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第2 実態調査
 
 がい装なし電線の布設要領、特に電線の機械的保護方法の実例を知るため海外で建造されたがい装なし電線が布設された船舶の電線布設状況を調査した。なお、当初はヨーロッパで建造された客船又は貨物船におけるがい装なし電線の布設状況を調査する予定であったが、機会が得られなかったため、オーストラリアで建造された高速アルミ双胴客船2隻の調査を行った。調査においては電線の布設量も多く、かつ、機械的損傷を受ける可能性が高いと思われる機関室を中心に行った。
 
2.1.1 M丸 船齢6年 オーストラリア A社建造 154GT
 電線は北欧製のものが使用されており動力及び照明用にはがい装なしビニルシース電線が、制御用には銅編組がい装ビニルシース電線及びがい装なしシールドテープ介在(各対及び全線一括)ビニルシース電線が使用されていた。ただし、制御用で銅編組がい装付き電線を使用しているのは機械的保護というよりノイズ対策としてのシールド線としての意味合いが強いものと思われる。
 小型船であることから本船の機関室内は狭く、人一人が極力注意を払うことで囲壁又は設置されている機器に何とか触れずに移動できる程度の広さである。また、本船は片道約1時間の航路を往復運航されているため通常の航海中に乗組員が機関室内の点検を行う機会はあるものの作業を行う機会はないとのことであった。
 公室内は露出した電線はなく、すべて内張り等で覆われて布設されている。
1)ブリッジ内操舵制御線は運転者の椅子に沿って蛇腹状プラスチック覆いで保護して布設されているが覆いには亀裂が認められる。ただし電線の外傷は認められなかった(写真M-1、M-2)。
2)機関室通風機用電線は固定されていない。また、電線長さを調節するためループさせて電動機へ接続させている(写真M-3)。
3)船外ホーン用電線及び照明用電線は金属管で保護し、電線管に孔を空けホーンへの電線を分岐させている(写真M-4)。
4)機関室天井部に布設した単独電線はコーナーを利用しメッシュ状の板にナイロンバンドで布設している(写真M-5、M-6)。 なお、排気管上部に布設された電線は熱を避けるため布状アルミにて保護している(写真M-6)。
5)水密隔壁の貫通にはMCTが採用されている(写真M-7)。
6)機関室内の水平及び垂直の集合電路はトレイにナイロンバンド及び追加のスチールバンドで固定しているものの機械的保護を考慮しているとは必ずしもいえない(写真M-8)。天井部の水平電路で電線をトレイ上へ配置すればトレイが電線の十分な機械的保護の役割を果たすものと思われる。
7)機関室内の別の集合電路はダクト布設又はコの字型の金属覆を施して機械的保護を考慮した電線布設を行っている(写真M-9、M-10、M-12)。また、電線のダクトからの引き出し部はダクトのエッジ部にゴム製のカバーを取り付け電線への外傷を防ぐよう考慮されている(写真M-10、M-12)。
8)排気管附近の集合電路はハンガーに固定した上からアルミマット状のもので覆っている。これは排気管からの電線に対する熱影響を避けるためのものであり、機械的保護とは関係がないものである。この防熱に関しては通電のため電線から発生する熱が発散されずにアルミマット内部にこもり、逆に電線自体への影響を受けることの考慮が不足しているとも言える(写真M-11、M-13)。なお、就航後何らかの理由で追加布設されたと思われるがい装及び防食層を有するJIS規格電線が認められた(写真M-13)。
9)発電機用電線には単心電線が使用されているが(写真M-14、M-15、M-16)。下部の電線はパイプで保護している。また、プラスチック製蛇腹パイプにて保護しているものもある。(写真M-16)
 
10)客室スペース後方に設置した配電盤への電線引き込みはグランドが使用され、盤内では制御用の銅編組がい装付き電線のがい装は接地処理されている(写真M-16、M-17、M-18)。
 
 以上より考察を加えると、本船では主にトレイ状の電線支持物が採用されているが、機関室上部の電路であっても下向きにしたトレイにぶら下げる形で電線を配置しバンドで固定している。また、垂直電路においてもトレイ状の支持物に電線を露出するように布設しているが、このような布設では通常運航時に機関室で作業等を行うような船舶においては電線の外傷に対する不安が拭えない。乗組員の話によると本船では電線の機械的損傷等は経験しておらず、これが理由で電線を取り替えたことはなかったとのことであるが、小型の船舶で通常運航時乗組員が殆ど入らないような船舶であれば機関室であっても問題ないのかも知れない。
 一部の電路では、ダクト方式の電路としたり(写真M-10)、トレイに電線を布設した後、カバーを据え付けたものもあり(写真M-9)、保護に対する十分な考慮がなされている。これは機関室でのがい装なし電線は保護を必要とする考えの現われとも言える。なお、天井附近の電路ではトレイを上向きに据え付け、その上に電線をに置くことでがい装なし電線の保護としては十分な効力を発すると思われる。
 
2.1.2 S丸 船齢6年 オーストラリア W社建造 84トン
 電線は北欧製のものが使用されており動力及び照明用にはがい装なしビニルシース電線が、制御用には銅編組がい装ビニルシース電線及びがい装なしシールドテープ介在(各対及び全線一括)ビニルシース電線が使用されていた。ただし、制御用で銅編組がい装付き電線を使用しているのは機械的保護というよりノイズ対策としてのシールド線としての意味合いが強いものと思われる。本船を建造した造船所はM丸を建造した造船所とオーストラリア内の同じエリアに位置することからか、M丸と同じメーカーの電線が同じ考えで採用、布設されているような印象を受けた。
 M丸より更に小型の船舶であることから本船の機関室内は非常に狭く、機関室への入室は困難を伴う。従って本船は航海中に機関室へ乗組員が入室することのない船舶である。
 公室内は露出した電線はなく、すべて内張り等で覆われて布設されている。
1)ブリッジの推進用制御電線は運転者の椅子に沿ってプラスチックテープを螺旋状に巻きつけて布設されている。そのテープそのものの機械的保護に対する効果には疑問が残るが電線への外傷は認められなかったない(写真S-1)。
2)外壁に布設された暴露部の電線は床から2m程度の高さまでは金属管で保護しているが、それより上部は露出したまま布設されている(写真S-2)。ただし、位置的に高いこともあって電線への外傷の心配は感じられなかった。
3)暴露部の照明用電線は船体構造物を利用して布設することで結果的に外傷の危険性をなくするかたちで布設されていると言える(写真S-3)。余談となるが電線が必要以上に長くうねるように布設しているが、電線長の計算を全く行わず、電線を切断処理もせずそのまま布設したことがわかる。
4)機関室入り口附近の垂直集合電路は保護されておらず、乗組員の出入りの多い船舶の場合には電線が外傷を受けやすくなるといえる(写真S-4)。本船の場合は外傷は認められなかった。
5)機関室内電路にはパイプ及びダクトで保護した電路があり十分な効力を発揮していると思われる(写真S-5、S-6、S-7)。パイプからダクト(写真S-5)、接続箱からダクト間の電線(写真S-7)も保護すれば完全な保護といえる。
6)電線の貫通は隔壁ではMCT、甲板ではコーミング方式を採用している(写真S-8、S-9、S-10)。ただし、電線の布設は乱雑であり布設作業前の電線長の考慮がされなかった模様でもある。
7)天井部の単独電線をパイプ内布設として保護している(写真S-11)。
 
 本船の機関室は非常に狭く、従って通常の運航時は機関室への乗組員の入室はなく、停止時でも機関室への入室にかなり苦労するほどの狭さである。これは乗組員が入室する機会が少ないため電線布設後は機械的損傷を受ける可能性も減るともいえる。垂直電路ではトレイの支持物へ電線を露出したかたちで布設しているが、機関室への乗組員の出入りがある船舶では電線の機械的損傷に対する不安は拭えない。乗組員の話によると電線の機械的損傷等は経験しておらず、電線を取り替えたことはなかったとのことである。
 一部の電路では、ダクト方式の電路としており(写真S-5、S-6、S-7)十分な保護を施している電路もあり、機関室内の電線は保護が必要との考えがあることがうかがえる。
 なお、船主によると、誘導ノイズと思われる制御系及び通信系での誤作動を経験しており、汽笛を鳴らしたところ主機がトリップするという重大な誤動作もあったとのこと。がい装電線に替えたことで誤作動がなくなったとのことであり、がい装は誘導ノイズの防止にも効果を有していることが再確認されている。
 
長期間運航された船舶における電線の移動物等との接触痕等の有無を含めた電線の状態を知るため(財)日本海事協会の検査員へ任意による協力を依頼し、調査表への記入及び写真による報告から電線の状態を調査した。
 
2.2.1 A丸 船齢20年 国内造船所建造 LNG船
 検査員の写真による報告をもとに調査した。電線はJIS規格品のがい装電線及びがい装プラス防食層付き電線が使用されている。
1)機関室天井デッキ直下の電路では梯子状ハンガーの上に電線を配置して布設している。床からの高さがかなりあると推定でき、かつ、パイプが電路の下に配管されているため機械的損傷を受けるおそれはないと思われ、電線の外傷もなさそうである(写真A-1)。
2)機関室天井デッキ直下の梯子状ハンガー上に電線を配置し布設した電路の例ではハンガーの幅の割に電線本数が少ないが、一本の電線にがい装の部分的な剥離が認められる。また、集合電路からの単独電線はサドル又はランナーバーを利用した布設としているが、位置的に高いことから機械的損傷については考える必要がないかも知れないが、低い場合はその可能性も否定できない(写真A-2)。
3)機関室のフロアを貫通する垂直集合電路は梯子状ハンガーに固定して布設しているが、写真を見る限り電線のがい装には当て傷等機械的損傷は認められない(写真A-3、A-4)。
4)機関室上部に梯子状ハンガーを利用して布設した垂直及び水平電路では位置的理由から電線の外傷は考えなくても良さそうである(写真A-5及びA-6)。
5)機関制御室内天井付近の幹線電路は梯子状ハンガー上に電線を布設しており、また、ランナーバーを利用して布設している電路も見うけられる。機関制御室であること、位置的に高い場所であるということからか、電線の状態は良さそうである(写真A-7、A-8)。なお、がい装電線と防食層付き電線が同一梯子状ハンガー上に布設されているが、電線固定バンドを分けることにより両者の接触を避けるべく布設し、コーミング貫通部にあってもコンパウンドにて電線と鋼製コーミングの接触がないよう貫通させている(写真A-8)。
6)機関室内のある圧力計付近の電線であるが、圧力計への電線にあっては外傷等を受けてなさそうであるが、曲げられてデッキ上部へ貫通していく電線のがい装には剥離が認められる。断熱材で覆われたダクト附近の電線であり、かつ、位置的にも高いため機械的損傷は受けない場所と考えられるため、振動によるがい装の剥離と推定できる。なお、断熱材にも外傷等は認められない(写真A-9)。
7)非常発電機室天井附近の幹線電路は梯子状ハンガー上に電線を布設している。また、分岐電路は梯子状ハンガー及びランナーバーを利用して電線を布設している。いずれの電路にも特に損傷は見当たらない。幹線電路はコーミングにて隔壁貫通しているが、コンパウンドにて電線と鋼製コーミングの接触がないように貫通させている(写真A-10)。
8)居住区域通路の電路は梯子状ハンガー上の電線を布設しているがトレイ上に電線を布設しているところもある(写真A-11、A-12)。
 
 本船は船齢20年でありながら、写真を見る限り電線の状態は振動によるものと思われるがい装の剥離を除き極めて良好であり、機械的損傷の可能性のある当て傷等も認められない。これは大形LNG船のため機関室が広いこと、日本の管理会社で運航管理がなされ乗組員の多くも日本人であることが大きな理由といって差し支えないと思われる。
 
2.2.2 検査員からの調査表への記入形式により収集した情報
 船齢15年以上の船舶に関し次の4例について情報が寄せられた。
例2-1 B丸 船齢30年 ドイツ造船所建造 曳き船兼海難救助船 946GT
例2-2 C丸 船齢18年 国内建造 LNG船 100,000GT
例2-3 D丸 船齢26年 国内建造 漁業調査船 1,100GT
例2-4 F丸 船齢31年 国内建造 漁業調査船 1,100GT
 いずれの船舶も機関室、居住区ともがい装電線が布設されているが、電線の貫通を含む布設要領に特筆すべき情報は見当たらず、電線のがい装へのこれといった外傷も見当たらず、船齢の割には良好な状態を保っているとの情報であった。ただし、例2-2のLNG船を除く船舶では機関室床下へ単独で布設された電線及び居住区に露出して布設された電線のがい装に錆が認められているが、船齢を考慮すると致し方ないものと思われる。また、例2-2のLNG船の暴露部における電路では、防食層付きがい装電線が布設されているが、そのものの状態は良好であったが電路の支持物に錆が認められたとのことである。
 なお、例2-1の船舶の暴露部における電線は比較的新しく、近年取り替えられた形跡が認められているが、製造後の登録検査が2003年に行われた船舶であることからいつ何の理由で取り替えられたかのトレースはできなかった。
 
2.2.3 船舶実態調査(2.1及び2.2)のまとめ
 今回行った海外建造船及び老齢船における電線布設状況の調査を行った結果、機関室内の電線の布設に関しては次のとおりまとめられる。
1)がい装付き電線の布設とした場合、がい装が外傷からの保護に対する十分な効力を発揮しているといえる。
2)機関室内の電線をがい装なし電線の布設とした場合でも、大形船で機関室が十分に広く機関室内での保守作業を行っても電線がその作業範囲から十分な距離が保たれる場所にある場合は電線の布設時に外傷がないように十分な考慮を払えば、必ずしも保護は不要かも知れない。ただし、十分な広さの解釈を含め保護の要否は造船所、船主、検査員等の主観に左右されるといえ、見解が分かれることが考えられる。
3)海外建造船で機関室内がい装なし電線の保護として採用されたダクト方式、あるいは布設後カバーで覆う場合には、外傷に対する保護に十分な効力を発揮していると思われる。
4)水平電路にあっては、ハンガー方式またはトレイ方式を採用し電線をそれらの上に置くことで保護覆いとして見なせそうである。
5)単独電線にあってはパイプでの保護も比較的容易にできると思われる。
6)がい装なし電線の場合、誘導障害を受けやすく、対策が必要である。







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