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 ゴミ処理・処分技術について調査したところ大きく分けて下記の処理方法がある。しかし海洋ゴミに関しての処理技術の問題提示はあるもののこれといって専用の処理機械(装置)は見あたらない。
 (1)焼却処理、(2)微生物処理、(3)埋め立て処理、(4)その他
 この中で(1)の焼却処理については、ダイオキシン発生による問題等、環境関係の影響が大きく一般的でありながら専用の焼却炉は存在しない。
 (2)の微生物処理については、肥料や飼料になり還元され自然のサイクルがそのまま利用され、まさに環境(地球)にやさしい処理技術である。また、社会的運用システムも構築され合理的なシステムである。
 この「海洋ゴミの集積・処理に関する社会的運用システム」のフローを図5.4に示す。ここでは、環境チケットを利用した運用システムにつても記述している。
 上記の処理技術の内、焼却処理、埋め立て処理については既存技術で対応が可能である。しかし塩分が残留した海洋ゴミの処理について検討の余地があるが、塩分の除去技術が確立されれば既存の技術で対応可能である。本稿ではそれらについての技術検討は行わず、設計例を紹介することとし、将来的にも可能性が大である微生物処理技術について海草・藻を用いた処理分解基礎実験を行った。
 
図5.4 「海洋ゴミの集積・処理に関する社会的運用システム」のフロー
 
 海洋のゴミの内、海岸に漂着する海草・藻等の自然ゴミの占める割合が圧倒的に多く、海岸に放置しておくと、腐敗し悪臭や虫等が発生するため環境破壊の主因ともなる。そこで、海岸に大量に漂着する海草・藻を回収し、有用な物質への変換技術について検討を行った。
 海草・藻を肥料として利用する技術は、以前から世界各地の沿岸で行われてきた。日本では江戸時代、テングサ等を畑の肥料として使われた記録がある。欧州では、海藻を焼いた灰をカリウム肥料として使われた例がある。
 海草・藻には、カリウムやミネラルが豊富に含まれ、粉末や液体にして畑の土壌や植物の葉に散布して使われている。
 海草・藻が海岸に漂着した後、新鮮な内に回収することは難しく、かつ、プラスチック、ビニル、ビン、缶等の人工ゴミが混ざり、粉末や液体にすることが難しいことから、ある程度の分別は必要であるが、少々の人工ゴミが混入しても処理が可能な、腐敗菌や腐敗した後の微生物分解処理を行い、最終的には植物の肥料となる窒素やミネラル分が残留する微生物分解処理方法について検討を行った。
 植物(海草・藻)が成長するには、太陽光、二酸化炭素、水が必要であるが、成長するに伴い養分が必要となる。海中では、窒素(硝酸塩)、リン(リン酸塩)、珪素(珪酸塩)等が必要で、特に必要な養分としては硝酸塩や珪酸塩がある。植物の光合成には硝酸塩と鉄分が深く関わり、葉緑素の生成に大きな役割をはたしている。
 大自然の中では、森の落ち葉、草、木等の腐葉土の中では微生物の働きで、ある酸性の物質が作られ、土壌の中にある鉄分と結合し、雨が降ると腐葉土からその物質がしみ出して川の水に溶け大量に海に運ばれて植物プランクトンや海草・藻の栄養となっている。
 本微生物分解処理技術の検討では、海草・藻が腐敗した後のエキスを取り出し、微生物で分解して植物プランクトンや海草・藻の栄養分になる硝酸塩や珪酸塩等のミネラルを含む液体を抽出し、海の肥料としての利用の可能性について基礎実験を行った。
 以下に、微生物分解処理基礎実験の概要を示す。
 
(1)目的
 海岸にうち寄せる海草・海藻類の有効利用策として、塩分が含まれる腐食生成液を好気性微生物で分解処理を行い有機物やミネラルを含む物質生成に関する基礎データを得る。
(2)背景及び実験方法(基礎システム)
 微生物分解処理システムを適用した装置(微生物〈バチルス菌〉を利用した腐敗漕、第1次処理、2次処理、最終漕で構成から排出される処理液を有効利用するため、その成分を調査する。
 バチルス菌は、納豆菌の発酵菌の一種で、土壌や川の底等に繁殖している有用微生物で、この菌が落ち葉や草、枯れ木を分解し、有機物やミネラルを生成する。
 
a. 微生物分解処理システムの概要
 微生物分解処理を担う機構は、腐敗菌により腐敗させた海草類(アマモ、スガモ、アオノリ等)や海藻類(緑藻類〈アオサ、ジュズモ等〉、褐藻類〈コンブ、ワカメ、カジメ、ヒジキ等〉、紅藻類〈アマノリ、テングサ等〉)を、腐敗漕に残留する液体に含まれるアンモニアを対象に、天然ゼオライト(コーガ石)に微生物を定着させた石で構成される微生物分解漕で、液体に含まれるアンモニアを亜硝酸に硝化させ、亜硝酸を他の微生物で硝酸塩に硝化させる仕組みである。
 微生物分解処理システムの概念を、図5.5に示す。
 
b. 実験方法
ア. 実験装置
 微生物分解処理装置を図III-2及び写真5.1に示す。
  ・海藻投入漕:
海草・海藻と水を投入し、腐敗させる。
  ・一次処理漕:
海藻投入漕で生成したアンモニアを含む液体を、漕内に設置した硝化微生物定着石(写真5.2)で亜硝酸を含む液体に分解処理する。
  ・一次処理液漕:
亜硝酸を含む一次処理液を保管する。
  ・二次処理漕:
一次処理液漕の亜硝酸含有液を、漕内に設置した硝化微生物定着石で硝酸塩を含む液体に分解処理する。
  ・処理液漕:
分解処理した硝酸塩、ミネラルを含む処理液を保管する。
 
イ. 草藻類実験材料 アマモ(北海道稚内市宗谷海岸より採取、写真5.3)
 
ウ. 験場所
栃木県黒磯市島方480-8 (株)東宏 実験室
エ. 実験方法
・微生物分解処理装置の海藻投入漕に海岸で採取したアマモと水道水を50: 50の割合で投入し、自然腐敗させる。液温は調節せず室温とした。
・投入漕の液体は一次処理漕に滞留する。
・滞留した液体を一次処理液漕に移し、エアーポンプで空気を送り、アンモニア硝化微生物を活性化させる。
・一次処理した液体(アンモニアから亜硝酸に硝化)を二次処理漕に移し、エアーポンプで空気を送り、亜硝酸硝化バクテリアを活性化させる。
・二次処理された液体(亜硝酸から硝酸塩に硝化)を処理二次処理漕から処理液漕に移し、処理液の濃度を測定する。
・処理液の測定は1週間毎に行う。
・計測器 アンモニア性窒素(NH4-N):ユニメーター
 亜硝酸性窒素(NO2-N):ユニメーター
 硝酸性窒素(NO3-N):コンパクトイオンメーター
(3)実験期間 平成15年12月15日〜平成16年1月31日(7週間)
(4)実験結果 実験結果を図5.7に示す。
(5)考察
 本基礎実験において、海草・海藻等の塩分を含む有機物の微生物分解処理基礎実験を行った結果、海草・海藻が腐敗し生成する液体の微生物による分解の効果が認められ、最終処理液が植物の肥料等に有用な硝酸塩等のミネラル成分を含むことが分かった。
 今後、海草・藻の腐敗菌による腐敗期間をいかに短くするかが課題である。
 
図5.5 海草・藻微生物分解処理システム
 
図5.6 海草・藻微生物分解処理装置
幅:600mm、奥行:450mm、高さ:500mm
 
写真5.1 海草・藻微生物分解処理装置
 
写真5.2 微生物定着コーガ石
 
写真5.3 実験用海草(アマモ)
 
図5.7 海草・藻の微生物分解処理基礎実験結果
 
2)今後の展開と課題
 今後ますます増え続けるゴミに対し、ゴミ処理問題は地球規模で見直しが必要になってきています。また、ゴミを出さない取組みは既に実施され、さらなる強化が望まれています。
 ゴミ処理を効率的にまた、適切に行なうためには以下が重要である。
(1)分別回収
(2)適切な処理技術の確立
(3)処理による環境への影響
(4)再資源化の追求(リサイクルを考えた製品作り)
(5)その他







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