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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001年3月号 Securitarian
国民から見た新中期防衛力整備計画
江畑謙介
冷戦後の環境に初めて対応した中期防
 現在の中期防衛力整備計画(現中期防)は「防衛大綱の内容を実現するための第一歩」(防衛庁説明)ではあったが、その内容はまだ多くが冷戦時代の思考を引きずり、それ以前の中期防とそう大きく変るものではなかった。いわば「遷移期」であって、冷戦後の世界環境に本格的に対応する内容は来年度より着手される新中期防衛力整備計画(新中期防)でようやく具体化されたと言えよう。それは新中期防の重点項目に見ることができる。「情報通信技術の積極的な利用とサイバー攻撃に対する防御力の向上」はいわゆるRMA化への道であり、「ゲリラや特殊部隊・大量破壊兵器の使用など各種の攻撃形態への対処能力」は正規戦とは異なる非対称型の戦いと国家以外の組織による武力攻撃などへの対応であり、災害派遣能力の強化・充実は冷戦後の軍隊に求められている多用途性であり、そして「精強で質の高い人材の確保・育成」は少子高齢化社会に向けての対応策である。
 冷戦が終わって既に一〇年以上が経過し、一時代過ぎて世界は「冷戦後の世界」から二一世紀の世界に移行した。米国では一九八七年から統合参謀本部がソ連の軍事的脅威の低下を確信し、その後の世界に対応する戦略の研究に着手していた。一九八九年一〇月に統合参謀本部議長に就任したコリン・パウエル大将(現米国務長官)はこの研究を基に、米国が超大国としての利権を確保できる最低限の兵力を基礎として、ソ連の脅威対応型から地域紛争対応型に米軍の構成を変更する「ベース・フォース」の構想を打ち出した。一見わが国における「基盤的防衛力」の考え方に似ているが、日本はソ連の軍事的脅威に対応するための基盤的防衛力という概念にあまりに長くしがみついてはいなかっただろうか。
 また新中期防に関する内閣官房長官談話の中で、「アジア太平洋地域については(中略)依然として不透明・不確実な要素が残されて」という、防衛白書と同じ表現が見られるのも、脅威対応型的な発想から抜け出ていない印象を与える。いつの世にも安全保障で不透明・不確実な要素は常に存在する。当たり前の話なのだが、それを殊更に強調するとあたかも不透明・不確実な要素がなくなる可能性があるかのような幻想を抱かせる危険がある。
好ましい国民や世界に向いた姿勢
 だが、全般的に見れば新中期防には国民として多くの評価できる方向性が見られる。
 例えば「ゲリラ(現在の世界には適さない用語だが)による攻撃等各種の攻撃形態への対処能力」では島嶼部への侵略や災害に対応する初動展開・情報収集能力を高めた部隊の新編が謳われ、具体的には緊急派遣できる災害派遣部隊や艦艇が指定されて二四時間緊急出動態勢がとられ、海上自衛隊に機動施設隊(ただし、どうして海上自衛隊でなければならないのかが分からない)、航空自衛隊にヘリコプターや輸送機を使った高機動衛生班が新編されるなどである。またNBC攻撃に対応する能力の充実は、これらを使った軍事的攻撃、テロ攻撃の可能性が高いと予想される世界情勢からというだけではなく、このような能力は災害地や海外の人道支援活動における衛生環境の確保という目的からも有用である。なぜか対NBC防御能力すら論じることがタブーとされた時代から見ると、本当に国民の役に立つ機能の充実が可能になってきた。同様に、「夜間行動能力」の向上策は御巣鷹山墜落事故の教訓を挙げるまでもなく、災害救難にも非常に役に立つ機能である。
 また「防衛力を支える人的基盤の維持拡充」のために、地域社会やNPOなどの国民各層との交流を推進するという姿勢も、二一世紀の自衛隊が本当の意味で国民の安全を守る組織としてあるために良いことである。さらに「より安定した安全保障環境の構築のために」各国との信頼関係の増進だけではなく、「災害や捜索救難等に関する共同訓練に取り組む」という平和のためのパートナーシップ(PFP)的方策も多いに推進すべきであろう。国際貢献は平和維持活動や人道支援の分野に留まらず、「国際機関等が行う軍備管理・軍縮分野における諸活動に対して」協力することでも日本の役割が高く評価されよう。
 ただし、民生協力や国際貢献を謳っても、それで優秀な人材を確保できるかというとまた別の話である。少子高齢化だけではなく自衛隊の役割という面からも、「災害派遣部隊」「人道支援部隊」だけでは人材の確保は難しくなる。しかし世界情勢と日本の戦略環境から、軍事的な「国の守り」を強調できる条件にはない。このため自衛隊が魅力的な組織と映るものにせねばならない。以前より資格・技能取得の場としての自衛隊という側面があったが、今後は高等教育が受けられる場としての魅力を持つ必要がある。IT技術の活用でそれは容易になるはずである。また予備自衛官に技術者や高度技術の経験者を多く採用することにより、RMA化にも対応が容易になり、予備自衛官が現役自衛官と肩を並べて勤務できる制度化により、退職後の就職問題やモラルの問題にも改善が期待できるだろう。
なお懸念や不満も
 しかし、国民の目から見て新中期防に懸念や不満がないわけでもない。
 ゲリラや特殊部隊、特にテロ攻撃への対応で、警察との関係が不明確であり、法的な問題が生じるだろう。既に海上自衛隊と海上保安庁の間では海上警備活動の調整が進んでいるが、警察との間でも法的整備を含めた検討が必要だろう。また今後密輸・海賊の脅威が増大するのは間違いなく、海上保安庁との連携が一層必要となるから、海上自衛隊ないしは防衛庁と海上保安庁との間に情報ネットワークを構築することも考えるべきであろう。
 基幹部隊の見直しは現中期防からの継続案件だが、陸上自衛隊は旅団化するのはよいとして、その本来の目的であるはずの軽快な機動性(それは災害救援や国際貢献にも有用である)をどう確保するのかが見えてこない。海上自衛隊は地方隊の縮小が進み、かつての一〇個から七個になる。掃海部隊が二個掃海隊群から一個群に統合できたのなら、地方隊の在り方も根本的に見直すことができるのではないだろうか。航空自衛隊の警戒管制部隊も地上部隊の縮少統合だけではなく、防衛計画の大綱別表に囚われずに、一個飛行隊に集中されているE-2CとE-767を別の部隊にすべきではないだろうか。政治的問題の回避のために非実用的な部隊編成になり、国民から見れば何かごまかされていると感じる。
 装備の分野では、新型ヘリコプター護衛艦はヘリコプターの搭載数が少ない中途半端な設計で、「空母」と言われるのを回避したいがために、かえって税金の効果的運用ができなくなったという気がする。大体どうして「空母」を持ってはいけないのか。もう少し大きくして二万トン級にするなら、ヘリコプターを二〇機以上搭載し、輸送や人道支援任務などにも大きな多目的性を発揮できる艦ができる。英海軍のオーシャンがよい例で、商船構造として建造費を二三〇億円に抑えている。なまじ水上戦闘艦にしようとするから、飛行甲板の水面からの高さ(乾舷)は小さく、甲板下にミサイルの垂直発射機が埋め込まれ、これを使う時にはヘリコプターの運用ができないという使い難い船になってしまっている。
 海上自衛隊のP-3C哨戒機の後継を国産の新型機にせねばならない理由が国民には説明されていない。どうしてP-3Cの機体寿命延長と電子装置の新型化ではだめなのか。同じように陸上自衛隊のAH-1Sの後継戦闘ヘリコプターの候補は未定とされるが、米海兵隊はAH-1Sを近代化改造してZ型にして使用を続ける。このような選択肢も忘れてはならない。またP-3Cの後継機とC-1輸送機の後継機(これも国内開発)と部品の共通化を図ってコスト削減を図るというが、両者に殆ど共通部分はなく、とても両者を国内開発する必然性があるほどコスト削減ができるようには思えない。この問題はむしろ日本の航空機開発能力と生産能力つまりは航空機産業をどうするかというもっと大局的な見地から論じられるべき問題であり、その論点を避けているために説得性がなくなる。US-1A救難飛行艇も同様で、その有用性については否定しないが、どうして一機八二億円もする高価な機体を二年に一機というペースで調達せねばならないのか、どうして救難用でありながら元が対潜用として開発されたからというだけで輸出ができないのか、武器輸出三原則が本当に今のままでよいのか、国民、納税者に具体的データを示して問う必要があろう。
国防費と国内総生産(GFP)に占める割合(2000年)抜粋
  国防費(US100万ドル) GDP比(%)
1 北朝鮮 7,000 32.1%
2 ミャンマー 3,900 7.0%
3 シンガポール 4,244 6.0%
4 ブルネイ 343 6.0%
5 ラオス 77 4.2%
6 米国 287,843 3.4%
7 ロシア 6,700 3.0%
8 フランス 35,800 2.8%
9 台湾 7,400 2.8%
10 イギリス 33,000 2.7%
11 中国 12,600 2.4%
12 韓国 1,250 2.1%
13 日本 44,500 1.5%
14 ドイツ 27,000 1.5%
15 イタリア 13,200 1.5%
16 スイス 4,500 1.5%
17 カナダ 6,700 1.1%
18 カンボジア 83 1.1%
19 マレーシア 2,100 1.0%
20 タイ 2,000 0.5%
21 フィリピン 1,250 0.5%
22 ベトナム 650 0.5%
23 インドネシア 1,650 0.3%
経費見直しと情報機能の充実
 新中期防の総経費は、調整費を含めて五年間で二五兆一六〇〇億円、国民一人当たり五年間で約一九万四〇〇〇円、一年当たりでは約四万円の負担となる。四人家族で一年一六万円、五年間で七七万四〇〇〇円になる。しかし、現在のところ国民の間からは防衛費の過大な負担を訴える声は出てきていない。それはここ数年の国政選挙において防衛費が論点になっていない事実が物語る。日本の年間の防衛費は計算方法によって若干の差はあるが、間違いなく世界第五位以内にある。しかし国民の経済負担の度合いを示す国内総生産(GDP)に対する率は一・五%で、世界の標準的な値である。因みに米国は三・四%、フランスは二・八%、イギリスは二・七%で、日本の値はドイツと等しい。
 防衛費は少ないほどよく、その不断の見直し努力は防衛庁の義務である。現中期防は経済状況の変化に対応して、平成九年度に総額二五兆一五〇〇億円の計画値を二四兆二三〇〇億円に改めた。新中期防も三年後に見直しが行われる予定だが、経済からだけではなく、戦略環境の変化による大幅な変更が必要になるかもしれない。それを的確に予測するには情報機能の充実が必要である。情報は収集するだけでは駄目で、分析し、的確に評価できなければならない。そのために「能力の高い情報専門家を確保するための各種施策を推進する」というが、専門家の集団であるはずの情報本部が創立以来四年を経過するのに、何をしているのか、どのような業績が上がっているのかが国民に見えていない。日本は「情報」というととかく「秘密」にしがちであるが、二一世紀の安全保障は秘密秘密では国民の支持は得られない。この点で、情報本部はまだ一人「冷戦を戦っている」ように見える。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
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