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12-2 経済分析
12-2-1 利用者の便益
 本分析は、幾つかの航路ではRO-RO船の運航採算性を保つために必要な貨物運賃が、潜在的な利用者が許容でき得る最も高い貨物運賃よりも大幅に低い場合もあることを示している。この2つの値の違いは、利用者は期待していなかった利益を得ることを示す。利用者の平均純利益(weighted average net benefit)は103.7バーツ/トンと試算される(関連の計算を表12-17に示す。)。収益の見込める全航路で予測した最大限の市場シェアが確保できるならば、利用者の総純利益は約4億360万バーツになる。
 
表12-17: 事業実施による利用者の便益の積算
利用者の便益 航路
1 2 3 4 5 6
必要最低限の貨物運賃 283 350 367 432 334 552
達成可能な貨物運賃 284 341 540 360 470 671
利用者の便益/トン 1 0 173 0 136 119
市場規模(1,000トン) 24,669 3,337 4,982 760 328 490
達成可能な市場シェア 5.20% 42.20% 48.80% 8.50% 12.60% 8,20%
最大貨物量(1,000トン) 1,283 1,408 2,431 65 41 40
利用者の便益合計(1,000バーツ) 1,475 0 421,535 0 5,584 4,760
貨物1トンあたりの便益(バーツ) 114.2
 
12-2-2 エネルギー
 沿岸海運は道路輸送より遥かにエネルギー効率が良い。国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)はトラック輸送と海上輸送の平均燃料効率の試算を公表している。この“道路輸送では燃料1リットルあたり25トン・キロメートル、海上輸送では217.6トン・キロメートル”とした試算結果をタイにおけるRO-RO船運航の導入によって得られる達成可能な省エネルギー効果の試算に利用した。
 
表12-18: 事業実施による省エネルギー効果の試算
エネルギー 航路
1 2 3 4 5 6
航続距離(km) 320 540 730 250 430 620
達成可能な最大貨物量(1,000トン) 1,283 1,408 2,431 65 41 40
燃料消費量−海上(kl) 1,887 3,494 8,155 75 81 114
陸上距離(Km) 550 644 950 650 823 1,129
燃料消費量−陸上(kl) 28,226 36,270 92,378 1,690 1,350 1,806
モーダルシフトによる燃料節約量(kl) 26,339 32,776 84,223 1,615 1,269 1,692
貨物1トンあたりの平均節約量(l) 28.1
最大節約量(kl) 147,914
最大総節約額(百万バーツ) 2,145
 
 道路輸送から今回分析を行ったRO-RO船航路への貨物シフト1トンにつき、平均約28.1リットルの燃料節約になると考えられる。もし達成可能な最大市場シェアを実際に確保することができれば、1年あたり147,914キロリットル節約できる計算となる。
 この燃料節約量は最大で約21億4千5百万バーツ/年となる。
 
12-2-3 道路維持費用
 道路舗装への損傷の大部分は重量の大きいトラックによるものである。過積載のトラックが1台通過することによる車道への損傷は、1,000台の車あるいは軽量のピックアップトラックが通過したのと同様である。従って、海上輸送が増えれば多額の道路維持費用を節約することができる。その上、未だタイには有効な道路利用料金制度が無いため、重車両によって道路舗装に生じた損傷は、これらの車両に賦課される料金に適切に反映されておらず、従って道路貨物運賃にも含まれていない。このため、沿岸輸送よりも道路輸送が有利となっており、歪んだ市場の要因となっている。
 他の報告によると、1キロメートル当たりの道路維持費用は10輪のトラックで0.53バーツ、18輪のトラックで0.95バーツとなっている。この調査で対照となったのは貨物量が法定制限内のトラックである。しかし、多くのトラックが明らかにこの制限を遥かに超えた貨物を積んでおり、実際には10輪トラックの場合20トン、18輪トラックトレーラーの場合30トンまで積まれているといわれている。道路の損傷は軸荷重が上がるに従い急速に上昇し、通常経験値から軸荷重の4倍に比例するといわれている。報告のあった過剰積載レベルでは道路損傷費用は条件により2〜3倍に増えることもある。
 本計画書で使用した平均積載荷重、RO-RO船サービスを利用すると予測できる各種トラック及び、過積載が蔓延していること等を考慮して、全平均道路損傷費用を1トン・キロメートルあたり0.074バーツと想定した。
 これを各予定航路の特性に適用すると、沿岸輸送に移行することによって貨物1トンあたり54バーツの節約になる。達成可能な最大限のモーダルシフトが実現されれば合計で年約3億2千万バーツの節約が可能となる。
 
表12-19: 事業実施による道路維持費用の節約試算
道路維持費 航路
1 2 3 4 5 6
陸上距離(Km) 550 644 950 650 823 1,129
達成可能な最大貨物量(1,000トン) 1,283 1,408 2,431 65 41 40
道路維持費節約(1,000バーツ) 52,218 67,100 170,899 3,127 2,497 3,342
貨物1トンあたり平均節約額 56.8
総道路維持費節約額(百万バーツ/年) 299.2
 
12-2-4 道路渋滞費用の節約
 日本の東京のデータを引用すると、道路渋滞による機会損失費用は下記のとおりである。
 
地域:東京都内道路高速道を含む
現在平均速度:18km/h
渋滞が無い場合の速度:30km/h
平均交通量:2億7百万台
平均走行距離:51km
平均速度が18km/hから30km/hに改善された場合の走行距離は51kmにて68分の時間節約になる。
 
渋滞時間の節約による機会損失費用:3,700円/車1台/日
その他車両維持費用の節約:2,800円/車1台/日
 
 これらのデータをバンコクに当てはめ、以下の条件を決定した。他の報告書では道路輸送から沿岸輸送へ移行される貨物1トンあたり、渋滞費用31バーツ/トン、道路事故コストで13バーツ/トンの削滅となり、合計で44バーツ/トンの節約になるとしている。
 
現在平均速度:11km/h
平均交通量(トラック):370万
平均速度が11km/hから30km/hへ改善された場合の節約時間は107分となる。
この結果機会損失費用の節約は:44バーツ/車1台/日
 
 RO-RO船運航による達成可能な最大貨物量は年5,268,100トンと想定され、この数値は道路貨物輸送の約1.3%であることから、機会損失費用の節約は以下のように計算される。
 
370万台×44バーツ×365日×0.013×0.54(バンコクの対全国車両比率)
=4億1千7百万バーツ/年
 
 仮に、この値を採算性のある各航路の達成可能な市場シェアに適用すれば年間総節約額は4億1千7百万バーツである。
 
12-2-5 その他の経済的便益
 その他の本事業実施により生ずる経済的便益は次の項目を含み、貨幣価値に換算することが難しい。
 
(1)公害
 表12-20は沿岸RO-RO船サービスを導入した場合の大気汚染への潜在的な排出削減効果をまとめたものである。この表に含まれている特定の排出率は前出のESCAPの調査から引用したものである。
 本表は、貨物1,000トンを道路輸送からRO-RO船に移行した場合の汚染物質の減少量を下記のとおり示している。
・炭化水素 109kg
・一酸化炭素 339kg
・各種窒素酸化物 1,908kg
 
 徴粒子や亜酸化窒素など、主として局所的に排出されるものについては、沿岸輸送の場合環境汚染は人口の密集地域から離れた場所で発生する為、この点でも道路輸送に比べてメリットがある。
 
表12-20: RO-RO船導入による公害の潜在的減少量
公害 航路 排出率
(g/トン・キロ)
1 2 3 4 5 6
航続距離(km) 320 540 730 250 430 620  
達成可能な量大貨物量(1000トン) 1,283 1,408 2,431 65 41 40  
炭化水素排出量−海上(kg) 9,443 17,487 40,816 374 405 570 0.023
一酸化炭素排出量−海上(kg) 20,939 38,776 90,506 829 899 1,265 0.051
窒素酸化物排出量−海上(kg) 55,015 101,883 237,800 2,178 2,362 3,323 0.134
道路輸送距離(km) 550 644 950 650 823 1,129  
炭化水素排出量−陸上(kg) 112,198 144,174 367,203 6,718 5,365 7,180 0.159
一酸化炭素排出量−陸上(kg) 338,712 435,241 1,108,536 20,280 16,197 21,677 0.48
窒素酸化物排出量−陸上(kg) 1,824,811 2,344,861 5,972,238 109,259 87,259 116,784 2.586
単価水素の減少量(kg/1000トン) 108.9
一酸化炭素の減少量(kg/1000ton) 339.3
窒素酸化物の減少量(kg/1000トン) 1,908.2
潜在的減少量−炭化水素(トン/年) 573.7
潜在的減少量−一酸化炭素(トン/年) 1,787.4
潜在的減少量−窒素化合物(トン/年) 10,052.6
 
(2)交通事故
 2000年の交通事故統計によると、約12,000件の重大な事故が発生している。統計の内死亡事故に係わるものは記載が無いが、道路輸送から海上輸送へのモーダルシフトによりこのような交通事故の可能性を数パーセント程度削減できるものと思える。
 死亡事故の補償額は事故のケースにより様々であり、この計算は実施していない。
 
表12-21: 2000年における交通事故
  交通事故数 負傷者数 重傷者数
道路 73,737 53,111 11,988
 
12-2-6 総経済的便益
 経済分析の結果に基づくと、公害の低減による便益及び交通事故による人名及び資産の損失の減少による便益のみを考慮しただけでも事業の経済的内部収益率は28.6%を返し、一般的に言われている経済指標の15%を大きく上回っている。
 
表12-22: 事業実施による総経済的便益
(単位:百万バーツ)
利用者便益 エネルギー 道路維持 道路渋滞 総便益
1 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
2 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
3 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
4 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
5 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
6 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
7 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
8 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
9 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
10 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
11 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
12 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
13 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
14 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
15 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
16 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
17 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
18 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
19 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
20 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
21 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
22 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
23 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
24 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
25 433.4 2,145 299.2 417 3,294.4
合計 10,835.0 53,618.8 7,480.0 10,425.0 82,358.8
 
表12-23: 経済的内部収益率
ケース 変数 経済的内部収益率
基本   27.25%
代替案 費用10%増加
便益10%減少
19.03%
 
(単位:百万バーツ)
費用 利用者便益 エネルギー 道路維持 道路渋滞 総便益
1 11,623.7 433.4 2,145 299.2 417 -8,329.3
2 1,095.6 433.4 2,145 299.2 417 2,198.8
3 1,120.4 433.4 2,145 299.2 417 2,174.0
4 1,071.6 433.4 2,145 299.2 417 2,222.8
5 1,096.0 433.4 2,145 299.2 417 2,198.4
6 1,046.8 433.4 2,145 299.2 417 2,247.6
7 1,070.8 433.4 2,145 299.2 417 2,223.6
8 1,021.2 433.4 2,145 299.2 417 2,273.2
9 1,044.7 433.4 2,145 299.2 417 2,249.7
10 671.8 433.4 2,145 299.2 417 2,622.6
11 672.5 433.4 2,145 299.2 417 2,621.9
12 594.6 433.4 2,145 299.2 417 2,699.8
13 621.5 433.4 2,145 299.2 417 2,672.9
14 555.3 433.4 2,145 299.2 417 2,739.1
15 602.1 433.4 2,145 299.2 417 2,692.3
16 554.7 433.4 2,145 299.2 417 2,739.7
17 601.3 433.4 2,145 299.2 417 2,693.1
18 553.5 433.4 2,145 299.2 417 2,740.9
19 600.8 433.4 2,145 299.2 417 2,693.6
20 553.7 433.4 2,145 299.2 417 2,740.7
21 600.9 433.4 2,145 299.2 417 2,693.5
22 553.4 433.4 2,145 299.2 417 2,741.0
23 600.3 433.4 2,145 299.2 417 2,694.1
24 551.9 433.4 2,145 299.2 417 2,742.5
25 598.8 433.4 2,145 299.2 417 2,695.6
合計 29,677.9 10,835.0 53,618.8 7,480.0 10,425.0 52,680.9
          EIRR 27.25%
 
13. 外部要因
(1)事業実施に影響を及ぼす外部要因
 沿岸海運の障害となるものはインフラストラクチャーの問題、法令及び規則の問題、管理組織の問題及び天災等の問題に分類される。これらの諸問題は船舶の運航者を妨害し、高い費用を生ずる要因となる。
 
(2)インフラストラクチャーの問題
 主なインフラストラクチャーの問題は適切な港湾施設利用の可能性、水路及び港を繋ぐ後背施設によるものである。
 
(3)法令及び規則の問題
 タイ国は既に安全な運航、公害防止、及び良好な稼働環境整備の為の多数の国際協定を批准してきた。これらの法令及び規則は一般に複雑過ぎて利用者の不便であり費用負担を招いている。
 
(4)管理組織の問題
 主な管理組織上の問題点は“政府は全輸送モード内で公平な競争が可能な環境作りを支援していない”ことであり、また、“十分な支援措置、継続的な開発及び政府内の関係組織の統一化”を実施していない事である。
 
(5)天災の問題
 タイでは年平均3回の熱帯性低気圧が10月〜11月の間に訪れる。この他沿岸の環境、即ち自然環境、社会環境及び文化的環境は港湾開発等に影響を与える。







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