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3. 冷却
 
3.1 超電導電動機の基本構成
3.1.1 超電導電動機と超電導発電機について
 従来、我が国の超電導回転機に関する研究開発は、電動機よりも発電機について盛んで、特に1980年代から本格化し始め、工業技術院ムーンライト計画の一環として1988年からスタートした「超電導電力応用技術研究開発」で実用化を睨んだ超電導発電機の開発が進められてきた[1]。超電導発電機と舶用超電導電動機では仕様が全く異なる。特に前者が3000または3600min-1の高速で、かつ定格回転で使用される一方、後者が主に数百min-1程度の低速で、かつ可変速で使用され、両者の回転機としての最適な構造は異なる。しかしながら、断熱と冷却に関する基本構成は全く同じであるので、超電導電動機の実用化を目指すに当たって、超電導発電機を参考にしつつ超電導電動機に必要な基本機能を考えていく。
 この節では、超電導発電機と超電導電動機を区別せず、超電導回転機と言葉を統一して記述する。図3.1.1に超電導回転機の基本構造を示す。
 超電導回転機に必要な基本機能は、回転機として必要な機能の他、(1)超電導コイルを超電導状態に保持する機能が上げられる。このためには、超電導コイルが実用的な特性が発揮できる温度まで冷却保持することが第一要件である。(1)を実現するためには、(1)-1寒冷供給または冷凍、(1)-2断熱保持並びに(1)-3ロータのコイル冷却構造が必要である。これらは(2)トルク伝達機構および(3)励磁機構を兼ね備えなければならない。次に、現状利用できる超電導線材は交流磁場には耐えられないため、外部交流磁場の遮断のために磁気シールとなる(4)ダンパが必要とされる。以下、順を追ってそれぞれ説明する。
 
図3.1.1 超電導回転機の基本構造
 
 なお、超電導コイルの冷却温度は、現在または近い将来利用し得る線材がNb-Ti系(液体ヘリウム)、Bi系(液体ネオン、水素)、Y系(液体窒素)であるので液体窒素温度レベル以下を考える。
 超電導コイルを極低温まで冷却するのが目的であるが、これには(1)冷凍機で直接冷却する方法と、(2)冷媒を外部から供給する方法がある。電動機本体の熱負荷がどの程度かによる、現段階では、GM冷凍機のような低コストで信頼性の高い冷凍機の冷凍能力は、例えば4.2Kで高々数Wレベル、磁気浮上列車用に開発された車載用冷凍機でも高々10Wレベルが限度である。電動機の出力が大きくなれば当然のことながら体格も大きくなり機械強度もそれに見合ったものが必要とされるので、超電導部への室温からの熱侵入も大きくなる。熱負荷が10Wを超えるような場合は、外部の冷凍機で寒冷を発生させ、その冷媒をロータに供給することが必要になる。このためには、ロータの軸端に静止している冷媒の給排気配管と回転するロータ配管系のカップリングの機能を有する冷媒供給装置が新たに必要となる。ヘリウムを冷媒として使う場合には図3.1.2に示すようなヘリウムトランスファーカップリング(HTC)などと呼ばれる。これは、真空断熱された複数の冷却配管とそれぞれの配管同士の気密を保つ磁性流体シールからなる。冷媒供給装置として求められる性能は熱侵入量が小さいということである。この部分の侵入が大きいとせっかく冷凍機から供給した寒冷を無駄に消費してしまうことになる。また、この全体の信頼性については磁性流体シールの信頼性が支配するが、この信頼性はシール部の周速に依存する。周速が大きいと磁性流体の内部粘性による発熱により磁性体流体を構成する油分が散逸し、シール機能を発揮できなくなってしまう。したがって、適切な周速以下になるような設計が必要であるが、舶用超電導電動機は低速回転機器であるので設計上の問題は少ないと予想される。
 
図3.1.2 ヘリウムトランスファーカップリング(HTC)
 
 (1)の冷凍機で直接超電導部を冷却する場合は、冷凍機ヘッドそのものをロータと共に回転させるわけには行かないので、静止した冷凍機ヘッドで発生した冷凍パワーを回転するロータに伝達する伝熱カップリング機能が必要である。これは、冷媒供給装置と同じような真空断熱配管または容器と磁性流体シールを用いた構成になるものと考えられる。このような伝熱カップリングに関する実績または報告は今のところなく、十分に熱抵抗の小さなものを開発するためのハードルは高い。
 ロータの超電導部をヘリウム温度レベルに保持する場合はもちろん、液体窒素レベルまで保持する場合でも真空断熱構造が必要である。真空断熱容器は極低温にあるロータコイルを内包するので円筒構造である。できればロータコイルの取り付け軸と真空容器外壁との間に、放射シールド(場合によっては低温ダンパと呼ばれることもある)またはスーパーインシュレーションを介した方がよい。スーパーインシュレーションは樹脂膜にアルミを蒸着したものであり、遠心力がかかる部分には使えないが、舶用の電動機のように回転数が数百min-1程度のものであれば、遠心力もそれほど大きくなく、十分使用に耐えられる。もちろん、多少の遠心力はかかるのでそのことを考慮した施行方法が必要である。
 断熱保持で最も難しいのは、コイルに発生したトルクをシャフトに伝達するトルクチューブである。このトルクチューブは十分な機械的強度を有する必要があり、強度優先で設計せざるを得ない。したがって肉厚にならざるを得ず、何らかの対策を行わないと室温部からの侵入熱量は膨大になる。したがって、通常はこの部分に低温部から排出される冷媒ガスを流す熱交換器を取り付け、室温部からの侵入熱を冷媒ガスで吸収するように工夫する。特に、冷媒にヘリウムを使う場合はヘリウムの顕熱分が大きくこの方法は非常に有効である。最近では、熱伝導率が金属に比べて非常に小さい高強度の樹脂系の複合材料が開発されてきているので、この材料でトルクチューブを構成することができれば、侵入熱を格段に低減できる。ただ、この場合も上記熱交換器を設けることが好ましい。
 なお、超電導発電機では、高速機であるが故に遠心力が大きく、図3.1.3に示すように冷媒の液相とトルクチューブ・熱交換器内の気相の密度差によりセルフポンピング作用が期待できる。この作用により、ロータ冷媒容器内は減圧され飽和蒸気圧曲線に沿って液温を低減させることができ、冷却安定性の向上を図ることができた。しかしながら、舶用電動機は低速機であるため遠心力が小さく、この作用は期待できない。
 
図3.1.3 セルフポンピング作用
 
 トルクチューブは、超電導発電機では超電導コイル取付け軸の両端に設けられている。この理由は、高速回転機であるため軸受部のシャフト径に対するロータ最大径比が小さく、トルクチューブを設ける場所としてはコイル取り付け軸両端しかないためである。このため、ロータ軸長は体格で決まる軸長よりもかなり長くなり、装置全体が大きくなってしまう問題がある。これに対して、舶用電動機の場合は、低速回転であるため、ロータ外径が大きい突極型でよく、トルクチューブをコイル取付け部の内径側に設けられる可能性がある。この場合、従来の電動機と体格が同じでも、ほぼ同等のロータ軸長を実現できる。舶用電動機では、構造面では小型軽量であることが最大の課題になるため、このような構造が好ましい。
 コイル取付け軸は極低温にあるため熱収縮する。真空容器外壁は室温レベルのままのため、熱収縮を吸収する構造が必須である。従来の超電導発電機では、コイル取り付け軸の片端と真空容器外壁をベローズで結合したり、面外変形を起こす円盤で固定したりする工夫を行っている[1]。特に、前者の場合は、コイル取り付け軸と真空容器外壁を別々に支持する二重軸受が必要とされ、軸受周り構造が複雑となり非常に高度な製作技術が必要とされる。後者はこれにくらべて構造が簡単であるが、大容量化したときに単なる円盤で強度を確保できるかどうかという問題があり、この両者のどちらがよいかとは一概には言えない。舶用電動機では、これら超電導発電機の構造をそのまま踏襲しても良いが、ロータ径に対して軸長がかなり短い特徴を生かして、後述の図3.1.4に示す一つのトルクチューブで超電導コイル部を支持することが実現できる可能性も有り、熱収縮緩和構造を省略できる可能性がある。
 励磁装置には、静止励磁方式とブラシレス励磁方式の二方式があるが、どちらを採用するかによってロータ冷却構造および冷媒供給装置構造は影響を受ける。
 静止励磁方式では、ロータ軸端に設置したコレクタリングと、これと超電導コイルを電気的に接続する大電流パワーリードが必要である。例えば、後述するAMSC/5MW機の供給電流は714Aであり、現状の線材レベルを考えると1000A級のパワーリードが必要である。パワーリードの温度は極低温から室温にまで分布するので超電導線を用いることは出来ず、銅などの電気伝導度が大きい金属を用いる。ところがこのようなパワーリードは熱伝導率も高いため、室温部から極低温部への侵入熱が大きく、前節のトルクチューブと同じように冷媒ガスで冷却する必要がある。クエンチ時のコイル発生電圧を考慮すると絶縁物を介して冷却するよりは冷媒ガスで直接冷却することが好ましいが、冷媒ガス排出配管が増えることになるので、冷媒供給装置の配管系統に、冷媒供給系、トルクチューブ冷却系を含めて最低3系統必要になり、コンパクトに設計することが難しい。絶縁の問題がクリアできれば、トルクチューブ冷却系と熱的に接触させることによりパワーリード系の配管は省略出来る可能性もある。
 ブラシレス励磁方式は、ブラシを省略できるので信頼性の高い励磁が可能であるが、軸端に重量物である励磁機を設置する必要がある。ロータ構造としては軸振動の問題が出ないように工夫する必要がある。特にパワーリードとの位置関係を考えると、冷媒供給装置または冷凍機取り付け側と同じ側に設置する必要がある。ただ、舶用電動機は低速であるため、軸振動の観点から設計は比較的容易と思われる。商用発電機では、ロータ軸長が長くロータ危険速度の観点から軸受スパンを出来るだけ短くするため、励磁機をロータ軸受間の外側に設置する必要があるが、舶用電動機では励磁機の小型化を進めることによって軸受間の内側に設置することも可能になると思われる。
 

参考文献
 [1]低温工学, Vol.3, No.3(2001)







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