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II 国・海域別調査等
6 英国航海学会主催AISセミナー
 平成15年11月24日・25日、英国航海学会が開催したAISセミナーに出席し、講演の概要を取り纏めた。
 
英国におけるAISの取組み
(英国運輸省施設・海運局長)
 
1 発言のポイント
(1)AISの活用
 英国はAISを、VTSとの融合を通じ船舶交通の監視を行うことによる「海運の安全とセキュリティ」、「監視手法の統合」及びバーチャル標識の活用による「航路標識業務」に役立てる。
(2)AIS整備・運用に関連する機関
 英国海事コーストガード、トリニティハウス等の灯台機関、港湾公社
(3)財源
 英国運輸省予算及び一般灯台基金
(4)今後の検討事項
イ 情報表示のあり方
ロ AIS使用の強制化
ハ セキュリティ、航路標識への活用
(5)作業予定
イ AISの実用試験を通じた検証を実施
ロ 船舶交通監視のカバレッジの見直し
ハ 航路標識としてのAISの活用
ニ 衛星航法システムのバックアップ検討−ロランCシステム活用の可否
 
2 英国海事コーストガード(MCA)によるAIS実証実験の概要
(1)目的
 AISネットワーク構想の検証及び異なる機種のAIS基地局で構成されるネットワークのインターフェースに係る技術的問題の有無の検証を実施し、AISネットワークに係る信頼度の高い標準仕様を提案する。
(2)実証実験の概要
イ AISシステムの拡大
 実証実験は、ドーバーRCCに設置されたAISシステムをMCAの広域ネットワークを通じ地区RCCの遠隔無線所とリンクさせ、英国沿岸海域のうち検証を必要とする海域をカバーする形で実施する。
ロ 主な実証実験項目
・AIS情報の記録・蓄積機能の確定
・AIS情報のシステム処理に係る最大負荷予測
・安全関連メッセージの送付に関するAIS基地局の遠隔操作の可否
・実際のAISカバレッジにおける全メッセージ取得可能性の調査
・データー交換のためのMCA・WANとのインターフェース、データー検索システム等の確定
・AIS情報の表示方法の検討
・他のAISネットワークとの連携方策
 
AIS-はじめに
(英国トリニティハウス)
 
1 沿革
 沿岸国、とりわけ欧州にとっては、船舶の航路把握と船位通報は長年の待ち望まれたことであった。そのため、IMOとEUは特定の海域を航行する船舶に対し強制船位通報システムを導入したが、それ以外の海域を航行する船舶の識別は相変わらず出来なかった。船舶による事故とそれに惹起した環境破壊の経験から、各国は自国の沿岸海域を航行する船舶の識別が不可欠となり、遂にAISの誕生を見た。
 
2 AISの表示
 AISデーターはMKDによる最低限の表示義務があるが、現在AISデーター専用の表示機器、或いはECDIS上での重畳表示についても検討がなされている。表示の方法については、全てのSOLAS適用船にAISが搭載されたら、船舶の輻輳海域では情報過多となりそれらの情報表示に著しい不都合を生じることが懸念されている。もし小型船などがCLASS-BのAISを搭載することとなった場合、航海士としてはCLASS-Bの情報は画面上で表示せずにしておくことも選択肢の一つ。
 
3 航法への影響
 今後、AIS情報に基づき相手船の船名を確認し、船橋間でVHFを使ってコンタクトをとることとなる場合、衝突予防法の規定の見直しを行う必要があるとの意見がある。
 
4 小型船へのAISの搭載
 プレジャー関係者は、小型船用のAISが開発されることを強く望んでいる。彼らはAISさえ搭載すれば大型船が何時も見ていて(確認していて)くれると考えている。
 
5 システムの脆弱性
 AISはGPSに完全に依存しているため、干渉やジャミングといった脆弱性に常にさらされている。
 
6 パイロット業務への活用
 岬の向こう側から来る船舶の位置、速力・針路や船体の大きさ等に関する情報を目視する前に入手できるため、パイロットにとっては強力な武器となろう。
 
7 陸上局間のAISネットワーク
 AISは陸上側で船舶の動静を把握できる点の有効な活用方法の研究・開発が最も重要である。陸上側でAIS情報を継続して入手することにより、出入港船の航海情報や詳細な船舶・積荷情報に基づき、更にきめ細くかつ正確なサービスを提供できるであろう。
 また、海上安全・セキュリティ当局はAIS情報に大変な興味を持つであろうし、バラスト水管理のための船舶の継続監視にも役立つ可能性がある。
 
8 AISの航行安全への活用
 一定海域における航行船の監視、AISの擬似航路標識への応用を含め、船舶の航行安全のための幅広く活用法を検討している。
 
AISが衝突予防をいかに支援できるか
(独ハンブルグ応用科学大学フリン教授)
 
1 口頭による通信が与えるインパクト:操船・動作について合意する場合
(1)VHFによる通信は、港内、河川及び群島においては船舶交通の問題を管理するため一般的に使われている。VHF通信を使用する場合、その前提となる大きな問題の一つは、通信相手が確かに自分が意図した相手であることをいかに確保するかということ。
 これに対しAISは、相手船がAISを搭載している場合には、船舶の識別を明確に行うことができるため大きな助けとなる。
(2)他方、AISは他の船舶の船名のみならず、針路・速力、回頭の有無といった運動識別情報を提供することから、通常の状況では他船との間で口頭による連絡をする必要性は低いはずである。それでもなお、上記(1)のとおりAISを活用して確認した他の船との間で船橋間VHFを使用し、COLREGに反する動作を、双方の合意により実施することが増えることも杞憂される。AISの活用により、船員にこのような利用を助長させてはならない。
 
2 未来型AIS情報の使用が与えるインパクト
 将来的には、船舶の操船、航法及び衝突予防に効果的なインパクトを与える安全関連AIS情報が登場する。例えば、実測したリアルタイムの風向・風速、潮汐、水位などの気象情報が、観測所から発信され船橋のECDISやレーダー画面上に表示されれば、狭水道で船舶と行き会う際には非常に有用な情報となる。
 
3 意思決定に際してのインパクト
 AIS情報、特に船首方位と回頭情報をARPAと連動して活用する場合には操船上の意思決定をする際に威力を発する。AISは航海情報の一つであり、従来の航海システムを代替するのではなく、レーダーによる目標捕捉を支援するもの。(この点に関し、他の発表者からは、AIS情報は「表現(Presentation)」方法の一つであり意思決定そのものに使われるものではないとの意見もあり)
 
4 COLREGに対するインパクト
 AISを活用することで当直士官がCOLREGに定められた義務の履行を免れるというものではない。視界制限状態で行き会う2隻のAIS搭載船は、航海灯を観察することにより相手船の動静に係る情報を得ることができる。更にAISは船名や仕向港に関する情報を提供するが、これらの情報は、直接COLREGに反する動作を取ることは考えられない。
 他方、AISの導入によりCOLREGの改正が必要か否かとの疑問が浮上してきた。船舶同士で口頭の連絡を行いCOLREGに反した動作を取り始めるということをもって、CORLEGの改正の必要性は説明できない。当直士官がVHFを適切に使用できない場合には、右はSTCWに基づき対応すべき問題。
 
5 当直員の作業量とストレスの軽減
 AISの送受信は自動的に行われるため乗組員の手間はない。更にAIS情報は、操作する者の要求に応じて段階的に情報を得る方式であり、通常はAIS搭載船を小さな三角形で表示し、特定の船の情報がほしい場合に、右を選択することで詳細情報を得るもの。
 また船が他船に接近する状況にある場合には、AISで得られるより正確な情報はストレスを軽減する。
 
6 将来的なレーダーの必要性
 レーダーには使用上の制限があるが、将来的にも少なくともセンサーとして重要な航海計器でありまた衝突予防に効果的な道具の一つで有り得るだろう。AISによる付加情報はレーダーの役割を拡大し、レーダーが持つ制限を克服できるであろう。







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