本報告は、日本財団助成事業「国際学術協力に係わる海外派遣」の一環として実施した若手研究者・技術者の海外派遣報告であり、広く会員に報告すると共に同財団に深く感謝の意を表します。
ヨーロッパにおける洋上風力発電について
正員 中條俊樹*
「若手研究者・技術者の海外派遣事業」により、2003年11月28日から12月13日までのおよそ2週間の日程でイギリス、オランダ、デンマークの3カ国を訪問した。本派遣事業では、現在我々が風力発電の洋上展開について取り組んでいるため、この分野に関する最先端の地域であるヨーロッパを選び、研究者との情報交換および洋上ウィンドファームの視察を行った。ここにその成果報告を行う。
風力発電が近年急速に発展していることはよく知られているが、特にその利用が盛んなのがドイツ、スペイン、オランダ、デンマークなどのヨーロッパ地域であり、風車の大型化、風車建設地点の洋上への移行が進んでいる。さらに、ウィンドファーム(発電用風車を多数集積した施設)中の風車の数も多くなる傾向にある。
イギリス訪問の目的は浮体式風車の研究者であるDr. Andrew Hendersonと面会し, 浮体式風車の情報、イギリスにおける洋上ウィンドファームの情報などを交換することである。また、小規模ウィンドファームBlyth Offshoreと、大規模洋上ウィンドファームNorth Hoyleの見学も計画していたが、調整がつかず断念した。そのため空いた時間でイングランド北部の都市New Castleに行き、New Castle大に滞在中の東海大学の砂原先生を訪問した。
11月28日から12月4日までの滞在で、晴れた日は少なく、冷たい雨の降る日が多かった。イギリスでのトラブルといえば、唯一、ホテルで小火騒ぎがあって避難させられたことぐらいである。消防車が4台来ていたが、放水もせず帰っていったので、用心のために来ただけだろうか。
Dr. HendersonとはRegent's Park(ロンドン北部にある市内最大の公園、ロンドンで最も美しい公園といわれている)の中にあるカフェでコーヒーを飲みながら話をすることができた。ここではイギリスにおける洋上展開の最新情報、イギリスで6GW以上を風力発電でまかなう計画を立てていることとその内容、Dr. Hendersonが働いているスペインでの事情、現在Dr. Hendersonが研究中の浮体式風車について等、さまざまな話題を5時間ほどかけて親切に話していただいた。またこちらの持っている計画についても情報交換を行い、意見を交わすことができた。
表1 主要国の風力による発電量1)
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Energy Markets (MW) |
Country |
1999 |
2000 |
2001 |
Germany |
4,442 |
6,107 |
8,734 |
USA |
2,445 |
2,610 |
4,245 |
Spain |
1,812 |
2,836 |
3,550 |
Denmark |
1,738 |
2,341 |
2,456 |
India |
1,035 |
1,220 |
1,456 |
Netherlands |
433 |
473 |
523 |
Italy |
277 |
424 |
700 |
UK |
362 |
425 |
525 |
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表2 主な洋上ウィンドファーム
Wind farm |
Country |
No. |
MW |
Blyth Offshore |
UK |
2 |
3.8 |
North Hoyle |
UK |
30 |
60 |
Middelgrunden |
Denmark |
20 |
40 |
Nysted |
Denmark |
72 |
159 |
Horns Rev |
Denmark |
80 |
160 |
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※MW: Capacity of Wind Farm (MW)
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写真1 Regent's Park
Dr. Hendersonと会った翌日、列車でNew Castleに向かった。出発駅のKings Cross駅で前々日に座席の予約をしたが、同じ客車の中に予約席のエリアと自由席のエリアがあり、座席の番号は同じというのは知らなかった。予約席のC-15と自由席のC-15は同じ客車の中にあるため、間違えてしまった。自由席に座っていたおばあさん、すいませんでした。
さて、New Castleでは、砂原先生にNew Castle大学の中を案内していただいた。学部長のAtilla Incecik先生を紹介していただいたほか、イギリス生活での苦労話や注意することなどをお聞きした。
ちなみに、New CastleはBlyth Offshoreからも近く、もう少し上手に調整すれば、ここからBlyth Offshoreを案内してもらうこともできたようだ。
オランダには12月4日から12月8日まで滞在し、デルフト工科大学、MARINを訪問した。MARINでの訪問先は風力発電とは直接関係していないが、個人的な興味から訪問することにした。
ここではDelft University of Technology/Faculty of Civil Engineering Section Wind Energy(DUWIND)のDr. ir. Michiel Zaaijerを訪問した。DUWINDで行われている研究の紹介や、今後の風車の発展について話を聞くことができた。風車の大型化に関すること、風車のブレード形状の研究についてなどが話題に上った。
大学はデルフト駅から徒歩20分程度の距離にあるが、そこまでの地図を持っていなかったため、駅で地図をもらおうとした。すると、窓口の人に観光案内所に行けと言われ、そこまでの地図を渡された。行ってみると、時間が早すぎたため、まだ開いていない。ちょうどいい時間つぶしになってしまった。
WaageningenにあるMARIN(Maritime Research Institute Netherlands)ではR&D Projects SectionのDr. ir. Rene Huijsmansを訪問した。浮体構造物の問題に関して意見交換を行い、また、水槽を見学した。最も新しい水槽の見学はできなかったが、それでもShallow Water Basin, Seakeeping and Maneuvering Basin, Offshore Basinを見学することができた。Offshore Basinの下部 (流れを発生させている部分)も見ることができたが、非常に巨大なもので、驚嘆した。その時期に行われていたFPSOに関する実験を見ることもできた。
デンマークには12月8から12月12日まで滞在し、Risø National Laboratory, Vestas本社および工場、大規模洋上ウィンドファームHorns Revを訪問、見学した。オランダでのMARIN訪問以降、日程が非常に窮屈になっている。
ここではWind Energy DepartmentのDr. Gunner C. Larsenを訪問し、ここの分野の研究者から20〜30分ずつ講義を受ける形で研究紹介を受けた。3次元CFD、風車間間隔の研究や風力発電のモニタリング、風車ブレードの破壊試験など、興味深いものを多く見ることができ、非常に有意義な訪問になった。こちらの質問にも丁寧に答えていただけ、貴重な情報を得ることができた。しかし、次の目的地に向かうために時間が限られており、急ぎ足の訪問になってしまったのが残念だった。Risø National Laboratoryでは実際の風車を使った各種の実験を行っており、敷地内でも風車を見ることができた。これらの施設を見学できなかったのが悔やまれる。
Copenhagenから国内線でBuillnd空港へ向かい、さらにタクシーで1時間ほどのRinkobingという町にVestas本社がある。Vestasは現在市場でトップシェアを占める風車メーカーである。Horns Revの見学後、Vestas社製風車、Horns Revに関する説明を受けた。また浮体式の風車についてもいくつか討論を行った。その後本社に隣接する工場を見学した。この工場ではギヤボックスを製造しており、巨大なナセルやギヤボックスが並んでいた。工場の裏には積み出しを待つ完成したギヤボックスが積み上げられていた。工場は比較的小さなもので、働いている人もそれほど多くはなかったが、非常に清潔だった。
Horns Revの見学が、今回の視察の大きな目玉となる。Horns Revはデンマークのユラン半島西部の北海沿岸に位置し、Vestas社製の2MW級の風車80本が海岸から14〜20km、水深10m程度の海域に設置されたウィンドファームであり、現在世界最大規模である。Vestas本社近くの飛行場から小型飛行機をチャーターし、Vestas社員と共に2時間弱のフライトとなった。海上に突然80基もの大型風車が現れるのはさすがに壮観だった。今回訪れた日は快晴で風も少なく、フライトは非常に快適だったが、風が弱いため風車はそれほど稼動しておらず、画像としてはそれほど面白いものは得られなかった。ちなみに写真の小型飛行機のチャーター代金は5,000デンマーククローネである。
写真2 チャーターした飛行機
写真3 Horns Revの様子
今回の海外派遣での感想や反省を述べたい。
まず反省点は、準備不足のために行きたいと思っていたところと連絡がつかず、訪問できなかったという点、また出発直前まで日程が確定しなかった箇所があり、現地でインターネットカフェを探して連絡をしなければならなかった点、後半の日程が非常に窮屈なものになってしまった点があげられる。英語での意思疎通はこれらとは別の問題として残った。
イギリス、オランダ、デンマークといった風力発電が盛んな国々を訪問して感じたことは、風力発電というものが一つの研究分野として確立していること、研究と実際の運営、製造などの体制が完全に独立していること、風力発電に対する関心は非常に高いが、日本と同様の反対意見もやはり存在することなどである。今回の訪問で得られた経験や知識が今後の研究の大きな助けになると思われる。
最後に、このような機会を設けていただいた造船学会および関係各位に深く感謝いたします。また訪問先ではいずれも非常に親切に迎えていただけた。これらの訪問先を紹介していただいた方々にも深く感謝いたします。
1) WIND FORCE 12: European Wind Energy Association.
* (財)日本造船技術センター
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