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15. 民活業務支援調査
 開発途上国の運輸インフラ整備に当たっては、民間の資金と知恵に期待する途上国政府関係者の声には根強いものがあった。民間事業者の参加を促すためには、途上国政府においても事前にマスタープランの策定、官民の役割分担の明確化、政府政策決定過程、許認可手続きの透明化等の方策を講じておく必要があった。
 平成10年度は、民活によるインフラ整備への期待が大きいベトナムにおいて、両国関係者によるセミナーを開催した。このセミナーでは、開発途上国における運輸インフラ民活事業の事例を取り上げ、どのような仕組み、内容で事業が行われているのか、どのような事業実施上の問題が生じてきているのか等について実態を紹介した。これにより、開発途上国における民活事業が適正・円滑に推進されると同時に、民活導入による運輸インフラ整備に対するわが国の国際協力支援を深めていこうとするものであった。
 
 このセミナーにおいては、まず、日本側から、「交通インフラ整備における官民の役割」と題する基調講演が行われた後、「事例から学ぶ運輸インフラ整備への民活導入」「アジアにおけるBOT方式(Build, Operate and Transfer)による銭道・道路事業例」及び「ベトナムにおける運輸セクター民活インフラ整備促進策」についてそれぞれ講演が行われた。一方、ベトナム側からは「ベトナムにおける運輸インフラ整備への民活導入」と題する講演が行われた。ベトナム政府の今後の対応は、ベトナム民活インフラ整備を促進していくための課題としては、BOT以外に政府のインフラ財産のリースや運営管理への民活導入等投資形態の拡大、リスク分散として政府が必要な負担を負うこと、商業施設開発等の土地利用の許可、総合プロジェクトの事前調整、早期に資本の回収ができない場合の特許期間の延長、政府による事前の用地確保、住民補償の実施、証券市場の早期整備等を考えているとのことであった。
 このセミナーには、両国から多くの参加者があり、セミナーにおいては、ベトナムにおいて民活インフラをいかに促進するか等の提言がなされたほか、講演会後の質疑応答では、ベトナム側から事業収益の官民分担の考え方に関する質問がでるなど、ベトナム側の関心の高さが伺えられた。
 
 中国においては、計画経済から市場経済への移行という命題の下、国有企業の改革が進められてきた。中国鉄道部も例外でなく、1998年に機構改革を行い、政府機関である鉄道部自ら政府・企業分離のための組織や経営体制の見直しを行ったところである。また、北京〜上海間においては、世界的にも他に類のない大規模な高速鉄道が計画されており、国家の大動脈として重要であり、急を要することは間違いないものの、どのように建設し運営していくかはまだ大きな課題となっていた。
 こうした時点で、わが国が国鉄民営化をふまえた鉄道事業の組織・運営の改革の成功事例を紹介し、そのノウハウを提供することは非常に有効なことであった。同国の成功が他の開発途上国におけるその後の運輸インフラ整備に大きな影響を及ぼすものであり、わが国の民活導入による改革のノウハウがさらに他国の運輸インフラ整備に参考になった。
 平成11年度に実施されたこの調査は、中国の鉄道改革に寄与するとともに、わが国の国際協力の支援に対する知見を深めてもらうことを目的に、わが国の国鉄民営化をふまえた、効率的で生産性の高い鉄道事業の紹介についてのセミナーを実施したものである。事前調査として、中国鉄道部における組織改革及び鉄道運営に関する改革或いは北京〜上海間の高速鉄道の建設・運営についての政策方針等を調査し、民活導入についての可能性を検討した。高速鉄道建設計画は、駅周辺の開発など鉄道関連事業の促進も期待され、関連産業の発達や雇用の拡大が見込める点で大変魅力的であった。それを実現するためには企業化の方向を重視し、金融市場をも活性化させる民間活力の導入を図ることが重要であった。
 
 今回開催された「民活導入支援セミナー」において、日本側からは、「日本の国鉄民営化について」「変身した日本の旅客鉄道」「国鉄改革と新幹線」及び「国鉄民営化に伴う国の役割の変化」、また中国側から、「中国鉄道の現状」についてそれぞれ講演が行われた。
 わが国の鉄道改革に関する講演会は、中国側が大きな関心を示し、鉄道部、国務院ほか6機関から多くの参加者があった。講演終了後は活発な質疑応答が行われた。
 このことは、中国が直面している国営企業改革問題が如何に深刻であり、各機関が必死で取り組んでいる大変な問題であることを物語っているものと思われた。
 
【平成12年度】
 インドネシア国ジャカルタ市において、民活導入支援セミナーが開催された。インドネシアの鉄道は、施設は国が所有しているが、運行は民営化されたインドネシア鉄道会社が行っており、形の上では民営化が実施されていた。今回のセミナーは、このようなインドネシアの鉄道の状況を勘案し、わが国における鉄道改革、鉄道経営等について情報提供を行い、その後のインドネシアにおいて、民営化されたインドネシア国鉄がさらに効率的な経営を行っていくうえで、またジャカルタにおいて計画されているMRTのような新たな鉄道の整備を行う場合に適正な事業手法の選定・運営等が行われるための一助にしようとするものであった。
 ジャカルタ市で開催されたセミナーでは、日本側からは、「日本国鉄の民営化の概要とその後」「日本の都市鉄導経営形態」「民鉄の鉄道整備と地域開発について」及び「帝都高速度交通営団の地下鉄整備」について講演が行われた。また、インドネシア側からは、「インドネシア鉄道の発展」についての講演が行われた。このセミナーにはインドネシア側から多くの参加者があり、国と地方との密接な協調の必要性、国・地域の経済・社会基盤の発展確立のための鉄道のあり方や国と地方政府の支援などの関わり方について深く考えさせるきっかけとなった。
 
【平成13年度】
 都市鉄道プロジェクト計画の再検討を迫られ、また新たな新空港線鉄道等の計画があるタイ国バンコク首都圏を対象に、タイの都市鉄道計画関係者に対しセミナーを開催した。講演は、「都市鉄道輸送におけるJRの役割」「東京の地下鉄における相互直通運転」「日本の車両技術」「東京の都市鉄道網の整備における行政の役割」及び「バンコクの都市鉄道の現状と将来」の5つのテーマについて行われた。このセミナーは、同国の鉄道関係者に対し、バンコク首都圏の効率的かつ経済的な都市鉄道計画を自発的に考え、推進するための動機付けを目的として開催されたものである。
 セミナーの内容に関する評価は良好で、都市鉄道整備に関する国の支援制度及び相互乗り入れにより既存インフラと新規に整備するインフラを効果的に利用する方式について大きな関心を集めた。また同市の都市鉄道将来計画でも空港線において、複々線などが想定されており、JRにおける実績などの紹介例も大いに参考になったと思われる。
 
民活導入支援セミナー 於 タイ・バンコク
 
 世界的に人口800万人を越える都市は26以上に及んでいてその大部分はアジア諸国に集中している。著しい成長を遂げてきたアジア諸国の大都市は人口の過度の集中とモータリゼーションの進展とによる交通渋滞と大気汚染の誘発により都市の発展が阻害され始めていた。
 
 開発途上国における都市交通問題に関し、積極的な支援を目指していた運輸省は、開発途上国の都市交通問題にたずさわる関係省庁、JICA及びOECF等の担当者並びに各国に派遣されている専門家が都市交通計画の策定又は評価に際して、全体のプロセスと各段階に応じて着目すべき点及び開発途上国での実例などを含んだ包括的なマニュアルを作成した。
 これまでにJICAを通じてわが国が都市交通計画を実施した都市は、世界で30都市近くにのぼっており、このマニュアルは、これらの都市の都市住民の交通行動、都市交通施設整備・運営状況などを、以後の都市交通計画策定の際に、専門家及び関係者が参考とすることを目的として、過去の調査から横断的に整理した。
 
 都市交通問題には、社会、統計、工学技術、財務、経済など多岐にわたる分野からのアプローチが要求され、途上国に派遣される都市交通専門家にとって、これら他分野にわたる知識と情報を携えて行くことは事実上不可能に近かった。このマニュアルでは、これら多岐にわたる分野について、過去の調査の事例などを盛り込んで、少なくとも当面の問題解決の糸口を示すことを目指した。更に詳細な情報は、それぞれの専門書、参考文献を参照していただきたい。
 また、このマニュアルでは、同じ悩みを抱える途上国内の都市での事例を参考として対策を立てる場合の資料とすることも目指した。
 このマニュアルは、第1編「都市交通の現状分析」で現況調査の際の留意点について、第2編「都市交通計画の策定」では、マスタープラン策定の際の留意点について、第3編「個別都市交通施設の整備計画」では、主としてフィージビリティ調査の際の留意点について、第4編「実施計画の推進」では、これらの調査をふまえてプロジェクトを実施する際の留意点についてそれぞれ記載した。
 平成10年度は、9年度に作成したこのマニュアルを英文にした。
 
 ソビエト崩壊後の中央アジア諸国の民主化・市場経済化を支援するためには、経済発展に必要不可欠な物流システム、特に鉄道のハード・ソフトの両面から再構築を支援することが重要であった。また、中央アジアの鉄道は、東アジアから欧州に至る新たな動脈である「シルクロード鉄道」の中心的な部分を構成するものであり、この整備はわが国にとっても中央アジアヘの貨物輸送の観点から重要であった。また、内陸国である中央アジア諸国にとって鉄道は最も重要な輸送機関であった。しかし、既存の鉄道の老朽化対策及び効率の向上、運営体制の強化、中央アジア諸国間の国際輸送力増強、鉄道運営の協調、ペルシャ湾の港湾との接続広域的な国際輸送の輸送力増強等の課題を抱えていた。中央アジア諸国は、1993年よりODA対象国となったところであり、わが国としてもアジアの一員として経済協力を実施していく必要があった。平成9年度に実施されたこの事業においては、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン及び中国の各国に調査員を派遣し、各国の鉄道事情を調査した。また、中国を除くこれらの国及びカザフスタンから鉄道関係責任者をわが国に招へいした。
 
 イランからは、運輸次官、国鉄総裁、トルクメニスタンから鉄道技師長、ウズベキスタンから鉄道副総裁、またカザフスタンから鉄道副総裁をそれぞれ招へいし、シルクロード鉄道の状況、整備課題、協力ニーズ等について意見交換を行った。
 また、平成10年1月29日には、「シルクロード鉄道の整備促進とその利用の拡大に向けて」をテーマに、わが国の学識経験者及び被招へい者による「シルクロード鉄道国際フォーラム」が運輸省の主催により開催された。
 
 フォーラムにおいては、運輸省大臣官房総務審議官の開会の挨拶、わが国の学者による基調講演に続いて、被招へい者からそれぞれの国のシルクロード鉄道の現状、問題点等について講演が行われた。
 講演会の後、出席者による活発な質疑応答が行われ、またレセプションが盛大に開催された。
 このフォーラムには、運輸省関係者をはじめ、当協会職員、当協会会員のほか、多くの鉄道関係者等の参加を得て、成功裏に終了した。
 
 メコン圏地域における運輸インフラの整備は、同地域の均衡ある発展を図るうえでも、また地域内及び地域外との人的交流・物流の円滑化を果たすためにも不可欠であった。また、メコン圏地域には、アンコールワットを初めとする数々の仏教遺跡、リゾート性の高い海岸地域が存在しており、これら観光資源のネットワーク化を図りながら、持続可能な観光開発を進めることが必要であった。
 
 平成9年度に実施したこの調査は、その後のメコン圏地域への総合的・効率的な運輸分野国際協力の推進を期するためにその課題を抽出し、その後の方向性を検討することを目的として実施したものである。
 メコン圏では、道路・鉄道・港湾・空港などの基幹運輸インフラの整備が遅れており、これの整備に当たっては圏内各国の国情が異なることから、国々の状況を見ながら地域全体及び各国の経済発展に呼応して、長期的な視点を持ちながらその実現化を目指していく必要があった。メコン圏の発展を支援していくに当たっては、次のような課題に取り組むことが必要であった。
 
・メコン圏の持続的経済発展のための運輸インフラ整備と、それらインフラの効率的活用に向けてのメコン圏全体のネットワーク形成、各モード間の連携及び整備・運営のための民活ノウハウの導入等に当たっては、インフラ整備の明確な位置づけとそれぞれのモード及び地域間の連携に対する長期的な視野に立った地域マスタープランの作成が必要である。
・観光については、各国単独の観光開発に留まらず、隣国同士や隣国地域間同士が協調した観光開発地域協力の推進が不可欠である。
・メコン圏においては、人材育成が今後の発展に向けて大きな課題の一つになっている。従って、訓練センターや研修センター等の人材育成拠点となる施設整備が必要である。
・メコン圏6ヶ国全体の円滑な運輸輸送を行うためには、各国間の調整が必要である。
 そのためには、メコン圏全体の公平かつ適切な運輸基準等の策定が可能となるよう、メコン圏全体に対する調整機能を持つ、中立的な調整スキームの設立がその後の展開に向けて必要と考えられた。
 
 世界海上輸送の安全確保を図るため、1999年2月までに全世界的海上遭難安全システム(GMDSS-Global Maritime Distress and Safety System)の導入が完全実施されることになっていたが、多くの開発途上国においては、船舶の無線通信装置の設置、救助船や救助航空機の配置、国内法の改正、船舶職員への教育・訓練・免許等多くの問題を抱えている状況であった。
 このシステムは、万一海上遭難事故が発生した場合、世界のどの海域を航行中であっても常に陸上の捜索救助機関や付近を航行中の船舶と迅速かつ的確な遭難通信を可能ならしめる、陸海空一体の新しい国際的な遭難安全通信システムである。
 この調査は、同システムの導入状況について、海運、船員、海上安全(捜索・救難)等広範な分野の実態調査をふまえ、安全性に関する総合的な現状診断を行い、問題点を抽出するとともに、各国の国情に即した適切な安全対策(ガイドライン)及び導入方策を検討し、提言を行うものであった。
 
【平成7年度】
 初年度は、特定国を詳細に調査せず、体制面で異なる進捗状況にあるタイ、インドネシア及びフィリピンの3ヶ国を試行的に選んで調査を行い、途上国が抱えている課題を可能な限り一般化してわが国の指針と方策を検討した。
 
【平成8年度】
 タイ国を対象に調査した。タイ国においては、船員教育訓練センターでプロジェクト方式の技術協力を実施しており、GMDSSの資格取得コースの新設が進められてきた。また船員の訓練及び資格についても訓練コースが開設され訓練が開始されていた。これは、1993年から船員教育訓練センターにわが国がプロジェクト方式技術協力を実施し、訓練機材の供与、専門家の派遣、研修生の受入れ等を実施したことが大きく寄与しているものであった。更に、この調査を通じてタイ国政府に対してGMDSS教育の必要性への認識を深めさせることができたとすれば、この事業の目的の一つは果たされたこととなる。
 
【平成9年度】
 大小400からなる南太平洋上の島嶼国、フィジー共和国におけるGMDSSの整備状況を調査し、このような小さな規模の小さな島国では、どのような問題があり、その後わが国としてはどのような国際協力が可能かを検討した。







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