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3.3 各冷媒の得失
 低温生成の目的でしばしば利用される寒剤は、ヘリウム、水素、窒素、ネオンなどである。これらの物理・化学的な性質は、各書で詳しく述べられているので、ここでは超電導回転機に用いる場合の得失について考える。表3.3.1に低温液化ガスの熱的特性[2]、図3.3.1に液体1L当たりのエンタルピーの温度変化[2]を示すが、以下にこれらの表と図を用いて、冷媒としてヘリウム、水素、窒素について考察する。
 
表3.3.1 低温液化ガスの熱的特性[1]
項目 単位 He n-H2 Ne N2
分子量 (-) 4.003 2.016 20.183 28.013
沸点 (K) 4.22 20.39 27.102 77.35
臨界圧力 (MPa) 0.227 1.32 2.65 3.4
臨界温度 (K) 5.2 33.19 44.39 126.2
三重点・圧力 (kPa) - 7.2 4.2 12.5
三重点・温度 (K) - 13.96 24.555 63.15
密度(大気圧沸点) (kg/L) 0.125 0.0708 1.204 0.809
密度(大気圧300K) (kg/L) 0.0169 0.0133 0.900 1.139
ガス(300K)と液体の体積比 (-) 769 864 1338 710
蒸発潜熱(沸点単位質量当たり) (kJ/kg) 20.4 452 87.2 199
ガス顕熱(沸点から300Kまで) (kJ/kg) 1543 3510 283 234
ガス顕熱と蒸発潜熱の比 (-) 75.6 7.8 3.24 1.18
 
図3.3.1 液体1L当たりのエンタルピーの温度変化
 
 ヘリウムは、従来から最も用いられている寒剤であり、従来のNbTiなどの金属系超電導線材を液体の状態で冷却出来る唯一の冷媒である。1気圧の沸点が4.2Kであり、三重点はなく2.17Kのλ温度以下で超流動状態になる。蒸発潜熱は水素および窒素に比べて1桁小さく、非常に蒸発しやすい冷媒である。したがって、ヘリウムを使うためには高度な断熱構造が必須である。しかしながら、ガス顕熱と蒸発潜熱の比は、逆に水素および窒素に比べて1桁以上大きく、顕熱の持つ寒冷を有効に利用して液体ヘリウムの消費量を低減させることが可能である。
 Bi系、Y系線材が超電導電動機用として十分使用に耐える線材として実用化されたとしても、超電導線材としてのメリットを出すためには少なくとも10〜20Kの出来るだけ低い温度で用いる必要があり、このような温度領域で使える冷媒はヘリウムと水素しかない。へリウムは化学的に不活性であるため、安全性の面で取り扱いは容易である。
 ヘリウムは主に地殻中でウラニウムやトリウムのα崩壊により生成されたものと考えられているが、大気中よりも地殻中に存在する割合が圧倒的に多い。ヘリウムは天然ガスの副産物として採取されるが、資源的には米国に90%が偏在している。ヘリウムの消費の中で極低温での利用は約1/4程度であると考えられているが、今後、様々な超電導機器が利用されることになった場合は、需給が逼迫する恐れが高く、船舶のような汎用的な輸送手段の動力源に使用される冷媒としては、供給基盤が非常に脆弱といわざるを得ない[2]
 以上の観点から、ヘリウムは冷媒としては使用実績も有り、使いやすい冷媒であるが、資源供給の面で難点がある。しかしながら、10〜20Kの極低温で安全に使用できる唯一の冷媒であり、ヘリウム使用量を極力少なくした使い方が必要である。少なくとも、貴重なヘリウムを大気中に放出するような使い方は、資源の無駄遣いであり厳に慎まなければならない。大量の液体ヘリウムを使用する場合、回収、精製設備、再液化装置が必須で、電動機単体は小さくなっても、その周辺設備が大規模なものになり、全体として舶用電動機システムとして非現実的なものになってしまう。
 以上の観点から、ヘリウムの使用量が少なくしかも効率的な冷却システムとしては、外部に小型冷凍機を配置し、その冷凍機の寒冷を電動機本体に伝えるのにヘリウムを用いた閉鎖循環冷却系を設けることが好ましいと考えられる。
 水素は、ヘリウムに次いで2番目に沸点が低い冷媒である。水素ガスは工業的には水の電気分解により製造されるので、資源的な偏りが無く、この点は舶用の超電導電動機の冷媒としては適している。寒剤としては、大気圧化での沸点が約20Kなので、超電導線材をこの温度以下で用いることは出来ない。特に従来から用いられてきたNbTiなどの金属系の超電導線材は臨界温度の点で使用不可能である。Bi系線材やY系の高温超電導線材が開発されればこの問題が解決できる。
 もちろん酸素と混合した場合の爆発的に燃焼するので取り扱いには細心の注意が必要である。しかしながら、近い将来水素社会の到来を考えると、水素供給インフラの急速な整備が一気に進み、安全性確保や寒剤コストの低減など、今水素が抱えている問題のいくつかは解決できる可能性も有り、水素冷却による高温超電導電動機も考慮に値する。
 超電導電動機の冷凍システムとしては、水素は安全確保など信頼性向上の面での課題が大きいので、水素を用いた冷却システムとしては、水素冷凍機システムと電動機を分離独立させ、それらを前節で述べたヘリウムを用いた閉鎖循環冷却系を設けることが好ましいと考えられる。これにより水素冷凍機システム単独で信頼性の向上を追求できる。
 窒素は空気の78%を占め、液体窒素は空気の分溜により製造される。化学的に不活性であり63〜77Kの間で安価な寒剤として利用されている[3]。高温超電導電動機の寒剤としては、現時点での見通しは、この数年の線材開発状況にかかってくる。現時点でのBi系線材や現状のY系線材の枠を超えた新しい線材性能の完成を待たねばならない。しかしながら、もし、液体窒素冷却を寒剤にして実用に耐えうる特性が確保できる線材が開発されれば、冷凍機および冷却に関する課題はもちろん、寒剤の入手容易性、安全性などの問題が一気に解決でき、高温超電導電動機は一気に普及する可能性がある。一刻も早い線材開発の完成度の向上が望まれる。
 
3.4.1 小型冷凍機
 冷凍機には研究設備などで使用される大型のヘリウム冷凍機からパルス管冷凍機のような小型のものまで、様々な方式のものが実現されているが、大型設備は船舶に搭載することは不可能なので、ここでは船舶に搭載できる規模の小型冷凍機のみ検討する。この小型の定義であるが、文献[2]では、5W-4.5K(カルノーサイクル24W-20K、120W-77K)を一つの目安にしているが、船舶に搭載できる冷凍機という観点から、今まで市販され長期間の信頼性も確保されている蓄冷式が主な対象になる。蓄冷式には、スターリング冷凍機、ヴィルミエ冷凍機、ギフォード・マクマフォン(GM)冷凍機、ソルベイ冷凍機などが上げられる。GM冷凍機およびソルベイ冷凍機は主に2段式(20K)、1段式(77K)に限られている。これらの冷凍機は、蓄冷材の比熱が極低温領域で激減することから10Kが一つの限界とされており、この冷凍機単独で液体ヘリウム温度を実現することは非常に難しい。国内外とも数多くのメーカが市販しているが、性能はどれも似通っている。電気入力は1.2〜4kWに分布している。図3.3.2に市販されている冷凍機の電気入力と各段の冷凍能力との関係を示す[2]。20K段では2〜10W、77(80)K段では10〜65Wに分布している。また、図3.3.3に示すように、20Kおよび77(80)K段の冷凍能力当たり20K段1〜5kW/W、77(80)K段0.05〜0.2kW/Wである。それぞれの段について独立に選択できる訳ではないが、一応の目安にはなる。
 
図3.3.2 小型冷凍機の電気入力と冷凍能力の関係
 
図3.3.3 小型冷凍機の冷凍出力と効率の関係
 
 

参考文献
 [2]超伝導・低温工学ハンドブック, 社団法人低温工学協会編, 平成5年11月30日, 第1版第1刷発行, オーム社







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