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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/08/28 エコノミスト
新ミサイル防衛構想 3段階でミサイルを撃ち落とす「層状複合システム」
江畑 謙介
(えばた けんすけ)
(軍事評論家)
米国の新構想に折れ始めた各国
 ジョージ・W・ブッシュ米大統領は5月1日、1972年に米ソ間で締結された「弾道ミサイル迎撃システム制限条約」(ABM条約)からの脱却(moving away)、米核弾頭保有数削減、そして米国と同盟国を守るミサイル防衛システムを基本とする、新しい抑止力の概念を発表した。
 それから2ヵ月、この新ミサイル防衛計画の内容が明らかになり、7月22日にロシアのプーチン大統領が首脳会談において核弾頭の削減とセットにしてならABM条約の改訂に応じると発言した。24日にはイワノフ・ロシア国防相が条約を修正してもロシアの安全保障を損なわないという結論が出るなら、それをプーチン大統領に進言すると語るなど、それまでのABM条約堅持、NMD(米本土ミサイル防衛)絶対反対の立場を大幅に軟化させてきている。
 8月、ロシアを訪問した金正日・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)総書記・国防委員長との間でまとめられたモスクワ宣言でも、米のミサイル防衛計画に反対の姿勢が示されてきたが、ロシア側からは「絶対反対」という態度は表明されなかった。これらの現象をはじめとして、これまでABM条約の改訂、あるいは破棄をめぐって行き詰まり状態にあった米国と世界の関係に、W・ブッシュ政権の新提案によって大きな動きが始まったのは確かである。
 同時に、7月24日、ボルトン米国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)が新計画の研究開発過程では台湾との協議を行う方針を明らかにし、日本の積極的参加を求めるなど、これまで曖昧にしてきたり、先延ばしにしてきた問題と直面せねばならない条件も出現している。
「冷戦後」に対応したシステム
 新ミサイル防衛構想は、一言でいえば91年に現大統領の父、ジョージ・ブッシュ大統領の時代に提案された「限定的(弾道ミサイル)攻撃に対する全地球的防衛」計画、頭文字から「G-Pals(ジーパルス)」と呼ばれる全世界規模での弾道ミサイル防衛構想の焼き直しである。
 冷戦下の80年代、レーガン米政権は米本土に対するソ連からの大量ミサイル攻撃を防衛するシステムの開発と配備計画、「戦略防衛構想(SDI)」を提案、その研究開発を進める過程でソ連にゴルバチョフ政権が誕生し、冷戦が終結した。ゴルバチョフはソ連には米国のSDIに対抗する技術・経済力がないと悟り、冷戦を終わらせる戦略を採用するきっかけになったというのが世界の常識となっている。
 直後に起こったのが湾岸戦争で、これにより冷戦後の世界における大量破壊兵器とその有力な運搬手段である弾道ミサイルの拡散が重大な脅威と認識されるようになった。
 そこでブッシュ政権が打ち出したのが「G-Pals」計画で、ソ連からの大量核ミサイル攻撃の可能性はほとんどなくなったが、不安定なこの国から偶発的に発射される少数のミサイルや、湾岸戦争でイラクが発射したスカッドのような地域紛争における戦域・戦術弾道ミサイルの攻撃を防ぐことができるシステムを開発・配備しようというものであった。
 SDI計画では地上発射の迎撃ミサイルから宇宙配備のレーザーや中性子ビーム兵器まで、およそあらゆる迎撃手段が研究されたが、その中から実用化が早いと目されたいくつかのシステムを選択したもので、例えば地上発射型迎撃ミサイルのパトリオットPAC-3型やTHAAD(サード)、宇宙空間配備型のブリリアント・ぺブルスなどが候補とされた。
 特にブリリアント・ペブルスはミサイルの弾頭が宇宙を飛ぶ間に迎撃するため、複数回の迎撃チャンスが得られる方式であり、技術開発も実用化に近いところまで進んでいた。
 ところがブッシュ政権と交代したクリントン政権は、国防費の大幅削減方針に加えて、ABM条約の修正か破棄をせねばならない問題の煩雑さを嫌って、ミサイル防衛計画を海外における米軍と同盟国を守るためだけの地上発射型迎撃ミサイル(パトリオットPAC-3とTHAAD、後にイージス・システムを持つ巡洋艦と駆逐艦から発射するNAW/NTWシステムを追加)に限定してしまった。これがTMD(戦域ミサイル防衛)計画である。
 しかし、90年代後半になると、北朝鮮のテポドンを代表とする、いわゆる「無頼国家」の米本土に届く長射程弾道ミサイルの脅威が高まり、急遽、米本土ミサイル防衛システムの開発配備を行うことになった。これがNMDであるが、その実用化に当たってはABM条約への抵触が不可避の問題であった。
 ABM条約では、米ソの首都か1ヵ所のICBM基地の防衛用としての配備を許しているが、NMDは米本土防衛用であるから、この1点だけからも、実用配備になれば条約違反になるのは明白である。2000年秋、クリントン大統領はNMDの配備計画着手に関する最終決定を次期政権に先送りにしてしまった。
発射直後、宇宙空間、落下それぞれで技術開発
 その次期政権がW・ブッシュ政権であるが、新大統領は選挙運動期間中からNMD計画の推進どころか強化を訴えていた。
 そして新政権発足後、ミサイル防衛計画の見直しを行った結果が、5月に発表された新ミサイル防衛計画で、ABM条約は冷戦時代の産物で現在の状況にそぐわないため、それに拘泥することなく、ロシアとの核弾頭削減合意も含めた新しい形での抑止力を構築するという考えを基本としている。
 ミサイル防衛システムの具体的な内容は「層状防衛(レイヤード・ディフェンス)」と形容され、SDIの時代から考えられていたものである。
 弾道ミサイルの発射から着弾までを、ロケット・モーターを燃焼させて上昇する発射直後の加速段階(ブースト・セグメント、ミサイルの射程によるが1〜5分)、ロケットの燃焼を終え、ブースターを切り離して弾頭を含む先端部分か、放出された弾頭が宇宙空間を慣性力で飛んでいく中間飛翔段階(ミッドコース・セグメント、最大20分程度)、そして大気圏内に再突入して目標に向けて落下していく終端段階(ターミナル・セグメント)の三つに分けて、その各々で各種のシステムにより迎撃しようという構想である。
 加速段階においては、B747-400F貨物輸送機に出力メガワット級の化学レーザー(COIL)を搭載するABL(機上レーザー)が有力で、02年に初飛行、08年に実用化が予定されている。高度1万2000メートルを周回飛行しながら、上昇してくる弾道ミサイルのブースター部に数百キロ先からレーザーを照射して、爆破・撃墜する。7機の調達が予定され、5機が1部隊として海外の紛争地に展開する。また12年ごろには、宇宙空間配備型レーザー(SBL)迎撃システムの実験を開始する計画である。
 中間段階の迎撃には地上配備型と海上配備型とがある。
 地上配備型は、NMDシステムが「地上配備型ミッドコース・システム」と改名されて05年ごろの実用化が意図されている。その1年前には、アラスカのコディアックに建設される5基の迎撃ミサイル発射サイロをはじめとする実験用システムに、限定的な実用機能が持たせられる。
 海上配備型は、TMD計画におけるイージス艦から発射する迎撃ミサイルのうち、高度100キロ以上で迎撃するNTW型がこの中間段階の迎撃システムとなる。04年からの実用化が意図され、02年には5回の迎撃実験が予定されている。
 このシステムは、迎撃ミサイル(SM-3ブロックI型)の射程から、弾道ミサイルがまだ上昇段階(飛翔コース前半)で迎撃できるだけだが、さらに長射程の迎撃ミサイル(SM-3ブロックII型)の開発も計画され、ミッドコースの広い部分での迎撃が可能になる。
 このブロックII型の迎撃体(ミサイルや弾頭に直接命中し、その運動エネルギーで目標を破壊する部分)を含む構成部分は、99年に日米間で締結された共同研究対象に他ならない。したがって、このシステムの実用化は、日本を守るためのTMD用システムの研究という従来の日本政府の解釈から逸脱するものとなる。
 また米国の新ミサイル防衛構想が、あらゆる地域のあらゆる国や軍隊を対象とするものだけに、日本においては集団的自衛権の解釈問題に直面することになろう。
 中間段階の迎撃には宇宙空間配備型システムも候補に含まれるはずで(米弾道ミサイル防衛機構=BMDOのケイディッシュ局長はいろいろな迎撃システムを並行して研究開発していくとしている)、それにはブリリアント・ペブルスの再登場も含まれるかもしれない。
 終端段階は、大気圏内部ないしはその直上での迎撃で、パトリオットPAC-3(高度30キロ以下、今年後半から実戦配備開始)、THAAD(高度120キロ以下、08年配備開始予定)、海軍のイージス艦から発射するNAW(高度30キロ以下、05年ごろ配備開始)に加えて、イスラエルが米国の資金と技術援助を受けて開発したアロー迎撃システムも組み込み、データリンクで情報の交換を行ってPAC-3やTHAADとの連携迎撃を行う計画である。
 またパトリオットPAC-3をもとに米独伊が共同で開発する機動式迎撃システムMEADSも、この終端段階迎撃システムに組み込まれる。
NMDとTMD
 NMDは「米本土ミサイル防衛」で、米国本土を直接攻撃するミサイルに対する防衛システム。TMDは「戦域ミサイル防衛」で、海外派遣米軍と同盟国の防衛も含む。しかし、5月1日のブッシュ演説以降、この二つは区別されず、「ミサイル防衛構想」(MD)と表現するようになっている。
直面するロシア、中国、日本の対応
 この米国の新ミサイル防衛計画は、特定のシステムを特定の時間内に配備するものではなく、また米本土防衛や海外米軍の防衛という使用区分を限定するものではない。つまりABM条約に固執していたのでは開発・配備はできなくなる。
 そのため米政府は同条約の束縛からの脱却を主張しているのだが、他方ロシアにとっては、同国の財政事情からどうしても大幅に削減せねばならない核戦力を、どうやって米国とのバランス上不利にならないように削減できるか、つまりこのABM条約改訂をどううまく利用できるかが鍵となる。
 すでにブッシュ大統領は7月23日、合意に手間取るなら同条約からの一方的離脱も辞さないとの考えを明らかにして、ロシアに揺さぶりを掛けた。
 一方中国は、従来ロシアと共同戦線で米国のミサイル防衛計画を停止させるか歯止めを掛けようとしてきた。しかし、中国は台湾問題もあってTMDは何としても阻止せねばならないのに、ロシアはNMDには反対であるものの、自国が戦域・戦術弾道ミサイルの脅威に直面している事情からTMDには理解を示していたため、共同歩調がうまくとれないでいた。そこに米国の新計画でロシアが独自行動に移り、中国は一人取り残された形になった。
 新ミサイル防衛計画はNMD、TMDという分けた形を採らないために、中国にとっては一層反対が難しくなる。中国の米国に届く弾道ミサイルの数はNMDが意図した20発程度のミサイル攻撃を防ぐとする範囲内の数でしかない。中国は新型ICBMの開発配備を、米国のミサイル防衛計画がどうであれ、独自に進める点は間違いないが、その配備数は財政的問題と技術力から、米ミサイル防衛システムの対応可能範囲内でしかないであろう。
 そうなると、中国の核抑止力が無力化されてしまう可能性がある。さらに新ミサイル防衛システムはTMDという区分をとらずに台湾に対するミサイル攻撃の防衛を可能にするものとなるから、台湾へのTMD売却禁止を叫べば済むというものではなくなり、政治的対抗手段が非常に難しくなった。北京の対応策がどうなるかに大きな関心が集まる。
 そしてわが国である。従来の米国のTMDシステムでは、中国の内陸にある基地からの中・長射程弾道ミサイルの迎撃はできなかったが、今後のシステム開発によってはそれが可能なシステムを保有できる可能性が生まれる半面、このような広域防衛能力を持つシステムは台湾や韓国を含むものとなるため、従来の憲法解釈では対応できない問題が生じる。7月25日、ベーカー米駐日大使は「新ミサイル防衛システムを日本防衛システムにどう組み込み、憲法との兼ね合いをどうするのか決めるのは日本自身の問題だ」と発言した。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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