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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/08/19 世界週報
自衛隊のRMA化をどう進めるか 柔軟な思考と組織が必要
軍事評論家
江畑 謙介
 
 戦いに銃が用いられるようになると、それまでの弓矢と刀が中心であった戦いの様相は大きく変化した。その銃を持って突撃する歩兵中心の戦闘に代わって戦車が登場すると、陸上戦闘は塹壕(ざんごう)戦から火力、装甲防御力、機動性を併せ持つ戦車中心の機動戦となった。戦いに航空機が持ち込まれると、戦場は三次元に広がり、速度も戦場の広さも飛躍的に大きくなって、戦いの内容が革命的に変化した。新たな兵器技術の導入で戦いの様相、すなわち軍事の内容が大きく変化することを「軍事における革命」、英語(Revolution in Military Affairs)の頭文字をとってRMAと略記される。日本では防衛庁、自衛隊でよく使われる「軍事革命」という邦訳は、簡略ではあるが、RMAの内容を誤解させる危険がある。軍事の本質そのものが変わるわけではなく、やり方が変わるのである。
イラク戦争で優位性が決定的に
 1990年代に入って飛躍的に進歩したIT(情報技術)システムを活用するなら、新たなRMAが起こせるだろうと考えられた。センサー、情報通信システム、遠距離精密攻撃兵器を組み合わせると、戦いに革命的な変化が起こるだろうという予測は80年代からあったが、90年代のIT革命はまさにそれが現実のもので、あることを実証した。湾岸戦争で、情報そのものとITを活用する方法は在来型の軍隊に対して圧倒的に優位に立てるという説が誕生するが、それが間違っていなかった点はボスニア内戦、ユーゴスラビア空爆、アフガニスタンでの対テロ作戦で次第に実証され、今回のイラク戦争で決定的になった。RMAに対する疑念や批判も、イラク戦争で完全に影を潜めた。
 いわゆる大量破壊兵器を使う戦いではなく、在来型兵器を使用しての戦いでならば、RMAは絶対的に優れている。逆に言うなら、大量破壊兵器保有を指向するのではない限り、RMA化を進めなければ軍事力(抑止力と武力による目的の達成)の効果を発揮し得ない。しかし、RMA化を行うには技術力と経済力が必要である。それでRMA化が叶(かな)わないとなるなら、別の道でRMA型軍隊を持つ相手に対応せねばならない。これがいわゆる非対称型の戦い(asymmetrical warfare)で、大量破壊兵器やテロ攻撃(サイバーテロも含む)がその典型として挙げられている。北朝鮮が核兵器(および、かなりの可能性で生物・化学兵器も)の保有に血道を上げているのは、この理由からである。
 日本、そして自衛隊が大量破壊兵器の保有やテロ攻撃を軍事の主力手段とはできない以上、自衛隊はRMA化を進めねばならない。また日米安全保障条約を今後も維持し、日本とその周辺における米軍との共同作戦、ないしは米軍への支援を行うとするなら、RMA化で先頭を切っている米軍と肩を並べて行動できるように、自衛隊も米軍に近いレベルにまでRMA化を進めねばならない。ユーゴスラビア空爆やアフガニスタン作戦で、米軍と欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国軍とのRMA化レベルの格差が共同作戦を阻害するとして大きな問題となった。
RMAの根幹は情報の入手
 しかしRMAは米軍との共同作戦だけに有効というわけではない。日本独自の行動、例えば平和維持や人道支援活動にも非常に有効である。紛争や大規模自然災害が発生して、そこに自衛隊が「国際貢献」の名目下に派遣されるとする。そのためには、現地の状況がどうなっているかを把握し、映像を含めた詳細な情報を入手する必要がある。それには例えば、今年3月末に2基が打ち上げられ、さらに9月に2基の打ち上げが予定されている情報収集衛星の画像を、ほぼリアルタイムで、できるだけ継続的に入手する態勢が求められる。イラクに自衛隊を派遣するかの国会審議で、現地の状況がどうなっているか分からないので派遣は当分差し控えると小泉首相は答弁した。現地の状況が分からないから自衛隊を派遣できないのでは本末転倒である。従って、「国際貢献」をするつもりなら、現地の状況を広く、詳細に、リアルタイムで把握できる態勢を築かねばならない。これがまさにRMAの基本、根幹である。RMA用語では「状況の認識(situation awareness)」という。
 これを行うには、データ中継衛星が必要となる。現在計画されている情報収集衛星の運用体制では、衛星は日本の近くに来ないと画像情報を地上に送れない。静止軌道上にデータ中継衛星3基を打ち上げておけば、全世界いかなる場所の画像もほぼリアルタイムで入手できるようになる。日本にはデータ中継衛星を造る技術があり、実験衛星も製造したのだが、打ち上げに失敗し、極めて限定的な実験しかできなかった。現在のところ、実用型データ中継衛星を打ち上げる計画はない。
 情報収集衛星をこのような用途に使うのは、いわば戦術目的での運用である。ある紛争地で難民がどう動いているかという情報は東京の最高指揮司令部でも必要な情報だが、同時に、現場に送られた自衛隊の指揮官にも必要な情報である。一方、北朝鮮の寧辺(ヨンピョン)にある原子力施設の稼働状況のような情報は、現場の指揮官には必要がない。このような戦術情報を現場の指揮官が、やはり、ほぼリアルタイムで入手できなければ、せっかくの衛星を十分に活用できない。
 冷戦時代、米国は偵察衛星を、その存在すら秘密としたために、衛星写真を見ることができる政府部局や人間は極めて限られ、衛星画像情報が広く活用できなかった。ソ連国内の目標に突入して核攻撃を行う爆撃機のパイロットにすら偵察衛星が写した画像は見せられないとして、写真を基にしたポンチ絵が与えられただけであった。これでは何のための偵察衛星か分からないということで、次第に軍部隊にも衛星写真を配布するようになったが、前線の部隊指揮官がリアルタイムに近い形で入手できる状態になったのは、ようやく今回のイラク戦争からである。今、日本の情報収集衛星は冷戦時代の米ソの偵察衛星と同様に、極めて厚い秘密のベールに包まれ、その画像はごく一部の省庁と関係者が「独占する」形になろうとしている。これでは自衛隊のRMA化は望めない。
「ネットワーク中心の戦い」
 RMA化を行うには、自衛隊幹部だけではなく、防衛庁文官首脳部から他の政府幹部・政治家まで、広い範囲で意識や思考の変革が必要である。RMA化とは一言で言えば、情報システムにあらゆるものが接続するということである。一本の木の幹と枝が情報ネットワークで、葉っぱが戦闘機、護衛艦、ミサイル、自衛隊員一人一人であり、幹や枝葉を流れる水分・栄養分が情報であると想像すると分かりやすいだろう。ネットワークが中心となることからRMAは「ネットワーク中心の戦い(Network Centric Warfare: NCW)」とも呼ばれる。また戦闘機や護衛艦が持つ各々(おのおの)のシステムやバッヂ防空指揮システム、護衛艦の運用を行うSFシステムなどが連結されて、全体として一つのシステムが形成され、その中を情報が自由に行き来するようになるために「システムのシステム(System of Systems)」とも呼ばれる。これが実現すると、陸海空の三自衛隊が本当の意味で統合して(jointness)活動できるようになる。
 イラク戦争では米陸軍の地上部隊を海兵隊の攻撃ヘリコプターが支援し、地上部隊からの攻撃指示に従って高高度から空軍の爆撃機が衛星誘導爆弾を投下して近接航空支援を実施した。これまでの戦いの実情を知らないと、なんと言うことはない、当たり前の話ではないかと思われるかもしれないが、少し前までは、地上部隊と近接航空支援を行う航空機との直接・間接交信すらできなかった。使用周波数帯や指揮系統が異なるからである。
 自衛隊は今でも陸上自衛隊の前線部隊と支援に当たる航空自衛隊の支援戦闘機(対地攻撃機)と直接交信ができない。航空支援を行うには、事前にここの場所に爆弾を落とすと「上層部間」で決めておいて、決まった時間に航空基地を発進して、定められた場所に爆弾を落として帰ってくるだけである。その作戦計画の立案から実施まで、下手をすると3日もかかる。もっとも自衛隊は専守防衛戦略から、近接航空支援をほとんど考えてこなかった。陸上自衛隊地上部隊への支援は陸上自衛隊の対戦車(攻撃)ヘリコプターが実施する。しかし、航空自衛隊の支援戦闘機が本当の意味で陸上自衛隊地上部隊への近接航空支援を行えるなら、基本的には対戦車ヘリコプターはいらなくなる。対戦車ヘリコプターを廃止せよというのが論旨ではない。統合的な運用ができるなら自衛隊の戦力は飛躍的に高まるし、逆にその分、自衛隊の隊員や装備は少なくて済むということである。現在、自衛隊では「統合運用」がマントラ(呪文、スローガン)となっているが、外部から見ている限り、どうも20年以上前から提唱されてきた「合同運用」の概念とそう変わらないように思える。
民生技術をいかに応用するかが鍵
 RMAはそれに対抗する非対称型の戦いにも有効である。弾道ミサイルや巡航ミサイルの早期警戒、生物・化学兵器の遠方からの探知と分析、その情報の迅速な伝達、テロ組織の通信傍受と解析、テロリストの追跡、テロリストやゲリラ部隊の侵入監視・追尾・局所的な精密攻撃などに大きな効果を発揮しよう。またRMA化による兵站(へいたん)補給や医療技術の改善は、そのまま人道支援や国際貢献に利用できる。何が必要かを把握し、必要なものを必要な量、必要な時にその場所に送り届けるジャスト・イン・タイム方式は既に民間で実用化されている。それを軍事に応用するだけでよい。あとは兵站補給の情報を、他の戦闘部隊でも共用できるようにシステムを接続するだけである。
 遠隔医療(テレメディシン)技術は、例えば遠くアフリカにおける人道支援に際して、日本と高品位テレビ(HDTV)回線を繋(つな)ぐことで専門医の指導の下に高度な手術を可能にさせる。これも既に民間では実験的に行われている。このようなことから、自衛隊のRMA化はむしろ、戦闘部隊よりも補給部隊、医療のような国内外を問わずに人道支援のために派遣される場合が多い部隊から進め、その経験を基に戦闘部隊にRMA化を拡大していく方が実用的で、手っ取り早く、かつ確実であろう。ここにも、まず第一線の戦闘部隊という従来からの考え方に囚(とら)われない柔軟性が必要になる。もちろん、第一線部隊がRMA化されれば、一昨年暮れに起きた北朝鮮工作船事件の時のように、海上自衛隊のP-3C哨戒機が撮影した写真をいちいち基地に持ち帰って現像し、ファクスで東京に送って、海上保安庁に到着するまで9時間もかかるということはなくなる(はずである)。
 RMAは前述のように、偵察衛星や赤外線暗視装置といったセンサー、それらが集めた情報を送信し、融合し、人間の理解を助ける解析機能を持つ情報(通信)システム、そして得られたインテリジェンスとしての情報を生かして、遠方から目標を攻撃できる精密誘導兵器の3種で構成される。そこに必要とされるほとんどの技術が民生技術と同じものであり、純粋な軍事技術は非常に少ない。そしてそれらの技術のほとんどが既に日本にあり、日本の技術は世界でも第一級のものである。要はいかにそれを自衛隊のRMA化に応用するかである。だが、繰り返すが、そのためにはRMAに対する理解と、柔軟な思考、そして新しい運用方式を導入できる柔軟な組織体制への変革が必要となる。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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