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9. 環太平洋地域の運輸・通信・観光の発展についての研究事業
 開発途上国の社会・経済の発展にとって、運輸関係基盤施設の整備とその施設の適切な維持・管理・運営の重要性は益々高まっており、しかも、これらは、もはや通信技術との接合なしには十分な効果を上げられない段階に達していた。また、アジアを中心とする開発途上国での関連施設の開発維持は、外貨収入産業である観光産業の発展と深く関わっていた。当協会は、この分野での検討を推進している太平洋経済協力会議(PECC)日本委員会運輸・通信・観光(Triple-T)小委員会と協力して、太平洋地域における運輸・通信・観光の3分野の発展が太平洋地域の社会・文化・産業に与える影響について調査・研究を推進し、その国際的な検討を図るための国際会議を開催して政策提言を行うとともに、海外視察を実施して関連プロジェクトの提案をすることを目的とした。
 
【平成2年度】
 太平洋地域での民間レベルでの国際的な経済協力への提言活動を推進しているPECC並びにこの分野に関連した国際会議へ当協会調査員を派遣し国際協力の場での検討を行った。また、PECC日本委員会運輸・通信・観光(Triple-T)小委員会と協力して、関連プロジェクト提案のための海外調査のために、「トリプルTインフラサーベイチーム」と「アジア太平洋地域運輸基盤チーム」を編成、アジア各国の海外視察を実施した。更に、PECC日本委員会運輸・通信・観光(Triple-T)小委員会へ委託し、小委員会で調査検討を進めてもらう等して、PECCトリプルTタスクフォースハワイ会議のバックグランド・ペーパーとなる英文調査報告書をとりまとめた。
 
【平成3年度及び4年度】
 PECC関連国際会議等への調査員の派遣、海外調査の実施のほか、平成3年度においては、同小委員会へ調査業務を委託し、関連プロジェクトの検討を進めてもらうとともに、バリ・プロジェクト検討会議の際に発表されたトリプルTプロファイルサーベイプロジェクト報告書(英文)の作成を支援した。また平成4年度においては、PECC日本委員会トリプルT小委員会と協力して実施したトリプルTポート(テレポート)プロジェクト第2フェーズ報告書(最終報告書)の作成(英文)を支援した。
 
 経済、社会の発展の基礎をなす運輸分野への開発途上国からの国際協力ニーズは益々増大してきており、これらのニーズに対して、効率的な援助が望まれたが、その前提として当該国の運輸分野に関わる基礎情報並びに最新情報を整備しておくとが重要であった。しかしながら、これが充分に整備されている状況ではなかった。平成6年度に実施されたこの事業は、海外運輸情報の整備に係る情報センターとしての機能の確立を図るため、その根幹をなす機材のハードウェア運用とその情報システムの開発を行うことを目的とした。
 まず、情報センターを確立するうえで基礎となるファクシミリ、ビデオ、保管庫等を協会内に設置し、これまで未整理であった関係書籍、報告書等を収集し、蓄積した。またこれらを広く一般に閲覧できるよう協会の一部を開放した。
 従来、国際協力事業団(JICA)、海外経済協力基金(OECF)等が各協力形態ごとに別々の取りまとめ方法により各種の書籍、報告書等に掲示していた情報を厳選し、必要情報を分かりやすいレイアウトによりデータベース化し、パソコン等により容易に検索できるようにした。また、簡易なファクス送受信システムを構築し、外部との情報交換が行えるようになったことから最新情報の入手や利用者のニーズを的確に把握できるようになった。
 
 当時、これらの情報を整理できたことは、その後、わが国が運輸分野の国際協力を実施するうえで、効果的な援助指針が策定できるようになった。また、平成6年度、当協会内に運輸分野全般にまたがる諸問題等について調査・研究を行うことにより運輸分野国際協力の総合的な推進を図ることを目的とした「運輸協力研究センター」を設置した。この事業により当協会の研究センター業務に対して、多くの成果をもたらした。
 更に、益々増大する開発途上国からの運輸分野の協力要請に対して的確に対応できるとともに、過去の実績等の必要情報を迅速に提供できるようになったことから、運輸分野の国際協力の一層の推進に寄与したことと思われる。
 
 先進諸国、国際機関の運輸分野の国際協力の制度、スキーム、実施体制、実施方法、融資の条件、実施プロジェクト事例等をわが国の国際協力の制度と比較することにより、わが国の運輸分野の国際協力を一層効果的に推進するため平成7年度から2年間にわたり、ドイツ、フランス・イギリス・イタリア及びアメリカの主要先進国及び欧州復興開発銀行、世界銀行、アジア開発銀行、米州開発銀行の国際開発金融機関の運輸分野の国際協力に関する情報(援助方針、予算額、地域的・国別配分、援助スキーム、融資条件、技術協力体制、実施機関、専門官庁の関与、事後評価体制等)を現地調査に基ずいて収集、検討し、わが国の望ましい運輸分野の国際協力の制度を提案するための基礎資料を整理・分析した。更に、わが国の国際協力の制度と比較評価を行った。また、運輸関連国際協力プロジェクトに関する事例調査を実施することにより、運輸分野プロジェクトにおけるわが国援助の問題点及び対応策を検討した。
 
 調査対象機関としては、イギリス−海外開発庁、フランス−経済財務省、経済協力庁、フランス開発公社、ドイツ−経済協力省、復興金融公庫、技術協力会社、イタリア−外務省開発協力総局、中期信用中央金庫、国際開発金融機関−欧州復興開発銀行、各国コンサルティング企業、また、アメリカにおいては、米国輸出入銀行、世界銀行、アジア開発銀行、米州開発銀行及びコンサルティング企業をそれぞれ対象とした。
 調査内容は、案件の発掘、案件の選定、プロジェクト評価、事業の実施及び事業の評価とした。
 この事業は、開発途上国への運輸分野国際協力プロジェクトにおけるわが国の援助の問題点及び改善策を探ることを目的としており、その一環として、当協会の会員団体を対象に、会員の案件発掘活動、受注状況及び運輸分野政府開発援助行政についてのアンケート調査を実施した。
 この事業で得られた成果は、その後のわが国の運輸分野国際協力を一層効果的に推進するうえで非常に有意義なものであった。
 
 急速に経済成長を遂げるアジア諸国では、大都市のモータリゼーションが急激に進む一方、都市交通基盤整備の遅れにより都市の交通公害が深刻化しており、こうした都市交通問題とそれにより発生する交通公害の問題を早急に解決することが緊急の課題となっていた。
 かかる状況に鑑み、この事業は都市交通問題と交通公害を抱えその対策に取り組んでいる開発途上国の交通専門家と交通状況の現地調査を通じて、その問題点と対策について意見交換及び技術協力を行うことを目的としたものである。平成7年度は計画経済から改革開放経済に移行しつつあったが、自動車の交通量の増加、鉄道の未整備、交通法規の未整備により都市交通公害の深刻化が予想された中国の都市、大連を対象に、現地の交通専門家と交通公害の現地調査を通じて意見交換と技術協力を行った。大連市においては、都市交通及び交通公害に関するセミナーを開催するとともに簡易測定装置を用いて大気汚染の程度を把握した。また、大連市の交通公害対策担当者をわが国に招へいし、都市交通公害セミナーの開催、わが国の関連施設の視察等を通じて以後の都市交通公害対策についての意見・情報交換を行った。
 
 科学技術の進歩、産業の発展など人間活動が飛躍的に拡大し、これに起因する様々な環境問題が懸念されていた。ところが、開発途上国においては、こうした問題に対して有効な対策を見出せない状況にあるだけでなく、経済発展を意識するあまり環境問題に対する影響の認識が必ずしも十分とは言えなかった。
 このような状況に鑑み、計画経済から市場経済に移行した中国の大連市を対象として都市交通公害対策についての専門家と交流を行ったことは、時期を得たものであった。特にわが国の交通公害を克服してきた経験にもとずき経済発展を急ぐあまり深刻化する中国の都市交通公害対策担当者と交流したことは、この結果が中国の他の都市へも適用できるという意味で波及効果の大きいものであった。
 この事業の手法の成果は、その後更に他の発展途上国にも広げられ、大変有意義なものであった。







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