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3.1.6 ロータ冷却構造
 商用発電機である超電導発電機は高速機であるため、ロータ中心部に冷媒容器を設け、遠心力を利用した自然循環冷却でコイルを冷却する方式をとっている。この場合、容器中の冷媒は遠心力により容器内壁に張り付き、気液界面は円筒状になる。ロータの熱負荷は気液界面の冷媒の蒸発で吸収されるが、気液界面では飽和状態にあるため、内部の圧力が一定に保たれれば熱負荷に関わらず温度が一定に保たれる。容器内部の液量を一定に保つために熱負荷に応じて液供給量を調節すればよい。一般に飽和状態にある液の供給量を調整はデュワーの圧力で行うため、応答性が悪くロータ内部の液量を一定にするのは難しいが、ロータ容器が冷媒供給量の変動を吸収するバッファとなり、極短時間であれば冷媒の供給が停止されても運転に支障を生じることはない。また、1気圧の飽和液体、すなわち気液二相状態で液を供給する場合は気液分離の役目も果たし都合がよい。
 しかしながら、舶用超電導電動機は低速回転で、かつ可変速であるため、液を容器内内面に張り付かせて保持することは困難である。したがって、ロータ内を隅々まで冷却するためには、強制的に冷媒を循環させる強制冷却構造が必須である。もし、冷凍機に高熱伝導部材を直結させた伝導冷却方法であれば、このようなことは考えなくてもよいが、ロータシャフトの直径の制限から、伝熱面積には限度があるので、〜1W以上の熱負荷を吸収することは困難と考えられる。仮に、熱侵入を低減できたとしても、数トンを超えるようなロータを室温から動作温度である極低温に実用的に許容できる時間で冷却することは不可能であろう。したがって、少なくとも予冷時には外部から冷媒を流し、所望の温度まで冷却することが必要である。なお、何らかの理由でコイルにクエンチが生じたときは、大部分の蓄積エネルギーが冷媒に放出されることにより、冷媒全てが一気に蒸発し容器内の圧力が一気に高くなってしまう危険性がある。強制冷却では保持する液体の量が少ないのでこのような問題は比較的小さいと思われる。ただし、循環量の変動に対する温度安定性については、液体ヘリウム、水素、ネオン温度レベルでは構造物の比熱が小さいため低い。液体窒素温度レベルではその逆であり、少々の変動は熱容量で吸収できる。
 強制冷却の場合、複雑で長い流路に気液二相状態の液を流すことは圧力損失の面と流路分配の面で流路が設計非常に難しい。したがって、流路の分岐を極力なくし、例えば二重円筒の外筒と内筒の隙間に液を流すなど、出来るだけ単純な構造の冷却流路とすることが必要である。ヘリウムであれは圧力を上げれば超臨界圧状態になるので気液二相の問題は回避できるが、外部から冷媒を供給する場合は、1MPa以上の高いシール圧力を持つ冷媒供給装置が必要になるため実現は困難である。ロータ内でヘリウムを冷媒とした閉循環冷却系を作り、その一部に設けた熱交換器で外部から供給した冷媒と熱交換を行う方法も考えられる。この場合は冷媒供給装置のシール圧は大気圧程度のものでよいので実現は比較的容易と思われるが、閉循環系冷却系の冷媒をどのようにして循環させるかという問題が残る。一部に極低温で動作する循環ポンプを設ければよいが、経済的なコストで高い信頼性を有するポンプ、またはポンプ作用を生じる構造が大きな開発課題になる。
 以上に述べたことを考慮し、舶用超電導電動機として最適な構造を検討する。
 舶用超電導電動機として最も重要な要件は、従来の電動機よりも小型であることである。したがって、電動機としての出力を決める体格だけではなく、全体構造を含めたコンパクトさが求められる。ここで成否を握る最も重要な構造物はトルクチューブである。従来の超電導発電機で用いられてきたコイル取付け軸をその両端のトルクチューブで支持する構造は、ロータ軸長が従来の電動機以上に長くなってしまい、超電導電動機としての特徴を出すことができない。
 そこで、舶用超電導電動機は低速機であるという特徴を生かし、図3.1.4に示すロータを突極機とし各コイルの取付け円筒の内側にトルクチューブを配置する構造を提案したい。突極機とすることでコイルは集中巻とすることができ、コイル製作が非常にやりやすいというメリットもある。熱収縮の問題があるので、出来れば一つのトルクチューブで支持できる構造が好ましい。軸長が長い場合は2つのトルクチューブが必要になるが、この場合は極低温にある各極とシャフトの熱収縮差を吸収する構造が必要である。低速回転で大出力を出すためには非常に大きなトルクがかかり、トルクチューブに求められる剛性は非常に大きいと考えられる。したがって、主な強度部材としては金属を用いる必要があると思われるが、最近、進歩が著しい有機複合材料を用いることで、剛性と低侵入熱を両立させた構造も可能である。
 
図3.1.4 舶用超電導電動機の概略構造
 
 次に、ロータ冷却構造としては外部から供給される寒冷の熱交換部を有する閉循環冷卸系が好ましい。この循環系内部の冷媒はヘリウムが適切である。閉循環系にすることでヘリウム圧力を臨界圧力以上にすることが出来、常に単相状態で使用することができる。この構造の課題は、閉循環系の冷媒の循環ポンプである。回転数が低いので循環力として遠心力を利用することができないので強制的に循環させてやる必要がある。
 
 ロータの主な熱負荷は、(1)パワーリード侵入熱、(2)トルクチューブ侵入熱、(3)交流損失である。交流損失は線材固有の値であり高温超電導線材として実用的なものがない現在、推定不可能である。したがって、ここでは冷却構造に固有の熱負荷のみを考える。なお、検討対象として、AMSC/5MW230min-1ラジアルギャップ型同期機と同程度のものを考える。
3.2.1 トルクチューブの侵入熱
 図3.2.1〜図3.2.3に冷媒にヘリウムを用いた場合のトルクチューブ侵入熱量、熱交換器流量並びに熱交換器圧力損失を示す。トルクチューブ長さ450mm、材質はステンレス鋼(SUS)とFRPを考えた。また、トルクチューブ外径Dtをφ300、500、700の場合について調べた。
 
図3.2.1 侵入熱量
 
(1)材質:SUS
 
(2)材質:FRP
 
図3.2.2 熱交換器流量
 
(1)材質:SUS
 
(2)材質:FRP
 
図3.2.3 熱交換器圧力損失
 
(1)材質:SUS
 
(2)材質:FRP







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