第15回国際船舶海洋会議(ISSC 2003)出席報告
日本造船学会 構造・材料研究委員会 JSSC委員会
第15回国際船舶海洋構造会議(ISSC 2003)はアメリカSan Diego市にて2003年8月11日から15日まで開催された。ここに、その概要を述べる。
ISSCは3年ごとに開催されており、前回2000年は日本造船学会が主催で長崎にて開催された。今回は、ChairmanがAlaa E. Mansour教授(UC Berkeley), SecretaryがR. Cengiz Ertekin教授(Univ.of Hawaii)で、参加者数は230人(事前登録のみ)であった。
本会議の目的は船舶、海洋構造物に関する荷重、応答、強度および設計に関する諸問題について、テーマ別に構成された16の技術委員会による報告書の発表、およびその内容に関して討論を行うことである。報告書は、前回の会議から3年間の研究動向を調査するとともに、今後の研究に関する勧告を行うこととなっている。
会議は海軍の街として有名なSan Diegoのダウンタウンに位置するUS Grant Hotelにて開催された。US Grantホテルは南北戦争で活躍した有名なGrant将軍(後にアメリカ大統領)の息子が始めたホテルで、歴史がある反面、設備等は多少老朽化している。エレベータは4基もあるにもかかわらず、ボタンを押してもなかなか来ない。
San Diegoのダウンタウンは小ぎれいで、安心して歩ける雰囲気である。このような街はアメリカの大都会としては珍しいが、聞いたところによればSan Diegoのダウンタウンも一時はスペイン人の流入などで荒廃していたのを、市の努力でこのような状態にしたと言うことである。特に、会場のホテルのすぐそばのガスランプクォーターは高級レストランやナイトクラブが建ち並ぶエリアで、週末ともなると夜遅くまで賑やかであった。
会議の形式に関しては、ほとんど前回日本が提案した新システムを踏襲した形となった。今回SecretaryのErtekin教授の多大な努力によって、あらゆるデータが整理された形でインターネット上に掲載され、大幅な事務量減少が図られたことは特記すべきである。理事会での議論もコンピューター上の最新データをもとに進められ時間の大幅な短縮となった。インターネットを用いた事前のレポートの公開、およびWritten Discussionの電子的な提出により、従来にくらべ事前に参加者がレポートに対する検討を深く行うことが可能になり、議論も活発に行われるようになった。全体に渡って、日本からのDiscussionは非常に盛んであった。喜ばしいことである。
写真1 会場となったUS Grant Hotel
写真2 ディナークルーズ
木曜日のバンケットは、ディナークルーズであった。日が沈むまではデッキでシャンパン片手に語り合い(写真2)、日が沈んでから着席ディナーとなった。Mansour先生ご夫妻が入り口で一人一人に握手してくれたのが印象的であった。なお、ワインはISSC 2003特注(写真3)であった。前回の日本開催では、レセプションやバンケットで様々な方々の挨拶やアトラクションをたくさん用意し、同伴者プログラムなども盛りだくさんであったが、今回は非常にあっさりしたもので、アメリカ流かなという印象であった。
写真3 ISSCワイン
予定されていた海軍基地の見学が、諸事情により取り止めになったのは非常に残念であった。
次回のISSCはイギリスのSouthamptonで行うことが決まっており、最終日に次期のCommittee Memberの発表が行われた。開催国の特権(?)でアメリカの委員がかなり増えているのが目に付いた。新Committeeのミーティングが行われ、解散となった。
ISSCは技術展開の指針や研究の方向付けを行うだけでなく、構造に関するトップレベルの専門家集団の集まりとして、IMO等で行われている規則作成に対する意見や提案を述べることが期待されており、それを実行することにより今後ますますその存在意義が増して行くと考えられる。
(大坪英臣)
理事会は、下記議題について晩餐会の行われた木曜日を除き会期中毎日開かれた。今回SecretaryのProf. Ertekinが体調を崩し急遽欠席したため混乱を心配したが、同じハワイ大学のPro. Riggsとデンマーク工科大学のProf. Jensenが代役を務め、スムーズな会議運営ができた。また、技術委員会委員長との合同会合や非理事国の連絡委員(correspondents)との合同会合も開かれた。主要議題は
1. ISSC 2003技術委員会活動報告とProceedings第3巻出版予定
2. ISSC 2003技術委員長の活動実績評価
3. ISSC 2006理事交代等の人事
4. ISSC 2006技術委員会への作業指示と委員人事
5. ISSC 2006理事会への引継
であった。特に、技術委員人事の決定には長時間を要し、最終決定の会議は深夜1時近くに及んだ。
表1 ISSC 2006理事会
Chairman: |
Dr.P.A. Frieze |
UK |
Prof. B. Boon |
Netherlands |
Prof. W. Cui |
China |
Dr. W. Fricke |
Germany |
Prof. C.D. Jang |
Korea |
Prof. T. Jastrzebski |
Poland |
Prof. J. J. Jensen |
Denmark |
Dr. H.O. Madsen |
Norway |
Prof. A. Mansour |
USA |
Mr. M. Olagnon |
France |
Dr. N. Pegg |
Canada |
Dr. R. Porcari |
Italy |
Prof. Y. Sumi |
Japan |
Secretary: |
Prof. R.A. Shenoi |
UK |
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ISSC 2003の技術委員会活動について
各技術委員会委員長から当該委員会の任務達成状況が、委員会開催回数、委員出席状況とともに報告された。また、次期技術委員会人事との関連で、技術委員の適格性並びに次期委員会委員長候補者が報告された。
ISSC 2006の開催について
ISSC 2006は英国Southamptonで開催され、ChairmanはDr. P.A. Frieze, SecretaryはProf. R.A. Shenoiである。
ISSC 2006の理事会について
次期理事会構成は表1に示す通りである。理事国構成については、ロシアの加盟について議論があったものの、現状の寄与があまりに少ないので今後の活動実績を見てから検討することとなり、現状維持となった。理事の交代は5名で以下の通り
イタリア:Dr. M. DoglianiからDr. R. Porcariへ
中国:Prof. Y.S. WuからProf. W. Cuiへ
ノルウェー:Prof. T. MoanからDr. H.O. Madsenへ
フランス:Prof. J.L. ArmandからMr. M.Olagnonへ
日本:大坪英臣教授から角 洋一教授へ
今回の理事会では、規約の改正は行われなかった。
ISSC 2006の技術委員会体制について
次期の16の技術委員会構成は表2のようにすでに前回中間理事会で決定している。基盤技術課題を扱うTechnical Committeeには変更がない。2期6年を時限とするSpecialist Committeeは今回新たにV.4 Ocean Wave and Wind Energy Utilization, V.5 Naval Ship Design, V.6 Condition Assessmeent of Aged Shipsの3委員会が発足した。V.4はISSCとして新分野の開拓を目指すものであり、成果の取りまとめが期待されている。V.5は、最近各国の船級協会で艦艇設計に対応する船級規則が制定されてきたことに対応するもので、欧米から強い要望があったものである。V.6に関しては、サブスタンダード船対策などでIMO等の国際機関での経年船問題の議論が、しばしば過度に政治的に扱われるのに対して、ISSCが純技術的にどのようなコンセンサスを導きうるか期待が持たれる。Special Task Committeeは特定の設計手法に対してベンチマーク計算などの作業を行い、各手法の精度、適用範囲を明らかにする設計ガイド的なものを目指している1期3年の委員会である。次期委員会としてはVI.1 Reliability Based Structural Design and Code DevelopmentおよびVI.2 Vely Large Floating Structuresが発足する。VI.1については、ノルウェーのイニシアティブで船舶およびFPSO船体の構造設計規則の評価が行われることになろう。VI.2は鈴木英之東大教授が委員長を務め、日米のイニシアティブで大型浮体の設計手法が扱われる。通常の技術委員会は各国から1名の委員で構成されるが、本委員会は、対象が日本のメガフロートと米国のMOB(Mobile Offshore Base)となることから委員10名中日本4名、米国3名という例外的な委員構成が理事会で認められた。
表2 第16回国際船舶海洋構造会議(ISSC 2006)委員会構成と日本委員一覧
(*:委員長)
Standing Committee |
理事 |
角 洋一(横国大) |
|
Technical Committee |
技術委員会 |
委員 |
I.1 Environment |
環境 |
冨田 宏(海技研) |
I.2 Loads |
荷重 |
河邊 寛(海技研) |
II.1 Quasi-Static Response |
準静的応答 |
田中義照(海技研) |
II.2 Dynamic Response |
動的応答 |
修理英幸(ユニバーサル造船) |
III.1 Ultimate Strength |
最終強度 |
矢尾哲也(大阪大)* |
III.2 Fatigue and Fracture |
疲労と破壊 |
大沢直樹(大阪大) |
IV.1 Design Principles and Criteria |
設計思想 |
荒井 誠(横国大) |
IV.2 Design Methods |
設計手法 |
賀田和夫(川崎造船) |
|
Specialist Committee |
専門委員会 |
委員 |
V.1 Collision and Grounding |
衝突と座礁 |
鈴木克幸(東大) |
V.2 Floating Production Systems |
浮体生産システム |
|
V.3 Fabrication Technology |
建造技術 |
武田 裕(石播重工)
今北明彦(三井造船) |
V.4 Ocean Wave and Wind Energy Utilization |
海洋波と風エネルギー利用 |
黒岩隆夫(三菱重工) |
V.5 Naval Ship Design |
艦船設計 |
金子博文(防衛庁) |
V.6 Condition Assessment of Aged
Ships |
経年船の状態評価 |
山本規雄(海事協会) |
|
Special Task Committee |
特別タスク委員会 |
委員 |
VI.1 Reliability Based Structural
Design and Code Development |
信頼性構造設計と規則開発 |
重見利幸(海事協会) |
VI.2 Very Large Floating Structures |
超大型浮体構造 |
鈴木英之(東大)*
藤久保昌彦(広大)
瀬戸秀幸(防衛大)
安澤幸隆(九大) |
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この16の新技術委員会の委員人事は、本会議中の理事会の最重要議題である。現委員については、技術委員長が理事会に提出する委員評価表をベースに評価が行われる。委員長の評価が低いと次期委員に選ばれることはまず無理である。最良の評価を得るには、資料収集に協力するだけでなく報告書のChapter lead authorとなり1つの章を書き上げるとか、ベンチマーク問題を設定し参加者の結果集約を行うなど積極的に委員長を補佐する姿勢が重要であろう。また、中間委員会に出席し技術委員会の方向性について一定の意見を常に述べる姿勢が重要である。オブザーバについては、提出された履歴書(CV)をベースに本会議における討論内容も踏まえて評価が行われる。今回、主催国米国からの新委員が突出して多い印象があったが、基本的には、パーフォーマンスベースのかなり透明性のある委員人事がなされうるシステムとなっている。
ISSC 2006理事会
最終日の金曜午後に理事会引継ぎが行われ、理事会として本会議主催者のProf. Mansoourおよび大坪教授をはじめ今期で退任する5名の理事に対する謝意が述べられた。また、健康状態の問題で欠席したSecretaryのProf. Ertekinに対する病気回復の希望と謝意が述べられた。
引き続き行われた新理事会では、今後のISSCの役割と運営のあり方について以下の議論が行われた。
・ISSCと一般の国際会議との相違を明確にし、その役割を再定義する必要性があるのではないか
・ISSCとして外部の海事関係国際機関、例えばIMO, IACS等に国際学術団体として積極的に意見表明する役割を持つべきではないか
・固定した事務局を持つことのメリット・デメリットの検討が必要ではないか
・Special Task CommitteeのテーマとしてIMOの課題を採りあげてはどうか
・Special Task CommitteeをISSCとしての財政的支援の枠組みなしにどのように継続するか
これらの論点は、今後の本会議の性格付けに関するかなり重要な問題も含んでおり継続審議される。特に、学会とIMO等外部機関との連携は、メンバーに個人的にはかなり重複があることでもあり、積極的に対応していく必要があると思われる。
その他
正式議題とはならなかったが、韓国理事のProf. C.D. Jangより本会議の2009年開催国としての立候補の意思表明があった。本件は、次回中間理事会の主要議題となる。次回中間理事会は、2004年に開催されるPRADS 2004にあわせて、9月にドイツで開催されることとなった。
(角 洋一)
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