日本財団 図書館


4-3 需要及び供給分析
 第2章経済概況で説明のとおり、タイの輸出入活動は国内総生産(GDP)の60%以上を占めている。この国際貿易(輸出入)における貿易量全体の実に94.4%は海運により運ばれているものである。
 実際に、貿易取引され国際海運により運ばれている物資はゴム、鉱物資源、化学製品、木材及び材木、セメント及び建設資材、農水産物、陶製品、鉄鋼及び鉄製品、砂糖、プラスチック等である。これらの産物は主にバンコク及びその周辺、中央県域、東部県域及び西部県域の工業地帯で生産されており2000年におけるGDPの63.3%を生産している。
 ここで、現在国内貨物の実に90%以上が道路にて輸送され、一方海運は僅か5.12%しか輸送されていない事実を再認識したい。これは貿易により取引されている生産物の生産地から港への運送は道路(トラック)により運ばれている事を意味する。
 本事業の短期的目標はモーダルシフトにより“RO-ROフェリーネットワークが道路輸送に変わって一部を担う”事であり、国内貨物の輸送需要を予測する事は本事業の主要因となる。
 したがって、本事業の財務の健全性及び経済性分析の前提条件としてRO-ROフェリーネットワークで運搬する貨物の種類と貨物量の需要を“輸出中心の貨物および製造業用の輸入品”を中心に慎重に精査しなければならない。
 タイにおいてRO-ROフェリーネットワークが重要な輸送モードとなることの重要性を次頁の図に示す。これに続いて需要の予測をおこなう。
 RO-ROフェリーネットワークで運送すべき貨物輸送量予測は、タイのGDPの伸び率及びタイが輸出入する貨物を基に試算する。
 
図4-1: タイ経済におけるRO-ROフェリーネットワークの重要性概念図
 
4-3-1 国内総生産(GDP)の見通し
(1)タイの長期経済成長の見通し
《予測の結果》
 国家経済社会開発庁(NESDB)の統計によると1996年から2000年の間の経済成長率は僅か0.62%という低い数字である。これはこの期間にアジア通貨危機が含まれているためである。しかしこれ以降、経済は回復し2003年から2006年の経済成長率は年平均4.4%になるとNEDBは予測している(表4-1参照)。
 この経済成長率が10%に届かない理由は、現在のタイ経済が過剰な資本金により圧迫されているためである。更に不良債権解消のための対策ももう少し時間がかかり、設備の稼働率の回復も緩やかである。
 しかし、実際にタイの潜在的な成長率は1995年までは8〜10%であった。これは大量の直接投資が国内のプラント及び設備投資の高い伸び率を牽引したためであり、この資本の大量流入により生産能力が増加したためであった。更に人口の増加および雇用機会の増加も労働力の増加を助長した。
 今現在、タイの経済は復興途中にあり、純民間によるプラント及び設備投資は4〜5%の伸び率が期待されており、資本は緩やかに蓄積し始めると思われる。人口の伸び率は減速し、労働力の伸び率はあまり高くないであろう。
 これらの結果、本事業計画では2003〜2010年の間の潜在的な成長率は年平均4.4%、2011〜2025年の間は4.8%を適用する。
 本予想では全生産指数を控えめに見積り年平均2%とした。仮に生産性が技術の優位性または教育レベルの改善等により急速に伸びた場合には潜在的成長率は更に高くなる事もあろう。
 
《代替シナリオ》
1)代替シナリオのシミュレーション
 モデルを利用した他のシミュレーションの実施による代替経済予測は次の外生変数を基におこなった。即ちタイ以外の国々の実質GDP及び外貨交換率、長期金利、直接投資及び全生産指数を考慮した。
 
2)楽観的シナリオ
 世界経済の成長ペースを標準シナリオより高く見積もった。日本、アメリカ及びEU諸国の経済が標準シナリオで予想されている年2%の伸び率より高い、年3%で年々伸びると仮定した。アジア諸国の伸びは標準シナリオの年5%から6%の伸び率に増加。直接投資の流入はより多く、全生産指数の伸びは2%より高い3%で伸びると仮定。タイバーツはドルに対し徐々に高くなると予想。
 この仮定条件下で、2003年から2010年の間の実質GDPは年平均5.9%、2011年から2025年の間は8.9%となる。
 
3)悲観的シナリオ
 一方、標準シナリオのとおりに世界経済が急速に改善されない場合、即ち日本、アメリカ、EU諸国等工業国の実施GDPが僅か1%程度、アジアの成長率が約3%と低く留まることを考慮。海外からの直接投資が前年と同レベルに留まり、全生産指数の伸びは1%、対経済の自信は低下し、タイバーツはドルに対し安くなると仮定。
 この仮定条件の下で、2003年〜2010年の間の年平均実質GDPの成長率は約3.9%、2011年〜2025年の間は2.0%と推定した。前半の10年間の成長率予測が標準シナリオとさほど違いがない理由は、世界経済が緩やかに成長する間にタイバーツは値を下げ、世界経済の低成長によるデフレーションの影響と相殺されるとしたためである。
 
表4-1: 長期的経済成長見通し
  標準シナリオ 楽観的シナリオ 悲観的シナリオ
2002 2003〜2010 2011〜2025 2003〜2010 2011〜2025 2003〜2010 2011〜2025
実質 GDP 成長率(%) 6.0 4.4 4.8 5.9 8.3 3.9 2.0
GDP平均
(現在値,10億バーツ)
5,430.5 6,623.7 11,381.7 7,089.4 17,238.7 6,475.6 8,672.7
消費伸び率
(%,1988=100)
4.1 4.4 6.0 6.1 9.0 3.6 2.5
投資伸び率
(%,1988=100)
6.3 4.4 5.6 7.7 12.3 2.9 (7.2)
消費者物価指数インフレ(%) 4.2 2.1 2.2 0.4 0.6 4.5 4.2
輸出の伸び率
(%,1988=100)
2.5 6.0 7.3 8.9 11.7 4.4 2.3
輸入の伸び率
(%,1988=100)
0.8 7.2 8.5 11.5 14.5 4.0 0.2
 
図4-1: GDP成長率予測
 
4-3-2 輸出/輸入の見通し
 第2章で説明のとおり、工業地域であるバンコク及びその周辺地域、中央県域、東域及び西部県域は2000年において国内総生産(GDP)の66.3%の生産に寄与している地域である。様々な生産物が例えばマプタプット、レムチャバン、バンコクのような対外貿易の玄関港に運ばれ、貿易相手国であるアメリカ及び日本等に輸出され、また反対に多くの品目が輸入され、石油製品を除く殆どの貨物が道路にによりこれらの港から目的地に輸送されている。
 この予測では、輸出及び輸入価格は貿易がタイの経済に拍車をかけるため、GDPの予想伸び率より更に高い率で伸びると期待される。
 海上及び陸上で輸出入されている主要品目の傾向を把握するために、貿易貨物の品目と量を次の表に示す。
 
表4-2: 2000年の主要品目別 対外貿易輸出及び輸入量
(拡大画面:71KB)
出典:Department of Customs
 
 主に海上及び道路にて運ばれる輸出入品目の概要は下表のとおり。
 
表4-3: 海上及び道路にて輸送される主要輸入品目
順位 輸入品
海上輸送 道路輸送
1 鉱物、燃料油、ワックス 鉱物、燃料油、ワックス
2 鉄鋼及び鉄製品 木材及び木工品
3 肥料 電化製品及び機械類
4 木材及び木工品 プラスチック及びプラスチック製品
5 有機化学製品 魚介類
6 食品産業廃棄物 鉄鋼及び鉄製品
7 油種類 油種類
8 木材パルプ、繊維素材 塩、硫黄、セメント
9 無機科学製品 ゴム及びゴム製品
10 穀物 その他化学製品
注:網掛け欄はともに通品目を示す。
 
 表に示す主要輸出品目は同様にタイの主要産品でもあり、主要輸入品目は製造業へのエネルギー及び材料及び農業に供される品目である。海上及び道路にて輸送される主要な輸出品目を下表に示す。
 
表4-4: 海上及び道路にて輸送される主要輸出品
順位 輸出品
海上輸送 道路輸送
1 塩、硫黄、セメント 木材及び木工品
2 鉱物、燃料油、ワックス 塩、硫黄、セメント
3 穀物 鉱物、燃料油、ワックス
4 砂糖及び製菓 材木及び木工品
5 医療品 石材、セメント、石膏
6 食用野菜 魚介類
7 プラスチック及びプラスチック製品 陶器類
8 ゴム及びゴム製品 材木及び木工品
9 鉄鋼及び鉄製品 砂糖及び製菓
10 材木及び木工品 プラスチック及びプラスチック製品
注:網掛け欄はともに通品目を示す。
 
 上記データよりタイにおける主貿易品目は以下のように認識される。
・石油製品(鉱物、燃料油、ワックス類)
・塩及び硫黄(肥料及び科学製品用)
・砂糖及びその製品
・建設用材料(セメント)
・プラスチック及びプラスチック製品
・ゴム及びゴム製品
・鉄鋼及び鉄製品
・材木及び木工品
・油種類
 
 これらの品目がRO-ROフェリーネットワークにて運搬すべき対象となる品目であり、道路輸送の一端を担う事が出来得る対象品目である。
 
《輸送品目の海上輸送及び道路輸送による比較》
 国内貨物輸送に目を向けた場合、次表に示すようにRO-ROフェリーネットワークにて運搬すべき対象となる品目として選定した貨物は、同様に道路でも大量に輸送されている。
 非主要貿易品目に分類される米、トウモロコシ、キャッサバ及び他の農産物は主に国内マーケットにて消費され、少量が輸出されている。これら農産物の輸送ルートは地方の生産地から消費地へと運ばれるルートである。これらの品目も既存の輸送ルートが海岸に沿ってあるか否かの輸送ルートの特性によってRO-ROフェリーネットワークで運ぶべき対象品目となり得るものである。
 
表4-5: 2000年度 品目別の道路及び海上輸送量比較
品目 2000年
道路輸送 海上輸送 道路輸送 海上輸送
千トン 百万トン・キロメータ 千トン・キロメータ
家畜 2,655 - 1,075 -
25,474 28 11,447 5,396
トウモロコシ 3,197 46 1,095 36,062
キャッサバ 16,420 - 4,375 -
砂糖きび 50,277 - 1,581 -
ゴム 2,346 141 1,125 56,385
材木、木材 5,665 7 3,185 2,028
その他農産物 14,892 93 7,010 25,472
飼料 5,001 4 1,753 3,724
砂糖 4,980 - 1,530 -
その他食料 9,542 72 3,024 20,170
固形鉱物、燃料 26,897 106 4,472 9,392
石油製品 29,445 22,128 9,264 3,636,556
鉄鉱石及び鉄屑 29,140 - 2,415 -
鉄製品 19,635 344 6,892 37,048
砂、砂利、粘士、スラグ 68,320 - 6,053 -
セメント 24,030 2 5,156 4,954
その他鉱物、建設材料 14,353 48 3,876 15,256
肥料 3,266 130 1,271 44,338
化学製品 2,116 196 406 34,891
機材、その他製造業関連品 17,067 - 4,979 -
その他、容器 23,258 2 9,772 1,439
合計 397,976 23,347 91,756 3,933,111
注:網掛け欄はRO-ROフェリーにて対象となる品目







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION