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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/08/20 世界週報
特集 海自50周年 新しい海自の役割と装備は何か
軍事評論家
江畑 謙介
冷戦時代にはなかった任務の増大
 ここ数年、海上自衛隊の役割と装備の在り方を示唆する出来事が幾つも起こった。
 一九九八年八月三一日、北朝鮮がテポドン1ロケットを打ち上げ、その追跡を海上自衛隊のイージス護衛艦が行った。翌九九年三月二三日、領海を侵犯したいわゆる「不審船」に対して、海上自衛隊が創設以来初めて海上警備行動を実施した。昨年末には再び不審船事件が発生している。九九年一一月にはトルコで発生した地震災害に対する緊急援助活動として、輸送艦「おおすみ」と掃海母艦「ぶんご」、補給艦「ときわ」が派遣された。二〇〇〇年一〇月にはシンガポール沖で、今年六月には九州沖で、西太平洋潜水艦救難訓練(パシフィック・リーチ)が実施され、海上自衛隊が参加しただけではなく、後者においてはホスト・ネービーの役割を果たした。〇一年六月にはシンガポール沖で国際合同掃海訓練が実施され、海上自衛隊部隊が参加した。
 〇一年秋からの米国を中心とする「テロとの戦い」で、海上自衛隊はインド洋で対テロ作戦に従事する外国艦に洋上補給を実施している。確固とした前進基地がない状態で、これほど遠距離に長期にわたって水上艦隊を展開し続けた経験は、旧海軍・海上自衛隊を通じて初めてである。今年初めには、東ティモールの独立建国を支援する陸上自衛隊部隊を大型輸送艦「おおすみ」が輸送した。そして七月に来日したインドのフェルナンデス国防相は、シーレーン防衛で日本とインドの協力を提案している。
 これらの出来事は、冷戦時代には考えられなかった多岐にわたる海上自衛隊の任務と活動範囲の拡大を示すものである。冷戦時代にはもっぱら機雷掃海と対潜作戦、およびそれを実施する水上艦部隊の防空に関して訓練を積み、装備を整えてきた海上自衛隊にとっては、運用、訓練内容共に、そしてそれに伴う装備計画に、大きな変貌を要求される時代の変化である。もっとも、そうした時代の変化に伴う必要性がここ数年で突然生まれてきたわけではない。
 冷戦が終わるとすぐに、世界の変化に海上自衛隊(および陸・空自衛隊も)が対応せねばならない状況が幾つも生まれている。冷戦後予想された地域紛争増大の最初となった湾岸戦争では、日本は軍事的な国際貢献を要求され、戦争後、ペルシャ湾の掃海作業に海上自衛隊創立以来初めて(朝鮮戦争時の機雷掃海を除く)部隊を派遣し、海外における実質的軍事作戦を経験した。翌九二年、カンボジアでの国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊部隊を支援する輸送艦が派遣された。そのような多方面の役割が九〇年代後半から急に増加してきている。世界が変わり、日本はその中で生き、外国との交易により経済を維持している以上、日本は世界の変化に対応し、世界の要求に応える義務がある。海上自衛隊もそれに対応できねばならない。
海上輸送の安全確保に求められる装備
 しかし、何でも世界の要求に対応できるようにすればよいというものではない。海上自衛隊の第一の任務が日本の安全確保である以上、その役割をないがしろにするような部隊運用や装備の導入はできない。基本任務を押さえておきながら、世界の要求に対応できるような部隊と装備計画が必要であり、そのバランスの取り方が、極めて重要な、また難しい課題である。
 海上自衛隊の基本任務とは何か。それは日本が島国で生存と経済の繁栄を海上輸送に依存している以上、その安全の確保である。冷戦時代のように太平洋の深海を高速で走り回る原子力潜水艦に日本のシーレーンが脅かされるという状況が、予見できる近い将来に再び出現する可能性はほとんどないが、大気独立型エンジン(AIP)のような推進装置で長時間潜航が可能になった通常動力型潜水艦を保有する国は急速に増え、それらの潜水艦が活動する海域は日本の海上交通の生命線が通っている海でもある。このため太平洋の深海とは大きく条件が異なる沿岸の浅い海で、潜水艦を探知し攻撃できる能力を維持し、改善し続ける必要がある。海上自衛隊はあまりに冷戦時代の対ソ潜水艦作戦の概念に長くとらわれ過ぎ、世界の海軍のこのような動きへの対応が遅れてきたように思える。海上自衛隊でもようやくAIP装備型潜水艦建造への動きが始まったが、沿岸部での対潜作戦のためには、現在四隻、「ひびき」型音響測定艦を加えても六隻しかない海洋観測艦の数を、最低二倍くらいに増やす必要があるだろう。その観測データは民間にも大きく役立つものであり、できるだけ公開されるべきであろう。
次期海洋哨戒機に必要な能力
 P-3C哨戒機の後継として現在開発中のP-X次期海洋哨戒機にも、より沿岸部での対潜作戦に適した装備が搭載されるだろうが、昨年末の不審船事件で必要性がクローズアップされたのが、リアルタイムの情報送信機能と対空兵器への対抗策であった。米海軍では八〇年代の末から、日本製のデジカメとパソコンを応用して洋上で撮影した艦船の映像をUHF(極超短波)通信で陸上にリアルタイム送信できるようにしていたのに、日本は昨年末時点で衛星通信装備を持つP-3Cの数は非常に限られていたし、米海軍のように応急的にせよリアルタイム送信能力を得るというような工夫すらしてこなかった。また不審船がロシア製のSA-16(9K310イグラ)携行式地対空ミサイルを搭載していた話が事実とするなら、これからは従来のような不審船に対する接近、監視・確認作業ができないことを意味する。
 このため、とりあえず赤外線誘導型対空ミサイルに対する警戒と防衛用装備(IRCM)の搭載(今年度から海上自衛隊のP-3Cも、この種の装備の搭載計画が着手された)が必要であるとともに、遠距離からの監視・識別ができる高性能熱線映像装置(FLIR)と、不審船を沈没に至らずとも無力化することができるような兵器の搭載が必要になろう。後者に関しては、SH-60J哨戒ヘリコプターを基にして国内で改良発展させた新型のSH-60J改(K型)に、ヘルファイアー空対艦(地)ミサイルが搭載されるようになる。しかし、P-3Cと後継のP-Xには、依然この用途の兵器としてハープーン対艦ミサイルしかなく(あとは爆雷)、オーバーキルの観は否めない。一四・五ミリの重機関銃や携行式対空ミサイルを搭載する「不審船」が闊歩(かっぽ)する海は現在までのところ日本周辺だけで、世界にその前例を見ないため、このような脅威に対抗する手段は日本が独自に考え出さねばならない。
不審船事件と水上艦艇の装備見直し
 不審船の重兵装で、海上自衛隊の水上艦艇も装備の見直しを迫られた。九九年の日本海不審船事件を受けて、海上自衛隊主要水上艦艇に装備された一二・七ミリ機関銃ではアウトレンジされてしまうために、来年度から二〇ミリ機関砲が搭載されるようになる。米海軍では二五ミリ、英海軍では七・六二〜四〇ミリの機関銃(砲)を搭載している。重量と射撃指揮装置、およびコストの関係から、日本に合った最適な装備を研究する必要がある。
 冷戦時代、水上艦艇の種類とその兵装はミサイル化により減少する一方であったが、ここにきて再び小口径から大口径までの火砲を何種類も搭載したり、用途に合わせた大きさの各種水上艦艇を装備したりする必要が生まれてきている。これは経済的に大きな負担になり、必然的に少ない数の艦艇で効率的運用を行わねばならなくなる。旧海軍以来の鎮守府(総監部)中心の運用方式を、情報システムを駆使した中央統制型の運用方式にするなどの改革が必要になろう。既に掃海部隊はこのような運用方式になっている。
弾道ミサイル防衛という新たな課題
 冷戦時代、西側世界で最大規模を誇った海上自衛隊の掃海部隊は、太平洋戦争末期に海上輸送ルートを機雷により切断されて飢餓状態になり敗北に追い込まれた経験に立脚するもので、一定規模の掃海部隊を持つという基本方針は今後も維持すべきだろう。だが、運用コストや少子化時代を考えると、従来の規模で掃海部隊を保有できる条件にはなく、ここでも効率的運用と、有事における急速増強方式を研究し、備えておく必要がある。掃海ヘリコプターの多用途的運用や、コンテナ船を基にする掃海ヘリ母艦などの構想が考えられよう。
 洋上防空は冷戦後半の重要な懸案で、それがイージス護衛艦導入となったのだが、冷戦後、弾道ミサイルの拡散により、弾道ミサイル防衛という新たな課題が加わった。これは洋上の水上艦部隊を守るよりも日本の国土を守るという、海上自衛隊にとっては拡大された役割である。同様に、航空機に対する防衛も航空自衛隊と一体になり、役割を分担調整して統合的に大きな効果を発揮できる態勢にする必要がある。それには情報の共有、融合、統合指揮機能が必要であり、統合幕僚会議機能の一層の改善が求められる。これまでにも陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾部隊に対する航空自衛隊のE-2C、E-767早期警戒管制機や海上自衛隊のP-3C哨戒機からの情報提供など、三自衛隊が統合運用すればはるかに効果が高まるのに、現実には実施されてこなかった分野が幾つもある。同様に、海上保安庁との連携や、装備の共通化なども考える必要がある。これまでは艦(船)上で使う消火ホースの規格さえ統一されていなかった。米沿岸警備隊のディープウオーター計画など、諸外国には参考とすべき例が幾つもある。
不信感抱かせぬ行動の透明性を
 輸送艦「おおすみ」のような艦は多用途性に優れ、国内・国外の任務に大きく役に立つ。形が航空母艦に似ているから空母にするのだろうというのは難癖に過ぎない。インド洋で米英海軍の艦に補給を行う海上自衛隊の補給艦を見ると、諸外国の補給艦に比べていかにも小さいという印象を改めて強くする。これは効率が悪いことを意味する。
 〇一年度から建造に着手した新型補給艦は基準排水量一万三五〇〇トンで、諸外国の水準に少し近づいてはいる。輸送艦と並んで補給艦はいわゆる国際貢献への有用性が大きい。それは同時に、海上自衛隊や日本の海外へのパワープロジェクション能力が高まることも意味する。しかし、それに対する批判を恐れていたのでは国際貢献はできない。
 必要なのは、無用な不信感を抱かないようにさせるための外交と(海上自衛隊自身の)行動の透明性である。後者に関して、海上自衛隊はまだまだ改善の必要性があるように思える。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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