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地方税財政制度改革を踏まえた地方公共団体の役割に関する研究

 事業名 地方税財政制度改革を踏まえた地方公共団体の役割に関する研究
 団体名 地方自治研究機構 注目度注目度5


2 地域通貨に対する理論的考察
(1)岩井貨幣論
 以上の様に、地域通貨と言っても広範囲なものが含まれてはいるが、しかし当然の事ながら共通の特徴を持っている。そこで、岩井克人教授の貨幣論の視角からこれを見てみる事にしたい3
 先ず、いかなるものが貨幣になるかについては、従来の貨幣論の学説では、使用価値の高い商品が貨幣になるという「貨幣商品説」と、君主等の権威により、ある物が貨幣と定められるとの「貨幣法制説」が存在した。しかし岩井教授は、どちらの説も貨幣の背後に何らかの実体的な根拠を求めているという点で同じ誤りを犯していると言う。そして、貨幣が貨幣であるのは、すべての人がそれを「貨幣」として受け取ってくれる事を、すべての人が未来永劫に亘って予想しているからであり、それ以上でもそれ以下でもないと主張する。
 貨幣に対してこの様な立場に立つと、電子マネーは実は貨幣の最も純粋な形態であるという事になる。なぜならば実際の歴史的進化の過程で、金、金貨、兌換紙幣、不換紙幣と、貨幣は使用価値を徐々に減らしていったのであり、電子マネーに至っては、その物理的実体は使用価値ゼロの電磁パルスとなっている。また、電子マネーは一度流通して多くの人々により交換の媒介手段として受け入れられたならば、特に権威付けがなされなくともデファクト・スタンダードの地位を獲得し、立派に貨幣としての機能を果たしてしまうであろう。つまり、まさに電子マネーが電子マネーであるのは、すべての人がそれを電子マネーとして受け取ってくれるという事を、すべての人が未来永劫に亘って予想しているからであり、それ以上でもそれ以下でもないという事になる。
 ところで、シニョレッジ(君主特権)と呼ばれる電子マネーの発行者特権が、従来の貨幣と同様に存在する。発行者は電子マネーを発行する際に、その見返りに得た資産を運用する事で収益を獲得する事ができるからである。岩井教授はこの事から、発行者が電子マネーを過剰発行するインセンティブを持つと主張し、さらにハイパーインフレーションの可能性を警告する。しかも資本主義の危機は、かつてカール・マルクスが主張した様な恐慌によってもたらされるのではなく、ハイパーインフレーションによってもたらされるとの持説を展開する。なぜならば、恐慌とは人々が本来は商品の媒介手段でしかない貨幣をより欲しがっている状況と考えられ、換言すれば資本主義社会が永続するという信頼に支えられているのに対して、ハイパーインフレーションは人々が貨幣を速やかに手放そうとする現象であり、これは資本主義の永続性に対する信頼が瓦解している状況を意味しているからであると述べている。
 以上が資本主義社会における貨幣像であるが、では地域通貨とは何かという事になるが、岩井教授はそれとは全く異質な、マルセル・モースの贈与論の世界における話であると主張する4。通常の貨幣の場合は、取引する相手が誰であるかという事を別に意識する事なく用いるので、匿名性が成り立っている世界の話である。しかし地域通貨の場合は、取引する相手が誰であるかという事が問題になってくる訳である。贈与経済には規約が存在し、とにかく人に物をあげる事を心掛けねばならず、また人から物をもらった場合には必ずお返しをしなければならないとされる。文化人類学者等により研究対象とされてきた、いわゆるポトラッチである。そこでは、交換自体が手段として捉えられておらず、それ自体が自己目的化されている。
 岩井教授によれば、相手が誰なのかという事を認識した上で不等価交換を行っていく際の媒介手段として地域通貨を考える事ができる。では、地域通貨をこの様なものとして捉えた時に、その将来性はどうかというと、教授自身は悲観的に考えている。資本主義社会は、価値の差異を媒介として利潤をあげる事を自己目的化する資本の内在的運動により支配されている。かつての共同体的な社会は、ことごとくこうした資本主義により包摂されてきたという歴史的経緯がある。その資本主義が、フェルナン・ブローデルの主題である遠隔地交易を舞台にした商業資本主義であったり、マルクスの主題である資本家による労働者の搾取を舞台にした産業資本主義という違いはあるにしてもである。従って、贈与論の世界を前提とする地域通貨も、こうした資本主義の暴力性から自立性を保てるとは考え難いという事である。
 
(2)関係する法律に関する加藤敏春氏の考察
 次に法律的な観点から、地域通貨がどの様に整理されるかを考えてみよう。実は電子マネーに関する法律的な取り扱いは未だ迂回されたままであるが、この事が地域通貨の法律的な取り扱いを巡る議論にも投影される事になる。加藤敏春グローバル・コミュニケーション・センター教授は、日本において地域通貨「エコマネー」を普及させる運動を活発に行ってきた人物であるが、『ローカル通貨研究会報告書』で加藤氏が担当した地域通貨を導入するにあたっての法律上の障害に関する考察を、ここにごく簡単にまとめておきたい。
 
ア 前払式証票の規制等に関する法律(プリカ法)
 トロントダラーの様なタイプの地域通貨は、初めに現金を払い込んで地域通貨に換金する為、これが前払式証票にあたる懸念が生ずる。
 
イ 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)
 トロントダラーやWIRの形式の地域通貨に関して、高い金利を支払うと約束し、且つその地域通貨を使用できる店舗数が著しく少ない場合、預り金に該当する可能性がある。
 
ウ 銀行法
 電子マネーに関しては、代理銀行免許を将来的に設けて対処する事となっているが、地域通貨の場合も同様に対処する事は考えられる。また、クレジットカード業務が付随業務として認められている事から、地域通貨に関しても一種の付随業務として考える事ができないか検討に値する。
 
エ 預金保険法及び準備預金制度に関する法律
 この場合の預金とは、預り金よりはより狭く解釈されるのであれば問題ない。
 
オ 紙幣類似証券取締法
 地域通貨の場合、地域限定ではあるが、留辺蕊町或いは栗山町等ある程度の範囲の中で流通する事は、見過ごす事のできない点ではある。しかし、暗号技術の利用で誰が地域通貨を用いようとしているのか把握できるならば、匿名性はないという事になる。また、家計支出に占める地域通貨を使用した取引額が著しく大きくなるとは考え難い事を考え合わせると、この法律には違反しないと考えられる。
 
カ 刑法、通貨及証券模造取締法
 地域通貨が円と外観が似ていない限り、問題にならない。
 
 結論としては、トロントダラーやWIRの様な、並行通貨に比較的近い地域通貨の場合は現行法に抵触する可能性が排除できない状況にあるという事であろう。
 
 地域通貨をデフレ対策に用いる事が可能か否かを考える際に、最近のインフレターゲットを巡る論争がその示唆を与えてくれると考えられる。それらの全てを網羅する事は避けて、その中で象徴的な発言をピックアップし、論点を整理してみよう。
 東洋経済新報社[2002]6の対談で竹中平蔵氏が述べている事は、構造改革を進め、民間でできることは民間に任せるべきであるとの氏の持論であり、常日頃から主張している事柄である。そしてマクロ経済的に見て、不良債権処理を加速するここ2年程度は成長率の低い状況もやむを得ないとの認識を示している。こうした竹中氏の立場に対しては、少なからぬ批判がある。
 先ず金子勝氏は、竹中氏を筆頭に小泉内閣の主張は一定しておらず、唯一一貫しているのは経済政策に失敗している事だけと手厳しい批判を浴びせている7。またインフレターゲット論のように歯止めを失う危険性の高い無差別的政策は採るべきでないとも主張している。しかしこれに対して、P.クルーグマン氏は、竹中氏は問題を曖昧にしたり誤魔化したりしてはおらず、自らのプランは「供給サイド」に関するものだとはっきり認めているという。但し、日本経済が直面しているのは「需要サイド」に関する問題なのだと幾分皮肉を込めて指摘している8。需要が問題であるという見方では、植草一秀氏も代表的な論客である。『発言者』(平成15年3月号)の座談会では、1990年代の景気対策が、94年の日銀利上げ、97年の消費税増税、2000年の緊縮財政及び日銀利上げといった景気浮揚にブレーキを踏む政策により効果が相殺されたとの見解を示している。他方、インフレターゲット論に対しては、日銀が無制限の量的緩和を行う事に繋がるならば通貨に対する信用を失わせ、資本
 植草氏の主張に関して簡単に論評を加えると、氏の主張通り、日銀の政策についてはかなり問題があったと考えられるだけの根拠を示す事はそれ程困難ではないが、財政政策については短期的には景気の下支えの効果があったにしても、長期的に効果が果たして持続したかについては必ずしもはっきりしないと言えよう。即ち、効き目が長続きしないとの見通しから政府が財政の引締めに転じたとする逆の因果関係も、同じデータ上で措定できるのである。
 ところで吉川洋氏は、構造改革は供給サイドの天井を上げると同時に需要を創出するので、現実の経済成長率を上げるという意味で重要だと述べている9。しかしクルーグマン氏は、小泉改革のプログラムは2つの課題のうち日本がどうやって長期的な成長を成し遂げられるかという簡単な方に答えるのみで、もう一つのどうすれば迫り来る破局を避けることができるのかというより困難な課題には答えていないと批判している10。即ち、吉川氏の主張する様な虫の良いメカニズムは存在せず、供給重視の政策は必然的に需要軽視につながると見ているのである。
 また、構造改革を進める政策の持つ、別な側面に着目する批判も存在する。竹森俊平氏は、今日の我が国でデフレ対策を行わず、創造的破壊の流れを汲む立場で構造改革のみに邁進する事は、70年前の大恐慌の経験に照らして、今度こそ清算主義がうまくいくという全く根拠のない希望的観測に基づいているとの批判を行っている11
 以上の様な批判を踏まえて、現在のデフレを脱却する切り札としてインフレターゲット論がクローズアップされつつある。再びクルーグマン氏によれば、竹中大臣が進める構造改革は、日本の生産能力を高めることが期待成長率を高めるというシナリオに基づいているが、日本経済を深刻なリスクに晒してまで試してみる価値のある考えではないとしており、氏自身であればインフレターゲットを比較的高い4%に設定すると述べている12。即ち、クルーグマン氏は熱心なインフレターゲット論者なのである。
 また、伊藤隆敏氏らは日本の金融システム再建のための緊急提言として、インフレターゲットを設定し、日銀当座預金残高の増加・買い切りオペの増加によるマネタリーベースの拡大の為に長期国債の購入増加を行う必要があるとしている13。さらにこれらの措置でもデフレを防止できない時には、日銀による上場株式投信や不動産投資信託の購入も視野に入れるとする。14
 早い時期からインフレターゲット論をはじめとするデフレ脱却の為の処方箋について政策論争をリードしてきた岩田規久男氏は、インフレターゲット政策は下限だけではなく上限も設定するので、ハイパーインフレを防止する事もできるとしている。それができないのは中央銀行の能力の問題であり、インフレターゲット政策それ自体の問題ではないとあっさり切り捨てている15。即ち、インフレターゲットを巡る議論において、日銀がインフレをコントロールできないと表明する事が最悪という事になる。
 日本経済にとって、現在のデフレ状況からの脱却を優先的な至上命題とするならば、インフレターゲット政策は十分検討に値する選択肢と言えよう。そもそも今日のデフレ状況を招いた原因を考慮するならば、植草氏も述べている様に、細川政権による景気対策直後の時期尚早な94年の日銀利上げ、97年(閣議決定は96年6月25日)の橋本政権における消費税増税、98年の小渕政権による景気対策(24兆円)後の、2000年の森政権による緊縮財政の実施及び日銀利上げといった諸政策に求められるのではないだろうか。即ち、こうした政策上の判断の誤りの積み重ねの上に、デフレ予想の定着がもたらされたという事である。問題はそれが「意図された」政府の失敗か「意図しない」政府の失敗かに関わらず、民間の経済主体間で「政府はデフレの招来、及びそこからの脱却の放棄を意味する政策を採り続ける意思を持っている」との合意形成を促してしまった点にある。この結果、デフレが自己実現されるメカニズムが形成され、新たな不良債権の発生に伴い不良債権処理が遅々として進まない状況をもたらしたのである。
 こうした状況下では、民間の経済主体の予想を気に変える必要があり、それゆえ政府がデフレ脱却に明確にコミットするインフレターゲット政策が有効と考えられる。即ちこの場合、コミットメントの果たす役割が極めて重要であり、換言すれば、政府の方針を裁量主義からルール主義に転換する事で、いわゆる「時間非整合性(Time Inconsistency)」16の問題を解決する事が可能となるのである。但し、同じインフレターゲット論と言っても、長期国債の購入に止める場合と、時価総額に連動した上場株式投信(例えばTOPIX連動投信)や利回りの高い優良な不動産投資信託(REIT)の大量購入にまで踏み込む場合17とでは、かなり政策リスクに違いがある点に注意が必要である。
 また万全を期すという観点から、財政政策との連動も選択肢の一つとして意識しておく必要がある。この点、財政当局の協力に対して否定的な見解を持つ立場からは、今日の財政状況の深刻さが指摘されようが、緊縮財政の採用が将来的な税収不足をもたらし、その結果さらに財政状況を悪化させるリスクについて過小評価は禁物であろう。
 ところで以上の見解は、決して構造改革の推進と矛盾しない点に注意が必要である。問題は短期的な効果を目指す政策と長期的な効果を狙った政策を区別するという事であり、いわゆる構造改革はサプライサイドへの効果をもたらす長期的な政策群からなり、デフレ予想を早期に払拭した後に本腰を入れて取り組むべき政策課題である点に異論の余地は無い。但し、その政策の順序が重要なのであり、改革原理主義は短期的にはデフレギャップを拡大し、却って構造改革の進展を遅らせる事になりかねないのである。
 さて、インフレターゲット論を念頭に置いて、地域通貨の導入がデフレ対策に有効であるかどうかについて考慮すると、経済合理性以外にも、コミュニティ意識の涵養や贈与経済のメカニズムに支えられた購買意欲の拡大に期待するところが大きいが、その際、価値が減価していく仕組みの導入が、インフレターゲット論の考え方と調度対応していると考えられるし、その点が大変興味深い。即ち、資本主義経済と贈与経済の接点に位置する地域通貨についても、人々に貯蓄ではなくあくまでも決済に振り向ける為の「インセンティブ」を与える仕組みがやはり必要なのである。但し、デフレに対する処方箋に関しては、地域通貨の果たす役割が大きいようには私には思われない。勿論、地域通貨の普及により経済面での地域活性化は期待されるところであるが、そうした問題とマクロ経済全体のパフォーマンスに関わる問題とは分けて理解する必要がある。但しそうだからと言って、地域通貨の本来の効能(例えば、コミュニティ意識の涵養等)は決して否定されるものではないし、むしろより強調されてしかるべきと考える。

3 岩井貨幣論については、岩井克人[1993]『貨幣論』筑摩書房、及び岩井克人[1999]「電子マネーの貨幣論」西垣通・NTTデータシステム科学研究所編『電子貨幣論』NTT出版を見よ。
4 以下の岩井教授の地域通貨論は、岩井克人「貨幣論と贈与論:地域通貨は通貨なのか?」第4回ローカル通貨研究会報告(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター;2003年2月28日)による。
5 本節の内容は、『ローカル通貨研究会報告書』(国際大学グローバルコミュニケーションセンター;2003年6月)の私の担当箇所(4.2 ハイパーインフレ危機への対応)及び小澤太郎[2003]「加藤敏春『広がる地域通貨(エコマネー):貨幣と資本主義の行方:コメント』」、『公共選択の研究』第41号, 62〜64ページを改編・加筆したものである.
6 東洋経済新報社編[2002]『日本経済ラストチャンス』東洋経済新報社, 127ページ及び131ページ.
7 東洋経済新報社編[2002], 46ページ及び51ページ.
8 ポール・クルーグマン(中岡望訳)[2002]『恐慌の罠:なぜ政策を間違えつづけるのか』中央公論社, 215ページ.
9 東洋経済新報社編[2002], 12ページ.
10 クルーグマン[2002], 39ページ.
11 竹森俊平[2002]『経済論戦は甦る』東洋経済新報社, 14ページ.
12 クルーグマン[2002], 39ページ及び14ページ.
13 伊藤隆敏[2001]『インフレ・ターゲティング』日本経済新聞社, 付録4A, 2C
14 伊藤隆敏[2001], 付録2D.
15 岩田規久男[2001]『デフレの経済学』東洋経済新報社, 376ページ.
16 Kydland F.E. & E.C. Prescott (1977), "Rules Rather Than Discretion: The Inconsistency of Optimal Plans", Journal of Political Economy, Vol. 85(June), pp. 473-491.
17 伊藤隆敏(2001)『インフレ・ターゲティング』日本経済新聞社、125〜126ページ.







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