1)乗降用設備
■多くの寄港地ではタラップを使用するが、車いす使用者には人的な介助が必要
離島航路が発着する港湾のうち、ボーディングブリッジが設置されている港湾は、名瀬港のみとなっている。また、小型のフェリーあるいは旅客船が就航する航路の一部では、乗客の乗降にランプウェイやランプドアが使用されている。これ以外の、全体の7割を超える寄港地では、乗降にタラップを使用している。
乗降用設備の有効幅については、全体の9割で80cm以上確保されている。しかし、車いす使用者が持ち上げられることなく乗降できる構造を有するものは2割弱で、ほとんどのフェリーにおいては、車いす使用者が乗下船する際に人的な介助が必要となっている。
表4-1-5 ボーディングブリッジ・ランプウェイ・ランプドアが使用されている港湾
種別 |
事業者名 |
航路名 |
港名 |
ボーディングブリッジ |
大島運輸(株) |
鹿児島〜那覇 |
名瀬 |
マリックスライン(株) |
鹿児島〜那覇 |
名瀬 |
ランプウェイ |
(有)波戸汽船 |
米ノ津〜御所浦 |
片側 |
上屋久町 |
宮之浦〜口永良部・島間 |
宮之浦、島間、口永良部 |
ランプドア |
瀬戸内町 |
瀬相〜古二屋〜生間 |
古二屋、瀬相、生間 |
|
注)名瀬港には大島運輸、マリックスライン、奄美海運の3事業者の航路が寄港するが、ボーディングブリッジは大島運輸とマリックスラインが運営する航路で使用されており、奄美海運では使用していない。
2)出入口(舷門または甲板室の出入口)
■出入口幅は確保されているが、段差の解消は図られていない
出入口は大型船ほど幅員が広く、全てのフェリーにおいて80cm以上の有効幅が確保されている。しかし、スロープ板等、車いす使用者が円滑に通過できるための設備を有するものは、ほとんどない。
3)車両区域
■段差の解消と高齢者・身障者等の車両乗降場所の確保については、半数以上が未対応
車両区域の出入口は、8割のフェリーで80cm以上の有効幅が確保されている。しかし、車いす使用者への対応や、高齢者、身障者等の車両乗降場所を備えたフェリーは700トン以上ではほぼ半数以下にとどまっており、699トン以下では全く対応がなされていない。
4)客席
■バリアフリー客席、車いすスペースともに設置率は1/4程度
バリアフリー客席や、車いすスペースを備えたフェリーは、700トン以上、699トン以下ともに1/4程度にとどまっている。両方の設備を備えるフェリーは、串木野〜甑島航路に就航している「フェリーニューこしき」(甑島商船)のみである。
5)便所
■出入口の段差、身障者用便所の設置について、700トン以上では半数〜2/3で対応があるが、699トン以下では全く未対応
便所は全てのフェリーに備えられており、出入口、または戸の有効幅については、ほぼ80cm以上確保している。しかし、車いす使用者が通過する際に支障がないよう段差が解消されているものは、700トン以上でも半数、699トン以下では全く対応していない。また、腰掛け便座は全体の8割に備えられているが、床置式小便器は半数にとどまる。身障者用便所は、700トン以上のフェリーには2/3に設置されているが、699トン以下には設置されていない。
6)食堂
■出入口の幅と段差はほぼ対応済。車いすでの利用に適したテーブルは設置されていない
食堂は、700トン以上の8隻のフェリーにある。出入口の有効幅は全て80cm以上を確保しており、段差についても8割が解消済である。しかし、車いすでの利用に適したテーブルは、全く設置されていない。
7)遊歩甲板
■出入口の段差の解消はほとんどなされておらず、車いす使用者には未対応
遊歩甲板は700トン以上の11隻と、699トン以下の2隻のフェリーにある。出入口の有効幅はおおむね80cm以上確保されているが、段差の解消など、車いす使用者に対応したものは、「みしま」(三島村)のみである。
8)通路
■通路の有効幅、段差ともに半数以上が未対応。昇降機の設置は全体の約1/4
船内の各施設間の移動経路となる通路の有効幅は、車いす使用者と健常者のすれ違いを想定し、120cm以上必要とされている。しかし、必要な有効幅を確保しているものは4割弱にとどまっており、車いす対応がなされているものも、「フェリーニューこしき」(甑島商船)のみである。
また、昇降機が設置されているフェリーは全体の約1/4にあたる3隻で、鹿児島〜那覇航路に就航している「フェリーなみのうえ」と、鹿児島〜三島航路の「みしま」(エレベーター)、串木野〜甑島航路の「フェリーニューこしき」(エレベーター)である。
9)経路全般(手すりの設置、床の滑りにくい仕上げ、車いすでの開閉・通過に対応した戸)
■699トン以下では全く未対応。700トン以上でも対応がおくれる
700トン以上のフェリーでは、3/4において、通路に手すりが設置されている。しかし、床の滑りにくい仕上げや、車いす使用者その他の高齢者、身障者等が容易に開閉して通過できる構造の戸を有するものは、3割程度である。699トン以下では、これらについて全く対応していない。
10)案内設備
■視覚障害者用の点字案内はほとんど未対応。運航情報提供設備も全体の4割に満たず
点状ブロックの敷設、通路・階段に設けられた手すりの端部への点字貼付、点字による案内板など、視覚障害者に対応した情報提供や船内案内はほとんど行われていない。電光掲示板等の運航情報提供設備の設置も、全体の4割に満たない。船内設備の案内板等の案内設備は、約9割のフェリーに備えられている。
11)その他の取り組み
各事業者に船舶や乗降設備等のハード面におけるバリアフリー化への対応として、以下の取り組みがあげられた。
・タラップの拡張。(甑島商船)
・船舶にシルバールームを設置。(天長フェリー)
・船舶建造時に出来るだけ段差を取り除いた。(三島村)
・待合施設については、今後建設が予定されており、バリアフリー化を計画している。
フェリーについては、新船建造時にバリアフリー化を図る予定である。(瀬戸内町) |
|
12)総括
■出入口の有効幅は、全体の9割で80cm以上確保されているが、段差の解消はほとんど図られていない。また、車いす使用者に対応した船内設備や、視覚障害者に対応した点字案内設備も、未対応な場合が多い
乗降用設備の通路幅員や、便所、食堂、遊歩甲板などの出入口は、移動円滑化基準に定められている80cm以上の有効幅がほぼ確保されているが、車いす使用者が円滑に通過できる段差解消については、ほとんど対応がなされていない。また、船内の移動経路や、バリアフリー客席、身障者用便所など車いすに対応した船内設備や、視覚障害者に対応した点状ブロックの敷設、触知図などの点字案内設備も、未対応の場合が多い。
また、交通バリアフリー法の基準適合義務が施行された2002年5月前後に就航した最新船のバリアフリー対応状況についてみると、法施行前の2000年に就航した「フェリーとしま」では、便所については対応があるが、乗降用設備や車両区域のバリアフリー化、バリアフリー客席や車いすスペースの設置、視覚障害者に対応した点字設備等には未対応である。また、通路や各施設の出入口における車いす対応もなされていない。一方、2001年に就航した「みしま」では、便所のほか、段差の解消や乗降用設備、車両区域のバリアフリー化についても対応がなされている。しかし、バリアフリー客席や、点字案内設備、運航状況提供設備等の案内設備は設置されていない。
法施行後の2002年10月に交通バリアフリー法の適合船として、鹿児島県内で最初に就航した「フェリーニューこしき」では、回答のあった全項目において、バリアフリー法に基づく移動円滑化基準を満たしている。現在のところ、法施行後に就航したフェリーは、「フェリーニューこしき」の1隻のみである。
(2)旅客船
集計の対象とする旅客船を、表4-1-6に示す。100トン以上の比較的大きな高速船が4隻、85トンの旅客船が1隻、52トンの高速船が1隻、20トン未満の小型船が2隻で計8隻あり、このうち、2003年に与路〜古二屋航路に就航した「せとなみ」(瀬戸内町)は、交通バリアフリー法に基づくバリアフリー基準に適合した船舶である。
表4-1-6 対象旅客船
|
No. |
船名 |
航路名 |
航路 類型 |
事業者名 |
船種 |
総トン数 |
就航年 |
50トン 以上 |
15 |
シーホーク |
串木野〜甑島 |
1 |
甑島商船(株) |
旅客船 |
304 |
1990 |
16 |
トッピー |
鹿児島〜種子・屋久 |
1 |
いわさきコーポレーション(株) |
旅客船 |
166 |
1989 |
17 |
トッピー3 |
鹿児島〜種子・屋久 |
1 |
いわさきコーポレーション(株) |
旅客船 |
164 |
1995 |
18 |
トッピー2 |
鹿児島〜種子・屋久 |
1 |
いわさきコーポレーション(株) |
旅客船 |
163 |
1992 |
19 |
せとなみ |
与路〜古二屋 |
2 |
瀬戸内町 |
旅客船 |
85 |
2003 |
20 |
うみたか |
牛深〜水俣 |
1 |
江崎汽船(株) |
旅客船 |
52 |
1992 |
49トン 以下 |
21 |
すずかぜ |
米ノ津〜御所浦 |
1 |
(有)波戸汽船 |
旅客船 |
17 |
1993 |
22 |
ニューしんせい あづま |
宮ノ浦〜伊唐〜幣串 |
2 |
(有)山坂汽船 |
旅客船 |
6.6 |
1993 |
|
旅客船について、各船舶のハード面でのバリアフリー対応状況を、総トン数を基準として、50トン以上と49トン以下に分類して集計したものが表4-1-7である。
表4-1-7 ハード面でのバリアフリー対応船舶数(旅客船・規模別)
|
50トン以上 |
49トン以下 |
合計 |
船舶数 |
6 |
|
2 |
|
8 |
|
乗降用設備
(タラップ等) |
有効幅(80cm以上) |
2 |
67% |
0 |
0% |
2 |
67% |
車いすが持ち上げられずに乗降できる構造 |
5 |
83% |
0 |
0% |
5 |
71% |
出入口 |
有効幅(80cm以上) |
1 |
50% |
0 |
0% |
1 |
50% |
車いす対応 |
1 |
17% |
0 |
0% |
1 |
14% |
客席 |
バリアフリー基準適合客席 |
4 |
100% |
0 |
0% |
4 |
80% |
車いすスペース |
2 |
100% |
0 |
0% |
2 |
67% |
便所 |
便所 |
6 |
100% |
1 |
100% |
7 |
100% |
出入口(戸)の有効幅(80cm以上) |
1 |
50% |
0 |
0% |
1 |
33% |
出入口に段がないこと |
4 |
67% |
0 |
0% |
4 |
57% |
腰掛け便座(手すり設置) |
5 |
83% |
0 |
0% |
5 |
71% |
床置式小便器(手すり設置) |
0 |
0% |
0 |
0% |
0 |
0% |
身障者用便所 |
1 |
33% |
0 |
0% |
1 |
25% |
食堂 |
食堂 |
0 |
0% |
0 |
0% |
0 |
0% |
出入口の有効幅(80cm以上) |
0 |
0% |
0 |
0% |
0 |
0% |
出入口に段がないこと |
0 |
0% |
0 |
0% |
0 |
0% |
車いすでの利用に適したテーブル |
0 |
0% |
0 |
0% |
0 |
0% |
遊歩甲板 |
遊歩甲板 |
1 |
17% |
0 |
0% |
1 |
14% |
出入口(戸)の有効幅(80cm以上) |
1 |
100% |
|
0% |
1 |
100% |
車いす対応 |
1 |
100% |
|
0% |
1 |
100% |
通路(上記の各設備間) |
通路(戸)の有効幅(120cm以上) |
1 |
100% |
0 |
0% |
1 |
50% |
車いす対応 |
1 |
50% |
0 |
0% |
1 |
33% |
昇降機の有無 |
1 |
20% |
0 |
0% |
1 |
17% |
経路全般 |
手すりの設置 |
1 |
33% |
1 |
100% |
2 |
50% |
床の滑りにくい仕上げ |
1 |
50% |
1 |
100% |
2 |
67% |
車いすでの開閉・通過に対応した戸 |
1 |
50% |
0 |
0% |
1 |
33% |
案内設備 |
点状ブロックの敷設 |
1 |
33% |
0 |
0% |
1 |
25% |
通路・階段手すり端部の点字貼付 |
1 |
33% |
0 |
0% |
1 |
25% |
運航情報提供設備 |
1 |
33% |
0 |
0% |
1 |
33% |
船内設備の案内板等の案内設備 |
1 |
33% |
1 |
100% |
2 |
50% |
点字案内設備 |
1 |
33% |
0 |
0% |
1 |
33% |
|
|