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国際会議出席報告
ISSC 2003出席報告
 
正員 鈴木克幸*
 
 平成15年8月11日から15日まで、ISSC 2003(15th International Ship and Offshore Structures Congress)がアメリカのSan Diegoで開催された。筆者も日本造船学会の国際学術協力に係わる海外派遣の助成を受け、オブザーバーとして参加させて頂いた。
 前回のISSCは2000年に長崎で開催され、小生も大坪議長の近くにいた関係上、頻繁に長崎と東京を往復したのを覚えている。ISSCの本会議では、前回の会議からの3年間で各技術委員会がまとめたレポートを報告し、それをもとに議論をするのが目的である。今回の会議でも、前回のISSC 2000で初めて導入された、レポートの電子的な事前回覧およびDiscussionの事前提出、具体的な提言をするSpecial Task Committee, Specialist CommitteeのDiscussionをパラレルに行うなど、前回を踏襲した形であった。
 Committee V-3(Collision and Grounding)に関しては、全体報告が今月号に掲載されており、小生が担当しているため繰り返しになるのでそれを参照されたい。ISSCは、あくまで技術に関する議論をする学術会議であるが、船体構造に関する技術的な報告はしばしばIMO等の国際的な場において規則作りの際の基礎資料になる。そのため、レポートをまとめる委員、議論する人々もそれぞれの利害関係を必然的に意識せざるを得ない。特に、衝突、座礁に関してはアメリカによるタンカーの二重船殻構造の強制化、その後のIMOにおける機能要件の採用など、非常に政治的な要素が絡んでくる。特に、衝突、座礁というのは通常航行時とは異なる非常事態であり、実際の事故のケースもそれほど多くないため、ある程度の仮定をおかざるを得ない。今回も、二重船殻構造を強固に推し進めたUS Coast Guardの役人が、Discussionにおいて二重船殻構造の優位性を滔々と説明していた。また、今回のOfficial Discussionでも議論になっていたのは、衝突・座礁の確率密度分布(Probability Density Function)をどのようにして求めるかであった。完全に客観的に確率密度分布を求めることは困難で、必然的に恣意的な解釈を入れざるを得ないのが大きな問題である。
 また、今回は来年東京で開催予定の船舶の衝突・座礁に関する国際会議(3rd International Conference on Collision and Grounding of Ships: ICCGS 2004)の準備、宣伝という役割もある。メールになかなか返事をくれない人も、直接顔を合わせてお願いすればすぐに了解してくれるので非常に効率がいい。また、その分野の主たる研究者たちが多く参加しているため、宣伝効果も見込める。一応委員長に事前に了承を得た上で、Discussionの時間に会議の宣伝をさせてもらった。
 ISSCは、ある意味船舶海洋の構造という限られたコミュニティーの人間の集まりであり、会議に参加する委員も顔見知りが多い。また、委員として参加するとその委員会の人たちとは当然事前に少人数で何度か顔を合わせることとなる。そのため、Coffee Breakの間の議論も非常に盛んであった。
 小生も、次回のISSCからは委員として参加することになった。学術的な側面のみでなく、様々な意味で造船業界のために微力を尽くしたいと思う。
 

*東京大学新領域創成科学研究科
 
 
 
 
正員 川村恭己*
 
 第15回国際船舶海洋構造会議ISSC 2003(International Ship and Offshore Structures Congress)が、2003年8月11日より15日まで、アメリカのサンディエゴにて開催された。筆者は、日本造船学会より本会議へ派遣された。ISSCは3年に一度開催される国際会議で、通常の学会のような研究発表を行う会議ではなく、船舶海洋構造に関する16の分野におけるここ数年間の進展状況を調査報告し質疑応答を行うという形で会議が進められる。そのために、ISSCが開催される前の3年間を期間とする各分野に関する委員会が組織され、論文レビューや調査・研究が行われ、報告書1)にまとめられる。委員会は、全体の運営を行うStanding Committeeの元に、Technical Committeeと呼ばれる8つの常設委員会と、3年毎に変更される6つのSpecialist Committee、及び、ベンチマーク計算等のタスクが課される2つのSpecial Task Committeeから成る。各委員会には各国から計10人程度の研究者・実務者が参加し、3年間で調査・研究した成果を発表する。会議参加者としては、これらの委員会のメンバーの他、次期委員会のメンバー候補らがオブザーバーとして参加する。ISSC 2003では、世界中から約220名が参加していた。今回、私はオブザーバーとして会議に参加することかできた。各委員会の詳しい内容についてはISSCの本会議の報告として本誌に掲載されるので、ここでは、主に私自身が会議に参加して興味を持った内容や感じたことを述べる。
 本会議は、Standing Committeeの委員長であるCalifornia大学San Diego校のMansour教授のスピーチによるOpeningセレモニーで始まり、各委員会の報告、及び、報告に関する質疑応答が行われた。IV.2 Design Methodの委員会では、造船設計プロセスの現状と最近の進歩について、特にIT技術との関連性の観点からレポートしていた。また、NAVYや海洋構造物における設計技術の進展や、最新のCAD/CAMソフトウェアのレビューに関する調査結果などが提示された。特に興味深かったのは、Maintenance and Repair Process(メインテナンスと修理)に関するレポートがDesign Methodの委員会にて報告されていたことである。すなわち、造船の分野においても、Life Cycle ManagementやLife Cycle Designの概念の重要性が強く認識されているということである。筆者は、このようなLife Cycle Data ManagementにおいてSTEP(ISOの船舶データの標準規格)等によるデータ獲得手法の重要性に関して討論した。IV.1 Design Principle and Criteriaでは、リスク解析に基づいた設計の考え方や不確実性の考え方、及び、Life Cycle Costの解析の考え方についてレポートされ大変興味深かった。またその他では、V.1 Risk AssessmentにおけるFSAに関する報告や、Keynote AddressにおけるABSのDr. Liuによる船級協会の役割等についての議論が印象に残った。
 
写真1 湾内クルーズバンケットの様子
 
 今回ISSCの本会議に参加して感じたのは、構造分野における現在の動向が幅広く把握できるという点である。通常の学会や会議等においては、最新の研究成果を見ることによる専門的な知識の獲得が主な目的となる。一方、ISSCでは、構造に関する各分野における進歩状況や課題について議論されるとともに、新しい委員会の設立などが行われ、今後の研究や業界の方向性について議論されているように思う。日本国内においても、船舶海洋工学分野において、今後の業界や研究の方向性等を議論し公に広く示す場が必要なのではないかと感じた。また、会議では、筆者が5年ほど前に訪問したデンマーク工科大学にてお世話になった先生や研究者に会うことができた。今回、筆者はISSCの委員会メンバーとして参加することはできなかったが、このような国際会議のメンバーとして活動に参加することは、国際交流の場として、また、今後研究者としての国際活動の基盤を作る上で大変重要であると感じた。
 今回の国際会議への参加は、私のような若手の参加者にとって、知識や観点を広げたり国際交流を行う上で、大変有意義であったと思う。次回は、イギリスのサザンプトンにて会議が開かれるとのこと、可能なら是非参加したい。
 

*横浜国立大学大学院
 
参考文献
1) A.E. Mansor and R.C. Ertekin (Eds): Proceedings of the 15th International Ship and Offshore Structures Congress, Vol.1, Vol.2, 2003, Elsevier.
 
 
 
 
正員 後藤浩二*
 
 日本造船学会の国際学術協力に係わる海外派遣の一環として、平成15年8月11日から15日まで、アメリカ合衆国サンディエゴ市において開催されたISSC 2003(15th International Ship and Offshore Structures Congress)に出席する機会を与えて頂きましたので、ここに報告させて頂きます。
 私はObserverという立場で、ISSCの各技術委員会でこの三年間の討議を踏まえて取り纏められた報告発表に出席すると共に、必要に応じて討議を行うということが、会議出席の目的でした。ISSCの技術委員会には、船舶・海洋構造物の構造強度に関する種々の委員会がありますが(委員会構成などはJSSC委員会からの会議報告記事を参照願います)、私自身は主たる研究分野に関連する、Technical Committee III.2(Fatigue and Fracture)とSpecial Task Committee VI.2(Fatigue Strength Assessment)の委員会報告に特に関心がありました。ISSC 2003では、会議前からWebにより報告書を入手できる体制が準備されていたために、特に上記二つの委員会報告に関しては事前にダウンロードして目を通すことで、討論すべき内容があるかをあらかじめ検討した上で会議に出席することができました。
 Technical Committee III.2の報告内容は2000年から三年間のState of the artが中心で、特筆すべき内容はなかったため、この技術委員会の活動はさほどアクティブではなかったのだろうと思いました。一方Special Task Committee VI.2の報告書では、疲労強度評価に関して具体的な計算例が示されつつ、疲労強度照査の現状と今後の進むべき道が記述されていましたが、私自身が考える当該分野の展望とは若干異なる内容が記載されていましたので、Special Task Committee VI.2の報告書に対する討論を行いました。
 Special Task Committee VI.2の報告書では、疲労強度評価法としてHot spot stressによるS-N線図と累積損傷被害則を用いる方法と、破壊力学による方法が記載されていましたが、報告書及び本会議での委員会報告を聞く限り、前者の手法が今後も主流の座を占め続けるのかとの印象を受けました。S-N線図と累積損傷被害則による疲労強度評価手法では荷重履歴の影響を考慮できない事や、実際の破壊事故解析の結果として累積被害度Dにはかなり大きなばらつきが生じている(Miner則は成立していない)事等を勘案すれば、確かにS-N線図とHot spot stressによる方法については多数の経験による蓄積があるものの、これに固執することなく破壊力学手法を積極的に導入すべきと考えており、このような主旨の討論を行いました。
 後者の手法に関しては、Special Task Committee VI.2委員である大阪大学の冨田先生による具体的な適用例が報告されていましたが、他には具体的な記述・報告は見られませんでした。この現状は、破壊力学による疲労強度評価手法を日本が世界をリードして発展させることで、日本発の船舶・海洋構造物における疲労強度評価規格・安全評価手法として確立し、他国に対するadvantageにできる可能性を示唆しています。
 この例に限らず、ISSCの委員会報告内容を照査することは、日本の造船業界が他国に対するadvantageを有するために進むべき方向を模索することに繋がると考えられるので、学会としてISSCのような国際会議により積極的に寄与することは、日本造船業のグランドデザイン設定に貢献するために有用であろうとの印象を受けました。また、良い意味でISSCを利用することで、日本の造船界にとって有利な造船業界の国際的“環境”を醸成することも可能であろうとも思いました。
 ISSCのような国際会議に参加するもう一つの重要な目的として、国際的な人脈作りがあると思います。ISSCに参加するためには、各国から推薦され理事会で承認を受ける必要があるため、各国の関連研究の第一人者や将来的に活躍が期待される研究者が多数参加しており、ISSCを通じて彼らと人脈を築いておくことは、極めて有用であると思います。
 以上は、ISSCの会議そのものに対する報告ですが、会議開催地であるSan Diegoについての感想も簡単に述べさせて頂きます。San Diegoはアメリカをいや世界を代表する海洋タウンの一つです。湿度の低い爽やかな気候のせいもあり、いわゆるウォーターフロントを散策するだけで、船舶や海洋に対して好印象を感じずにはいられません。ISSCのBanquetも観光船(写真参照)で夕方から湾内クルーズを楽しみながら行うという演出であり、このような心遣いも船舶や海洋が人に密接に関わっている街だからこそ可能なのかなあと感じました。日本でも確かにウォーターフロント開発は至る所で行われていますが、どうも何かが違うようで、爽やかな気候や外国にいるという気分を割り引いたとしてもSan Diegoが船舶や海洋に与える好印象を我々に与えてはくれない気がしました。単に街並みに「海」の雰囲気を与えるだけでは不十分なんだろうと思います。San Diegoの海洋博物館で(大学の製図室に展示させてもらうために)帆船のLinesを購入しましたが、日本では自分が知る限りLinesをお土産として購入できる所はありません。こんな所に、日本のウォータフロント開発の不十分さが現れているような気がしました。日本にもSan Diegoのように、本当の「海のにおい」のする街があれば、学生(特に高校生以下)の船舶・海洋、ひいては造船に対する関心も自然と高まるのではないかとも思いました。
 
写真 Banquetが行われた湾内クルーズ船
 
 最後に、ISSC 2003出席という大変貴重かつ有意義な機会を与えて頂きました、造船学会、ISSC 2003理事の東京大学大坪先生を始めとするISSC関係者各位に厚く御礼申し上げて報告とさせて頂きます。
 

*九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門







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