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10. 開発途上国総合物流整備調査
 開発途上国では、急速な経済成長を背景に物流需要の増大が予想されるなかで、物流インフラの整備は十分であるとは言いがたく、その立ち遅れが効果的な物流体系を構築する阻害要因となっていた。物流システムが機能するためには、輸送、荷役、保管、流通加工等の各段階が有機的かつ合理的に機能し合うことが重要であった。
 このような状況をふまえると、わが国が環境にも配慮しつつ、開発途上国の効率的な物流体系の整備を支援するためには、物流のハード、ソフト両面についての問題点を把握し、物流を総合的に促えた施策を展開することが重要であった。
 
【平成10年度】
 この調査は、物流インフラの立ち遅れが目立つタイ、ラオス、ベトナム及び中国(雲南省)の4ヶ国を対象に既存資料と現地調査により、各国の総合物流体系整備に向けて、わが国が協力するための課題をとりまとめたものである。
 現地調査においては、国内での既存資料の収集・分析に加え、各国の整備、開発計画状況と今後の需要動向や調査対象国のわが国企業・団体の現地法人・現地事務所を対象に物流インフラ及び物流システムに対する要望、ニーズ、問題点等についてヒヤリング調査を行った。これらの調査の結果、総じて物流に関する教育がなされていなく、サービスという概念にも乏しく、また機械や設備に対しても、使用・利用方法についての教育が十分になされてなく、機能していない場合が多かった。
 
【平成11年度】
 ベトナムにおける物流の成熟度、課題等を把握するため、国内の貨物流動、物流基盤整備の状況、輸送業者、倉庫業者の活動実態、荷主における外部倉庫の活用実態、政府機関における物流機能整備に対する取り組み姿勢等について、ヒヤリング、アンケート調査を実施して調査結果のとりまとめを行った。
 また、11年度は、前年度に実施した現地進出日系企業ヒヤリングで指摘された事項の一つである保管・荷役機能に着目し、ベトナムにおける問題点及び課題を明らかにするとともに、わが国の支援の方向についてとりまとめた。
 ベトナムの物流体系の整備を進めるためには、ベトナム政府が中心となって、全国の物流実態の把握、それをふまえた物流拠点の配置計画をまとめ、計画的に整備を進めていくことが重要であった。
 
 運輸セクターの整備をするに当たって、各運輸モード(水運、鉄道、道路、航空等)が独自にその整備を進めるのではなく、各モードがそれぞれの特徴を活かしながら相互に連携した、いわゆる総合交通計画とする必要があった。
 このような認識のもと、運輸モード全体についての幅広い知識を持った人材、及び各運輸モードごとに施設の整備、維持管理、運営に関する専門知識を持った人材の養成を行う必要があった。このためわが国は、開発途上国の国造りの基礎となる「人造り」を目的として、研修員受入れ、専門家派遣、機材の供与からなる「技術協力」により、或いはこれらを組み合わせて、プロジェクト方式技術協力等による人材養成を実施してきたところであるが、この調査は、従来のやり方を振り返り、より効果的、効率的な人材養成の整備方策等を提案することを目的としたものである。
 
【平成7年度】
 調査対象を、経済発展が進行している東アジア地域(中国、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、インドネシア)とし、これら開発途上国において、その経済・社会発展を支えるうえにおいて重要な役割を果たす運輸分野の基盤整備を進めるうえでこれらに関わる人材の育成が重要であるとの認識のもと、人材養成実施体制を検討するため以下の事項について調査分析した。
・人材養成システムの現状及び課題の分析
・人材養成ニーズの把握
・ニーズの分析等に基づいて、人材養成の対象者、養成の目的の設定
・人材養成実施体制の試案の提示
 
【平成8年度】
 調査対象国を、フィリピン、ベトナム、インドネシア及びタイとし、調査対象機関は各国とも、計画局等の「計画・マネージメント部門」と運輸各分野の「専門業務部門」をそれぞれ一つづつ取り上げた。調査は、これらの機関に質問表を事前に配布し、質問表に沿って直接インタビューを行った。さらに、運輸アタッシェ・JICA派遣専門家にも面談し、幅広く各方面の意見を聴取した。
 
 この調査を実施した平成7年頃のわが国は、厳しい財政再建途上にあり、大規模な投資を必要とするインフラ整備に当たっては、事前に費用効果分析による投資効果の算定が義務づけられていた。ODAについても量から質への転換、顔の見える援助をという要請が高まっており、国内プロジェクトと同様に、これまで以上に説明責任が要求されていた。ODAプロジェクトは事業実施前に費用効果分析による定量的な評価が行われているが、投資効果の妥当性を説明するには、事後評価についても定量的な評価を行う必要があった。
 
【平成7年度】
 インドネシア国ジャカルタ首都圏鉄道近代化事業にテーマを絞り、協力実施上の問題点、協力の効果を調査することにより、以後のわが国の援助のあり方を提言した。
 
【平成8年度】
 エジプトのアラブ科学技術海運大学校プロジェクトを対象にすでに実施した技術協力の評価、現状分析、STCW条約及びSOLAS条約の改正等船員教育を取り巻く国際的な環境の変化を調査することにより、アラブ科学技術海運大学校に対するその後のわが国の協力の可能性を提言した。(9年度は実施せず)
 
【平成10年度】
 運輸分野のODAプロジェクトの説明責任を高めるため、わが国のODAで実施された鉄道、港湾及び空港の3分野の代表的な事例について費用効果分析による定量的評価を行い、それを通じて事後評価に適した分析手法及びデータの取得体制等のあり方をとりまとめた。
 
【平成11年度】
 昨年に引き続き対象事例を「フィリピン・マクターンセブ国際空港整備」に絞り、企業立地、観光客、地域雇用等の経済波及効果、更に日本企業の立地とその背景等について、直接セブ・ラプラプ両市役所・マクダーン経済区公団・マクターンセブ空港公団・現地企業等に対してアンケート調査を実施した
 
【平成12年度】
 インドネシア国ジャカルタのJABOTABEK区域内の鉄道整備を対象に事後評価分析を行った。この調査は、電化・高架化・複線化等これまでに実施された各種の整備事業実施直後に行われた調査結果をもとに、その後の発展や変遷について鉄道側や鉄道利用者に対してデータ収集・インタビュー等に加え、周辺地域住民や一般企業に対してアンケート調査を実施し、データ収集を行った。
 
 この調査は、カンボジア及びラオスを対象に、インドシナ地域全体における開発動向等を勘案しつつ、両国の経済開発動向及び運輸インフラの整備状況、整備課題、援助動向等を整理・分析することにより、わが国の両国に対する運輸分野協力のあり方をとりまとめることを目的としたが、両国に対する運輸経済協力のあり方を検討するに当たっては、両国のほか、ベトナム、タイにミャンマーと中国雲南省を加えたインドシナ地域諸国全体を視野に入れて、広域的な視点から課題を捉えていく必要があった。この調査は、平成8年度に実施したものである。
 
 インドシナ地域においては、財源及び人材の不足、内戦の影響などの理由で、道路・鉄道・港湾・空港など国内の基幹運輸インフラの整備が遅れている地域が少なくなかった。特に、この調査の直接の対象国であるカンボジア及びラオスについては、運輸インフラの整備の遅れが国の経済発展の重大な障害となっており、早急な整備が求められている状況にあった。
 わが国の協力の進め方としては、地域全体及び各構成国の経済発展に呼応して、ある程度長期的な視点に立ってその実現を考えていく必要があった。そのためには、長期的視点から見た全体的な整備プランを作成し、これに基づいて段階的・重点的整備を行うことが効率的であった。
 観光分野については、アンコール遺跡等の貴重な観光資源が存在すること、観光が外貨獲得手段として有効であること等から、観光分野の重要性も高いと考えられたが、効率的な開発、観光資源の連携による地域的な魅力の向上といった観点から、観光開発についても地域全体の視点が必要と考えられた。
 
 これらをふまえて考えると、インドシナ地域における運輸インフラネットワークの整備に関するわが国の協力の進め方として、(1)長期的な広域的国際ネットワーク及びインドシナ地域全体にネットワークの形成を考慮した、各国の国内幹線インフラネットワークの作成に関して支援を行う。(2)個別のプロジェクトについては、現行の方式どおり各国の要請に基づいて援助を行うこととなるが、その際、タイ等の他の援助国との役割分担を行い、いわゆる「南南協力」や「三角協力」に対する支援も考慮する必要があった。
 
 急速に経済成長を遂げている開発途上国においては、BOT方式(Build, Operate and Transfer)などの民間事業により、運輸関係その他のインフラ整備を進める動きが活発に見られるようになってきていた。
 この調査は、開発途上国における運輸インフラ民活整備事業の事例を取り上げ、どのような仕組み、内容で事業が行われてきているのか、どのような事業上の課題が生じてきているのかについて実態を分析し、民活導入による運輸インフラ整備に対するわが国の国際協力支援の方向を探ることを目的としたものである。
 
【平成8年度】
 タイ国バンコク市都市鉄道整備事業及びレムチャバン港コンテナターミナル整備事業を調査事例として取り上げた。
 多くのアセアン諸国と同様、タイにおいても、民活インフラ整備促進のための法制度整備がなされていた。しかし、契約条項が不明確であり、通常想定される問題に対しても解決方策を明記したものとはなっていなかった。
 調査対象の港湾事例はBOT事業で一般的なノンリコースのプロジェクトファイナンス方式を取っているのに対して、鉄道事例では、プロジェクトファイナンス方式を取らず、親会社が全額出資している点が特徴であった。
 
【平成9年度】
 8年度からの継続調査として、鉄道、港湾及び空港の民活プロジェクトをケーススタディとしてそれぞれのプロジェクトの現況と課題の整理を行い、その分析結果に基づいて、各運輸分野における民活プロジェクトの成立条件を整理した。更に、民活プロジェクト導入における途上国政府など公的セクターの果たすべき役割と、それをふまえてのわが国の支援策をとりまとめた。
 
 運輸インフラ整備を民活事業として推進する場合、民活導入環境整備などの面において、公的セクターの果たす役割は重要であった。しかし途上国政府にはこの分野における技術的・財政的な制約が多かった。途上国での民活インフラ事業には多大なリスクが伴うため、この分野への参入をうかがう日本企業や途上国企業への支援策も必要であった。そこで途上国の運輸インフラ民活導入に伴って可能と考えられる日本政府の支援策を提言した。技術支援策としては、(1)マスタプラン策定支援の強化(2)民活準備段階におけるF/S実施などの支援強化(3)民活事業監理/評価支援強化等、また資金援助としては、(1)基礎インフラ整備支援(2)環境対策支援等が考えられた。







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