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4. 電動機
 
4.1 電動機の種類と得失
 ここでは、常電導の線材や導体を使用した従来の電動機(以下本節では、単に電動機と称する)についてその種類と得失を整理するとともに、機種毎に超電導技術適用の可能性についても概観する。
 電動機は電気エネルギーを機械エネルギーに変換する装置である。最近のパワーエレクトロニクス技術の進展に伴い、電動機の制御装置すなわち電力変換器と電動機を一つのエネルギー変換装置として扱うことが適当と考えられるケースがでてきた。電動機の分類方法については電気学会において回転機技術委員会やリニアドライブ技術委員会が検討している[1]が、最新の技術をカバーできる議論をまとめるには至っていない。ここでは、超電導技術の適用可能性という観点から整理することが主題であるので、古典的な分類法[2]をも意識しながら、最近の技術動向を勘案して電動機を分類し、得失などの検討を行うこととする。図4.1.1に本節で言及する電動機を分類して記した。この分類は、学問的な電動機の分類法とは必ずしも合致しないものであることを重ねて付記しておく。
 
図4.1.1 電動機の種類
 
 直流機は、機械動力を直流電力に変換する直流発電機と、直流電力を機械動力に変換する直流電動機の総称であるが、ここでは直流電動機についてのみ記述する。
(1)直流電動機の動作原理
 図4.1.2に示すように、界磁極が作る一様磁場中に電機子コイルabcdを配置する。外部の直流電源から、ブラシB1、B2と整流子を介して電機子コイルに直流電流を供給し、コイル上辺ではaからbへ、コイル下辺ではcからdへ直流電流が流れるようにすると、フレミングの左手則に基づいて、コイル上辺には図の右方向に、コイル下辺には左方向に電磁力Fが発生し、電機子コイルを回転させようとするトルクが発生する。整流子は電機子コイルの端子に接続されており、電機子コイルが180度回転する毎に、電機子コイル電流の方向を変えて、常に一定方向の回転を維持する方向にトルクを発生させる役割を果たしている。
 
図4.1.2 
直流電動機の動作原理
(電気学会大学講座「電気機器工学I」の図を一部修正)
 
(2)直流電動機の種類
 前項で述べたように、直流電動機は、磁束を発生する界磁、直流電流を流す電機子、そして、電機子コイルの極性を回転位置に応じて変える整流子およびブラシから構成される。直流電動機は、電機子と界磁のいずれを回転子とするかにより、回転電機子形と回転界磁形に分類されるが、整流の容易さを考慮して、産業界では回転電機子形が広く使用されている。この他に、電機子コイルと界磁コイルの接続方法や電機子コイルの巻線方法などに応じて種々の方式がある。すなわち、電機子コイルと界磁コイルの接続方法により、分巻式、直巻式、和動複巻式、差動複巻式、他励式が、さらに、界磁として永久磁石を使用した永久磁石式もある。また、界磁磁束を半径方向に発生することで、電機子コイルに発生する起電力の極性が常に同一となるように構成した単極直流機もある。
(3)直流電動機の構造
 ここでは、産業界で数多く使用されている回転電機子形の直流電動機を例にとり、その構造を説明する。(図4.1.3参照)
 電機子は歯やスロットを有する歯車状の型で打ち抜いた珪素鋼板を積み重ねて、スロット部に電機子コイルを埋め込んだものである。電機子コイルの端子は回転軸の中を通して整流子に接続され、固定子側の極性の異なる磁極の下を通過する毎に、外部の直流電源からブラシを介して供給される直流電流の極性が変わるように構成される。
 整流子は個々の電機子コイルの端子に電気的に接続された電気銅などで構成された素子であり、固定子側に設けられたブラシを介して直流電圧を電機子コイルに供給する。ブラシとしては、炭素質ブラシ、黒鉛質ブラシ、電気黒鉛質ブラシ、金属黒鉛質ブラシなどが電動機の容量に応じて使い分けられる。整流子とブラシは常に機械的に接触しているため、磨耗の問題が発生する。基本的にはブラシの側を摩滅させて定期的に交換することで設計されるが、磨耗くずによる整流子素子間の短絡を防ぐためにも定期的なメンテナンスが必須となる。特に、トルク脈動を小さくするには電動機の極数や電機子コイル数を多くする必要があるが、整流子(分割数)やブラシの数が増える分、保守が一層複雑になる。
 
図4.1.3 
回転電機子形直流電動機の構造
(電気学会大学講座「電気機器工学I」より引用)
 
(4)直流電動機の特徴と用途
 直流電動機の特徴は、励磁方式、すなわち、電機子回路と界磁回路の接続方式によって、各種の特性が得られ、負荷に対する適応性が極めて大きい点にある。すなわち、(1)始動トルクが大きい、(2)広範囲な速度制御が可能、(3)速度制御精度が良好、(4)急激な加減速や頻繁な可逆運転が可能、(5)過負荷耐量が大きい、などの特徴を有する。
 したがって、鉄鋼圧延プラントにおける高速・高精度の大形可変速ドライブ、鉄道車両駆動用の中形可変速ドライブ、小形の制御装置など、それぞれの用途に適した形式のものが広く使用されている。特に、中形ないしは小形モータの分野では、速度制御性が良好であることから、ロボットの関節駆動用アクチュエータや搬送機の位置決め機構などに直流サーボモータが多く使用されている。「サーボ」は英語のサーバント(奴隷)を語源とするもので、回転速度や回転角などに関する指令に忠実に追従して動作するモータをサーボモータと言う。
 また、小形モータの分野では、半導体スイッチと回転子位置検知器を用いて整流作用を電子的に行うブラシレスDCモータが音響機器など広い分野で使用されている。ブラシレスDCモータは、直流電源、パワー半導体素子による電子式整流子、同期電動機、回転発電機(タコジェネレータ)や光学的回転子位置検出器などのセンサで構成されるものであり、同期機の一種とすべきかどうかで議論が分かれている。
(5)直流電動機への超電導応用の可能性
 直流電動機の電機子コイルには外部電源から直流電流が供給されるものの、整流作用により電機子の回転位置に応じて電流の極性が反転する。したがって、現状の交流用途を前提とした超電導線材の開発状況から判断すると、電機子の超電導化は困難であると考えられる。
 一方、一定の直流電流が供給される界磁コイルを超電導化することについては、現状の超電導線材の開発状況からみて現実的なものであると考えられる。特に、回転電機子形の直流電動機では、界磁コイルは固定子側に設置されるので冷却システムの構成が比較的容易であると考えられる。また、回転界磁形の直流電動機では、界磁コイルが回転子側となるため、最大回転速度に対応した冷却システムを構成する必要がある。ただし、電動機を小型化するためにギャップ磁束密度を3〜4Tに設定する場合には、電機子をも空心システムで構成する必要があり、整流機構を含めた全体システムとして構成を見直す必要がある。
 単極直流電動機は、ソレノイド状の界磁コイルで構成できるため、超電導化が比較的容易であると考えられるが、超電導同期電動機に比べると、冷却システムの点では有利であるが、小形軽量化、漏洩磁場、給電機構などの点で不利であると報告されている[3]。
 交流機は、定常運転状態での回転運動が電機子コイルが作る回転磁界の回転速度(同期速度)と同期するか否かによって、同期機と非同期機に分類される。同期機は、さらに、同期発電機、同期電動機、同期調相機に分類される。同期発電機は機械動力により界磁である回転子を回転させることによって電機子コイルに交流電力を発生させる同期機であり、交流発電機とほぼ同義に使われている。同期調相機は、無負荷で系統に接続した状態で励磁を加減することにより、電力系統の電圧調整や力率を改善する同期機である。
(1)同期機の動作原理
 図4.1.4に示す磁極N、Sが作る磁界の中でコイルa、a'を回転させると、コイルにはフレミングの右手則にしたがって回転数に比例した周波数の電圧が誘起される。回転するコイルの端子をスリップリングに接続し、ブラシを介してこの交流電圧を取り出すのが交流発電機すなわち同期発電機の原理である。
 これとは逆に、外部電源からコイルに交流電流を供給すると、フレミングの左手則にしたがってトルクが発生し、印加された交流電流の周波数に比例した回転数でコイルが回転する。これが同期電動機の原理である。実際にはコイルを三相配置して三相交流電流を供給し、さらにコイルを円周方向に分布して配置することによりトルク脈動の低減を図る。三相配置された電機子コイルに三相交流を供給すると電機子の円周方向に回転磁界が発生する。その結果、界磁との間に、回転磁界の主軸と界磁の主軸の位相差の余弦(無負荷誘導起電力と電機子電流の位相差の余弦)に比例したトルクが発生し、回転子は回転磁界の回転速度に同期して回転する。負荷が増大して電動機トルクより大きくなると、回転子は回転磁界の回転速度に追従することができず、いわゆる脱調を起こして不安定な運転状態となる。
 
図4.1.4 
同期電動機の原理
(電気学会大学講義
 「電気機器工学I」より引用)
 
(a)回転電機子形
 
(b)回転界磁形
 
(2)同期電動機の種類
 広義の同期電動機は、狭義の同期電動機、誘導同期電動機、巻線形始動同期電動機、無整流子電動機、に分類される。狭義の同期電動機は、通常は商用周波数電源で駆動され、定常状態では同期速度のみで運転されるので、定速度負荷への用途に使用される。誘導同期電動機は、巻線形誘導電動機と同じ構造の電動機であり、二次抵抗始動法によって誘導電動機として始動し、同期運転時には回転子巻線に直流を流して界磁巻線とすることで同期電動機として動作させるものである。巻線形始動同期電動機は、突極形界磁の磁極片に始動用巻線を装着して二次抵抗始動法により誘導電動機の原理で始動トルクを得るものである。無整流子電動機はサイリスタモータとも呼ばれ、直流電動機の整流子とブラシの機能を電力変換器で置き換えることにより、直流電動機の欠点を克服したものである。直流機の項で述べたブラシレスDCモータに相当するものである。また、小形用途であるが、回転子に半硬磁性材料を用いて回転子磁束を固定子側の電機子コイルが作る磁束より位相を遅らせることでトルクを発生させるヒステリシスモータもある。さらに回転界磁形の同期電動機において、回転子側の界磁に起磁力源を永久磁石とする永久磁石形動機電動機がある。
 この他、電源の相数により三相同期機と単相同期機、界磁の形状により突極形同期機と円筒形同期機、回転子が電機子か界磁かにより回転界磁形同期機と回転電機子形同期機、回転軸の方向により横軸形同期機と縦軸形同期機とにそれぞれ分類できる。
(3)同期電動機の構造
 同期電動機は、回転磁界を発生するための電機子コイルと界磁束を発生する界磁とで構成される。回転電機子形の場合には、回転子側に回転磁界発生用のコイルを設けることになるので、固定子側から電流を供給するためのスリップリングとブラシが必要となる。また、回転界磁形の場合においても、界磁の起磁力源として界磁コイルに直流電流を供給する方式の場合には、同様にスリップリングとブラシが必要となる。
 界磁の形状としては、円筒状あるいは突極状の電磁石形、永久磁石形、突極形の鉄心で構成したリラクタンス形などがある。
 同期電動機は基本的に同期速度で運転されるため、低速用途に対しては直径が大きく軸方向に短い扁平な形状の多極構造となり、高速用途に対しては直径が小さく軸方向に長い細長い構造の少極構造となる。
(4)同期電動機の特徴と応用
 同期電動機の特徴は、同期速度で回転する、効率が良い、保守性が良いことなどの特長がある一方で、負荷のトルク外乱によって脱調や乱調といった不安定な状態になる可能性があることが挙げられる。
 同期電動機の回転子は、回転磁界の回転速度、すなわち、同期速度で回転するため、従来は定速度負荷の駆動装置への応用が主体であった。しかしながら、最近ではパワーエレクトロニクス技術の進展によりインバータなど可変周波数出力の電力変換技術が進展したのに伴って、同期電動機の加変速駆動システムヘの応用が拡大している。特に高性能な永久磁石を界磁として使用した同期電動機をインバータなどの電力変換器で駆動するシステムは電気自動車の駆動システムとして盛んに開発が進められている。また、永久磁石式の同期モータは交流サーボモータとしてもその用途を拡大しつつある。
(5)同期電動機への超電導応用の可能性
 同期電動機の主たる構成要素のうち電機子は交流電流を流す必要があるため、現状の交流超電導技術の開発状況を考慮すると、当面は超電導化することが困難であると考えられる。これに対して界磁は一定の磁束を発生させるために直流電流を流したコイルや永久磁石で構成されており、直流用途を目指して開発されている超電導技術をベースにして、超電導化することによる電動機特性の大幅向上が期待できる。ただし、回転界磁形の場合は低温容器ともども回転することになるため、所定の回転速度まで対応可能な冷却システムを構築する必要がある。また、回転電機子形同期電動機の界磁を超電導化する場合、冷却システムの設計の自由度が増えて比較的実現容易と考えられるが、ギャップ磁束密度を3〜4Tに設定して電動機を小型化する場合には、電機子をも空心システムで構成することになり、電機子コイルの支持方法や、給電機構の見直しなど、種々の技術課題が存在するものと考えられる。







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