現できる。同時にトルク脈動を構造的に小さくすることができる。
 ベアリングレスモータは、一つの固定子に電動機用の巻線と回転子位置制御用の巻線を施して、電動機と磁気軸受を一体化したものである。
 その他、パラメトリックモータや超音波モータなど、小形機器への用途に向けて開発された電動機がある。
 いずれにしてもこれらの電動機は小形システムへの用途を指向して開発されたもとであり、冷却システムが必要となる超電導技術の導入は適当ではないと考えられる。
 リニアモータは、回転形電動機の固定子と回転子を扁平に展開したものであり、移動子(回転子)が地上子(固定子)から直接推力を受けるいわゆるダイレクトドライブモータである。リニアモータは形状が扁平なため、駆動機構部のスペース効率が良い、高加減速が可能、減速機構が不要なので保守性が良い、などの特長を有する反面、汎用性に乏しいためコストが高い、ギャップが相対的に広いため効率が悪い、地上子と移間には推進力の他に垂直力が作用するなどの課題を有する。
 リニアモータの種類は、回転形電動機とまったく同じであり、リニア直流モータ、リニア誘導モータ、リニア同期モータ、リニアステッピングモータ、リニアリラクタンスモータなどがある。リニア直流モータは、プリンタなどの事務機器や音響機器などを中心に広く実用に供されている。リニア誘導モータはリニアモータの中でも最も構造が単純であり、地下鉄駆動用や工場内搬送システムなどに幅広く使用されている。リニア同期モータは、当初は磁気浮上式鉄道の駆動システムとして超電導磁石を界磁とするシステムの開発が進められてきたが、最近では永久磁石を使用したリニア同期モータを使用したリニアサーボモータが、工作機械などに広く実用化されている。
 リニアモータへの超電導技術の適用に関しては、まず上述の浮上式鉄道駆動用リニア同期モータへの応用が挙げられる。本システムは、旧国鉄の鉄道技術研究所(現、鉄道総合技術研究所)が1960年代から超電導磁石を使用したシステムの開発を進めてきたものであり、現在に至る超電導技術の進展に対して大きな牽引力となっている。現在もなお山梨実験線で走行実験を行っているこのシステムは、2000年に運輸省(当時)の評価委員会から、技術的には実用レベルにあると評価されており、現在は低コスト化や長期信頼性実験を実施中である。
 また、リニア直流モータへの超電導技術の適用については、1980年代から電磁推進装置として研究が進められ、いわゆる低温超電導線材を使用した実験船ヤマト1が建造されて1992年には神戸港沖で実証航海を行った。ヤマト1を使った航行実験により、原理は実証されたが、電極から発生する塩素の問題や高速性については課題が残されている。
 
参考文献
[1]リニアドライブシステムの用語等再検討調査専門委員会編、「リニアドライブ技術とその応用に関わる用語」、電気学会技術報告、第911号、2003年1月
[2]「電気工学ハンドブック(第6版)」、電気学会、2001年2月
[3](財)日本舶用機器開発協会、「1. 開発商品の紹介 超電導電気推進コンテナ船」, JAMDA23, pp.2-28, 1992.4







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION