日本財団 図書館


4.2 高温超電導電動機の開発状況
 超電導体を用いた電動機の歴史は新しいといえば新しいが、金属系超電導体を用いた回転機(発電機)の開発は一段落している。それでもなお超電導電動機の開発が注目される点はそれが実用化に至っていないところにある。その理由は、技術的というよりは経済的問題である。
 酸化物系超電導体、いわゆる、高温超電導体が出現してこの問題が一挙に解決できたとは言い難い。高温といっても冷却系は必要だし、何よりも高温超電導体そのものがまだまだ高価である。従って、初期コストは従来の電動機に比べれば高い。それでも希望を抱いて開発を続ける一つの理由は、効率向上を図ることができるのでランニングコストが低くなり、高温超電導体の低価格化に伴い、トータルでみれば経済的問題が解決できると期待しているからである。もう一つの理由は、電動機本体の小型化である。注目を浴びている船舶のポッド推進は、電動機のいっそうの小型化が実現できるとその利点をさらに際立たせることができるからである。
 金属系超電導体でできなかったものが酸化物系超電導体ならできるか。この問題は、端的にいえば、冷却系が簡単になることと新しいものに期待をかけていることということになるが、その端緒は開きつつある。それはAMSCやシーメンスの積極的な電動機開発にみられる。我が国でも小容量ながらいくつかの事例がある。しかし、AMSCやシーメンスに遅れをとっている感は否めない。ところで、我が国も高温超電導体の研究開発は有為の人材を集め巨額の投資をして推し進めてきた。従って、高温超電導体そのものは諸外国に負けていないばかりかリードしているところもある。あとはそれを応用する研究開発を高温超電導体の特性を十分活かすように推し進めていくことである。長い歴史をもつ電動機に応用するとき、従来のかたちに足場を置きつつ、それに囚われることなく、高温超電導体に適した新しいかたちを創造していくことが望まれている。本節は超電導電動機の開発の現状把握が目的であるので、その状況について述べる。
 超電導体の電動機への応用は、界磁への応用と電機子巻線への応用が考えられる。界磁は磁石であり、超電導線材と超電導バルクの両方が使える。それらに流れる電流は直流である。電機子巻線は巻線であるから使うのであれば超電導体線材である。電機子巻線に流れる電流は単極電動機を除いて交流電流であること、電機子巻線は界磁巻線に比べて形状が複雑であることから超電導線材化が遅れている。従って、ここでは界磁に超電導体を応用する場合について述べる。
 開発されている高温超電導電動機は電動機の種類で分類して次に挙げるものがある。
(1)直流電動機
(2)同期電動機(ヒステリシスモータを除く)
(3)ヒステリシスモータ
また、構造的に分類して次に挙げるものがある。
(1)ラジアルギャップモータ
(2)アキシャルギャップモータ
さらに、構造的な別の分類として次に挙げるものがある。
(1)回転界磁モータ
(2)固定界磁モータ
 既に報告されている高温超電導電動機の開発事例について述べる。
(1)イムラ材料開発研究所
(2)AMSC
(3)京都大学
(4)JR東海
(5)福井大学・イムラ材料開発研究所
(6)北野精機(東京海洋大学・福井大学)
 
高温超電導電動機の長所
 (1)鉄心レスでも界磁磁束密度を高くでき、高効率化、小型化ができる。
 (2)鉄心レスであるのでトルクリップルを小さくできる。
 (3)高温超電導体線材やバルク磁石を用いると従来の超電導体に比べ、冷却系が簡単にできる可能性がある。すなわち低温超電導体のように液体ヘリウム温度まで冷却する必要がない。これは、たとえ液体ヘリウムを冷媒として用いても20〜30K程度に冷却すれば十分であり、比較的冷却パワーの大きな冷凍機が使用可能となり、しかもその小型軽量化は近年著しく、冷却系の設計において大きなメリットがある。
 (4)バルク高温超電導体は液体窒素温度でも最大3Tの静磁場冷却による着磁が可能であり、温度を維持するかぎり永久磁石にすることができる。一方、組立て・分解時は昇温により、超電導状態ではなくなり、もはや永久磁石でないので、取扱いが非常に簡単である。
高温超電導電動機の短所
 (1)冷却系が必要である。
 (2)現時点では高温超電導体線材やバルク磁石そのものが高価で、かつ、冷却系が必要になるので、電動機は高価になる。
 (3)超電導体は銅、鉄に比べれば機械的強度が劣る。
 端的にいえば、上記した長所が短所を補いきれていないあるいは補いきるような用途を見つけるに至っていないところに超電導電動機の実用化が遅れている理由がある。
 (1)冷却系が有する技術的かつ経済的な不利が他の利点で補いきれると納得できるような社会経済情勢に現在は至っていない。
 (2)初期コストとランニングコストの合計が従来のものより有利ということが実証されていない。つまり、プロトタイプや実証機の開発を伴う実践的検討そのものがわが国で行われていない。
 (3)小型化ができるとしても機械的な信頼性の実証が進んでいない。これも実証機の試作すら行われていない状況に原因があるといわざるを得ない。
 (4)これに対して欧米では積極的な実証機の試作と検討が行われており、この分野では追随すらむづかしいのではないかとの倦怠感すらではじめている。
 
 バルク状に成形した高温超電導体はピン止め効果により擬似永久磁石になり得る。保磁力は永久磁石に比べて非常に大きく、永久磁石電動機の高効率化、小型化が期待できる。
 (1)バルクは線材に比べて機械強度で優れている。
 (2)単位体積あたりに流せる電流が大きく、同じ体積であればより強い磁場を得ることはできる。
 (3)バルクは結晶体であり、バルク単体で大きなものを得ることは困難である。しかしながら、この問題は複数のバルク体の接合や、大型結晶作製技術によって解決する可能性もある。
 (4)バルク磁石は、商品化されており標準化も検討されてきた経緯があり、製品として購入できる供給体制が確立されている。
 (5)現状では、メガワット級の同期電動機クラスにバルク磁石を界磁として実装する見通しを得るには至っていない。一方、高出力機では線材コイルを界磁とする上で特徴的な技術的限界は見当たらず、線材コイルの今後2-3年間の技術的進展によっては、大型機の界磁磁石の主流が線材コイルとなる可能性がある。
 (1)バルクを永久磁石にするためには着磁しなければならない。着磁する方法は、磁場をかけておいて冷却する方法と冷却してから磁場をかける方法がある。一般に前者は静磁場で着磁することから静磁場着磁、後者はパルス磁場で着磁することからパルス着磁と呼ばれる。
 (2)バルク同期電動機で静磁場着磁を採用することは、着磁後組立てを行うことが必要となり困難である。従って、パルス着磁を採用するのが主流である。
 (3)パルス着磁をする方法として、円筒状の着磁コイルの中心部にバルクを置いてパルス着磁する方法と、2つの着磁コイルで挟むようにバルクを置いてパルス着磁する方法がある。さらに、後者は電機子巻線を着磁コイルとして併用しないものと併用するものがある。
 (4)構造的には、固定界磁あるいは回転界磁、ラジアルギャップあるいはアキシャルギップがある。
 
 AMSCが製作した5MW、230min-1超電導電動機について磁界解析したのでその概略を述べる。冷却系は考慮していない。
 (1)定格 容量:5MW、回転数:230min-1(6極、11.5Hz)、トルク:208,000Nm
 (2)回転子はインナーで界磁とする。
 (3)超電導線 線材:Bi2223、寸法:4.85mm×0.305mm(1.47925mm2)、並列数:3、許容電流:150A/mm2以下(50A/mm2で設計)、使用温度:35K
 (4)電機子巻線は水冷とし、電機子巻線の外側にバックヨークを取り付ける。(5.4A/mm2で計算)
 (5)励磁機は別途考える。
 (1)寸法
バックヨークの直径:930mm、バックヨークの長さ:1,000mm
 (コイルエンドの長さ等を別途考慮する必要がある)
 (2)コイル及びバックヨークの配置
 (3)界磁のみによる磁束密度分布図(1界磁巻線の巻数は3,400ターン)
 (4)界磁のみによる磁束線図
 (5)界磁と電機子による磁束密度分布図
 (6)界磁と電機子による磁束線図
 (7)誘導起電力波形(1相当たり6電機子巻線中の2電機子巻線分。1電機子巻線の巻数は750ターン。線形はφ3mm。):線間電圧実効値で99,137V(電圧は線径と巻数で調整する。)
 (8)トルク波形(φ3mmの電機子巻線に33A流したときの波形。):トルクリプルはpeak-peak/平均値×100=0.67%で小さい。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION