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 次回のOCEANS 2004は、テクノオーシャンとの合同開催行事として神戸で開催される予定である。国内はもとより世界へ向けて、海洋に関する魅力的な内容を発信するという意味では、非常に重要な機会として期待される。
 スクリップス海洋研究所では、約30年前に建造されたというROVと、舳先を90度上空へ向け船体ほとんどを海中に沈めた状態で作業を行うことで有名な海洋観測船「FLIP」を見学させていただく機会を得た。自分の年齢と大差のないROVを目の前にして、先達への敬意を感じると同時に、新しい時代を担うべき立場を考えると自身の襟元を正される思いがした。このROVにしてもFLIPにしても、米国においてそのような昔から現実的に物を作り、実際の海で磨き上げてきた実績は大きいと感じた。
 最後に、訪問の順番は前後するが、サンディエゴの前にモンタレーに宿泊し、モンタレー湾水族館研究所(Monterey Bay Aquarium Research Institute: MBARI)を訪問させていただいた内容について報告する。
 MBARIは私設非営利の研究機関として1987年にHewlett-Packardの創立者の一人であるDavid Packard氏により設立されており、海洋に関するサイエンスとエンジニアリングの両分野をカバーしている。モンタレー湾のモスランディングという場所に太平洋に面して施設が存在し、すぐ裏手(内陸側)に観測船の係留施設がある。MBARIからモンタレー湾を望むと、直前の海底から巨大な渓谷が存在しており、研究施設から観測船が出発してわずか数時間で3千メートル級の海域へ到達できる。海洋に関する研究施設としては絶好のロケーションにあるといえる。周辺には発電所以外に目ぼしい施設は見当たらず(何も無いといったほうが適当か?)、多少さびしい場所ではあるが、施設内の研究室から見ると、眼前には白い砂浜と広大な水色の海が広がり、こんなところで研究してみたいと思わせるものがあった。
 
写真5 
スクリップス海洋研究所からラホヤの海岸を望む
 
写真6 
約30年前のROV。スラスタは油圧駆動とのこと
 
写真7 
倒立して観測をおこなう海洋観測船「FLIP」
 
写真8 
MBARIのある研究者の部屋からモンタレー湾を望む
 
 同所の研究者と研究に関する情報交換を行った後、施設の見学をさせてもらった。AUVのチームにはハードウェアおよび想定するミッションの解説をしてもらったが、複数の科学研究者が同じAUVを使うために、AUVのペイロードはモジュール化されており、部分的な入れ替えで異なるミッションをこなせるような工夫がされている。将来のビジョンとしては、北極海の海氷下を横断しながら観測を行うシステムを提案している。非常に長距離かつ長時間のミッションとなるので、AUVに複数のブイを搭載し、このブイに定期的にデータセットを仕込んで海氷へむけて打ち上げる。このブイに氷を溶かしながら浮上する機能を持たせておき、表面まで到達したら衛星回線を開いてデータを転送するという夢のある計画である。いつまでに完成させる予定なのか尋ねると、予算次第だという答えが返ってきた。
 
写真9 
モジュール化されているAUV
 
写真10 
MBARIの各研究室に置かれているモニタにはROVの海底作業風景がリアルタイムで映し出されている
 
 MBARIで非常に関心を持ったのは、観測船の行動領域が近海であるために、船上のカメラや水中でオペレートしているROVカメラのライブ映像を研究施設内でリアルタイムに見られることである。観測船と施設間は山上に設けられたレピータを介して電波で双方通信が可能になっている。研究室にいながらにして、ROVの作業を遠隔指示できるというわけである。通信はモンタレー湾水族館でも行えるらしく、一般に開放される場合があるという。このような実際的な海洋観測を目の当たりにできる環境を提供していることは、未来を担う子供たちへの教育としてもすばらしいと感じた。同様の画像がホームページにも公開され、観測船の現在位置も分かるようになっている。これらはhttp://www.mbari.org/cruises/both.aspで見ることができる。
 もうひとつ、MBARIで出会った研究者との交流の中で感じられたのは、彼らがMBARIを好きであり、誇りに思っているということである。何よりも良いものを見せてもらったという気がした。
 今回このような貴重な体験をさせていただいた造船学会および関係各位に心から感謝の意を表しながら、報告を終える。







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