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9. 1歳幼児ダミー及び2歳幼児ダミーの設計
 1、2歳幼児ダミーの設計に先立ち、より人体に近い、また、再現性のある試験結果が得られるようダミーの構造をさらに検討した。
9.1 水着の作成及び試験時の着用
 前述のISO案では、試験時にダミーに伸縮製の水着を着用した上に救命胴衣を着用することと規定されている。前述の試験では使用しなかったが、露出している関節への引っかかり防止や飛び込み試験等における救命胴衣のずれを判断する上で水着を着用させることが望ましいと考え水着を作製した。
 
9.2 関節構造の検討
 試作した原型ダミーの関節構造は、手足については人体の可動域に近い範囲で自由に可動するよう、肩及び腰が2軸回転型、肘及び膝は1軸回転型としたが、首部については、頭部の可動域を人体に近づけるため2点ボールジョイント型(前後左右に自由に動く)とした。その結果、手足については特に不自然な動きは見られなかったものの、頸椎関節(首部関節)は、ジョイント接続部の傾斜や、頭部の自由な水平回転等の人体とは異なる動きを伴うことが観察されたため、より人体の動きに近いものに改良することにした。
 通常、ある程度意識を持った幼児の場合、水上で頭部を意識的に横に傾けることはないと思われるため、首部関節の横方向の動きを制限し、前後方向のみ回転可能な新たな関節を作成した。浮遊試験の結果、頭部の動きは、不自然な動きを示さなかったが、復正試験の結果から、人体に比べて復正しにくい状況が観察された。
 成人における人体の復正状況(身長方向の軸まわりの横回転等)を考えた場合、俯き姿勢から仰向けに身体が回転するにつれて、頭部はわずかに横方向に傾斜、回転し、その後初期の正常位置にもどる状況が観察される。従って、それらの動きを取り入れたある程度まで横方向及び水平回転が可能なゴム状関節を作成し再度試験を実施した。その結果、前後方向回転型における試験では復正困難だった救命胴衣が容易に復正したことから、ゴム状関節を採用することで、頭部の動きがより人体の動きに近くなると考えられる。
 また、プール縁(水面上0.5m)からの飛び込み試験において、原型ダミー腰部関節の動きが堅く、人体の場合と異なる状況が見られたが、水着と関節凸部との干渉によるものであり、関節の動きを阻害している水着部分を排除することで人体に近い動きを示すようになった。
 
9.3 1歳及び2歳幼児ダミーの設計・試作
(1)設計
 3歳幼児ダミーより小さい1及び2歳幼児ダミーの設計にあたり、全体に軽量化すると共に、腰部関節の大きさをやや小型化することにより水着との干渉を最小限にすることを計画した。設計手順は基本的に3歳原型ダミーと同様(図5参照)であるが、1、2歳の幼児の各部容積比率が不明のため、幼児被験者の写真測定データより身長・体重が当該ダミーに近い2〜3例について容積比率を算出し(表15参照)設計時の参考とした。
 幼児ダミーの基本設計値を表16及び表17に示す。
(2)製作及び調整
 幼児ダミーの首部関節構造は、頭部を柔軟に可動させると共に、水中では頭部を中央位置にもどす力を持たせた構造である。手足の関節は軽量化を図るため、比重が1に近いプラスチックを使用した。また腰部の関節は水着を着用した際に回転が妨げられない大きさとした。
 2歳幼児ダミーの各部比重については、3歳幼児ダミーと同様に頭部1.05、胴体部0.95、その他を1.0に調整したが、1歳幼児ダミーの場合は頭部比重を1.05にすると頭部が重く、被験者の場合と異なり、水平に浮遊しないため比重を1.03とした。手足については3歳幼児ダミーと同様比重が1を超える状態であったため、比重を1.0に合わせるため、外周に発泡プラスチックのシートを貼り付けて調整した。
 製作された各幼児ダミーは、3歳幼児ダミーと同様、身長等の高さや長さについてはほぼ設計値に近い結果であるが、容積については関節部の容積減少のため、全身の容積は1歳ダミーで設計値の97%、2歳幼児ダミーで設計値の95%とやや少なく、それに伴い体重も1歳幼児ダミーで96%、2歳幼児ダミーで93%となっている。
 重心高さの身長に対する比率はいずれも約57%とほぼ目標に近い数値が得られた。
 
表15 1歳及び2歳幼児、各部の容積比率
区分 被験者 容積比率(%) 
1歳 No. 性別 ヶ月 身長(cm) 体重(kg) 下腿+足 大腿部 胴体部 腕部 頭部 全身
1 M 1 9 83 11.0 9.8 8.1 52.2 8.1 21.8 100
2 M 1 9 84 10.7 10.9 7.8 51.4 8.7 21.2 100
3 M 1 9 82 11.9 10.7 10.2 50.3 8.0 20.8 100
平均 83 11.2 10.5 8.7 51.3 8.3 21.3 100
2歳 No. 性別 ヶ月 身長(cm) 体重(kg) 下腿+足 大腿部 胴体部 腕部 頭部 全身
1 M 2 3 92 13.4 11.2 11.6 51.5 6.3 19.4 100
2 M 2 7 90 13.5 10.7 12.4 49.0 7.9 19.9 100
平均 91 13.5 11.0 12.0 50.3 7.1 19.7 100
 
表16 1歳ダミーの基本仕様
No. 項目 単位 設計値 基本参考値
工業技術院 今回測定値
1 身長(立位) cm 78.9 78.89 -
2 体重 kg 10.8 10.78 -
3 股の高さ cm 28.7 28.7  
4 肩関節高さ cm 56.6   56.6
5 ヒップポイント高さ cm 31.6   31.6
6 膝関節高さ cm 18   18
7 頭部高さ cm 19.3   19.3
8 上腕長さ cm 11.5   11.5
9 前腕長さ cm 10.7   10.7
10 手部長さ cm 8.1   8.1
11 足部長さ cm 12.7 12.71  
12 大腿長さ cm 13.6   13.6
13 下腿長さ cm 14.6   14.6
14 踝高さ cm 3.4 3.37  
15 頭部最大周長 cm 47.6 47.63  
16 乳頭位胸囲 cm 48.6 48.59  
17 上腕最大周長 cm 15.4 15.35  
18 大腿周長 cm 26.3 26.34  
19 下腿周長 cm 19.2 19.15  
20 重心高さ cm 44.2〜45.8   身長の56%〜58%
 
表17 2歳幼児ダミーの基本仕様
No. 項目 単位 設計値 基本参考値
工業技術院 今回測定値
1 身長 cm 88.5 88.52  
2 体重 kg 12.9 12.88  
3 股の高さ cm 34.4 34.36  
4 肩関節高さ cm 64.7   64.7
5 ヒップポイント高さ cm 37.1   37.1
6 膝関節高さ cm 20.6   20.6
7 頭部高さ cm 20.5   20.5
8 上腕長さ cm 13.5   13.5
9 前腕長さ cm 12.4   12.4
10 手部長さ cm 10.6   10.6
11 足部長さ cm 14.4 14.40  
12 大腿長さ cm 16.5   16.5
13 下腿長さ cm 16.7   16.7
14 踝高さ cm 3.9 3.94  
15 頭部最大周長 cm 49.1 49.09  
16 乳頭位胸囲 cm 50.8 50.81  
17 上腕最大周長 cm 15.9 15.88  
18 大腿周長 cm 28.8 28.78  
19 下腿周長 cm 20.3 20.30  
20 重心高さ cm 49.6〜51.3   身長の56%〜58%







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