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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999年6月号 商工ジャーナル
日米ガイドラインと日本の防衛―アジア・太平洋地域の安定にどう貢献するのか
英「ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー」特派員
ストックホルム国際平和研究所客員研究員
江畑 謙介
 
 日米防衛協力の指針(ガイドライン)に関する関連法案が侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論の末にようやく成立した。この関連法案とは「周辺事態法案」、「自衛隊改正案」、「自衛隊と米軍間の後方支援、物品、役務の相互提供協定(ACSA)改定案」の三つであるが、四月二十九日からの小渕恵三首相訪米における手土産として、とにかく法案を衆議院だけでも通過させてしまおうという妥協の産物としての性格が強いことは否めないだろう。
 その典型例が自民党、自由党、公明党の間で最後まで調整が難航した船舶検査(経済封鎖などの状況における、自衛隊による船舶臨検活動)を法案から削除して、別法案として提出するという「問題回避策」が採られた点である。船舶検査は(米軍に対する)後方地域支援活動、捜索救助活動と並んで新ガイドライン関連法案の主眼の一つであった。
 これに代表されるように、ガイドライン関連法案の国会審議、マスコミや賛成反対論議は、あまりに党利党略、(この時期になお)イデオロギー、ないしは特定の価値観に囚われたもので、本質を捉えず、かつ非現実的なものが多かったように思われる。
意味のない非現実的議論
 たとえば日本は米軍に対して燃料や水、食糧の提供、輸送はできるが、弾薬を含む武器の提供はできないとしている。しかし、現実の世界においては、燃料や水、食糧は弾薬を含む武器と同じ軍事的価値を持つ。ACSA改定案では(米軍に)提供できる後方支援や物品、役務のなかに燃料・油脂・潤滑油を挙げているが、この三種は英語でPOLと略記され、弾薬と同様に重要な補給物資と見なされている。したがって、POLを与えるなら弾薬を除外しても意味がない。それは日本の国内だけに通用する言い訳的な規制である。
 船舶検査の内容もガイドライン関連法案のなかに盛り込まれたものはおよそ非現実的であった。船舶検査を実施するに当たって対象船舶に停船を命じる際には、無線による呼びかけと信号弾の発射による注意喚起という手段しかとれないことになっていた。北朝鮮工作員潜入用母船による領海侵犯事件のときには、領海侵犯による海上警備行動の発動であったから警告射撃が実施できたが、その実施根拠が国連決議にせよ多国籍の共同行動にせよ、日本が船舶検査を行うときにはこの警告射撃(威嚇射撃)ができない。
 警告射撃とは、それに従わない場合にはその船に直接攻撃を加えるという前提があって初めて効果を発揮する。絶対に弾を命中させることがないとわかっているなら、その警告に従わないだろうというのは北朝鮮の工作母船の例を見ても明らかである。ペルシャ湾におけるイラクに対する経済封鎖に伴う船舶の臨検活動においては、停戦命令に従わない船に米海兵隊員をヘリコプターで降ろして船橋や機関室を占拠するという行為まで行われている。
 自衛隊法の改正による邦人や外国人救出、そして周辺事態法における捜索救助活動においても、武器の使用は警報第三十六条または三十七条に該当する場合に限るとされている。つまり正当防衛か緊急避難の状況でしか使用できず、相手が先に発砲しない限りこちらから撃つことはできないのだから、少なくも先頭にいる日本の人や航空機、船舶は犠牲になるのは覚悟せねばならず、相手に常に主導権を与える結果になってしまう。
新ガイドライン関連法の基本要素
 新ガイドライン関連法案は三つの基本要素を持っている。
(1)日本に対する直接的脅威の発生防止と対応。
(2)アジア・太平洋地域、あるいはそれを越える地域において、アジアや日本に直接的、間接的に脅威となる事態の発生防止とそれが発生した場合の対応。
(3)日本には直接脅威とはならないが、国際社会が共同で対処することを決定した脅威の発生防止と対応。
 このうち(1)は明快で、固有の自衛権が発動され、日米安全保障条約によって米国がその軍事力をもって「共通の危険に対処するように行動する」(第五条)ことになっている。在日米軍基地に対する攻撃であっても、日米安全保障条約が発動される。
 問題は(2)と(3)で、それが生まれた背景と、これからの世界で日本がどう生きていくのかという広い意味での安全保障の観点がともに見失われた議論に終始してしまった。(2)の基本的背景には一九九六年四月十七日の橋本龍太郎首相(当時)とビル・クリントン大統領との日米首脳会談の結果として出された、「日米安全保障共同宣言―二十一世紀に向けての同盟―」がある。
 この共同宣言において、アジア・太平洋地域の安定的にして繁栄した情勢を維持するためには日米安保を基盤とする両国間の安全保障関係が基本であるとして、日本のより積極的な貢献が打ち出された。冷戦の終結によって世界的規模での武力紛争が発生する可能性は遠のいたが、アジア・太平洋地域には不安定性と不確実性が存在しているという認識に基づき、日本がこの地域の安定により積極的に関与するというものである。
 冷戦時代、日米安全保障条約はそのソ連の軍事的脅威という戦略環境による必然性のみならず、日本の憲法(第九条)解釈から日本とその領土の防衛のみに機能するという、双務性が基本の安全保障条約としては異例の片務性(米国の領土や権益が脅威を受けても、日本の領土内の米軍とその基地に対する攻撃以外には機能しない)という特性を持っていた。その憲法解釈の呪縛から一歩踏み出して、アジア・太平洋地域の安定に日本が貢献しようというのが九六年の日米安全保障共同宣言であり、それゆえ「日米安全保障条約の再定義」と形容されるものである。
 この共同宣言に基づいて、内容に実効性を持たせるために、日米安全保障条約を具体的に機能させる七八年に定められた「日米防衛協力のための指針」、いわゆるガイドラインを見直すことが決められ、それが今回の周辺事態法や自衛隊法、ACSAの改定となったものである。くどいようだが、このガイドライン関連法の基本としては、日本がアジア・太平洋地域の安定に積極的に貢献するという日本国民としての決意がある。
新ガイドラインの本質を無視した保身的反対論
 ところが関連法案審議においては、そのような基本的決意がどこかに忘れ去られてしまって、日本にとって脅威となるかとか、米国の軍事行動に巻き込まれたり引きずられたりする危険とかいった、自分(日本)だけの保身の見地からの議論しかなされなかった。
 もちろん、日本国憲法が変わったわけでもなければ、日米安全保障条約の内容が改定されたのでもないから、この日米安保再定義に基づく新ガイドラインの内容は憲法と安保条約の範囲を超えるものではない。従来の憲法第九条の解釈通り、憲法では否定していないとする自衛権に基づく軍事行動しかできないから、アジア・太平洋地域の安定における軍事的な役割は米国に任せ、日本は米軍の行動を支援する(後方支援)役割をより積極的に行うというものである。
 ただその範囲は、日米安全保障条約にいう極東に限定される。極東の範囲とはどこかというと、一九六〇年二月の政府見解が修正されていない以上、フィリピン以北、台湾地域と韓国の支配が及ぶ地域となっている。
 したがって朝鮮半島で戦争や日本の安全に脅威が及ぶような事態が発生するなら、日米防衛協力の指針に基づく自衛隊や日本官民の米軍に対する支援活動(たとえば輸送や医療支援、空港港湾業務)を行うのは問題がないと解釈されるのだが、台湾地域はそう簡単にはいかない。
 憲法と日米安全保障条約の下で新ガイドラインが運用されるなら台湾地域は当然含まれるのだが、日本は政府も野党も北京(中華人民共和国政府)の逆鱗に触れたくないものだから、台湾海峡を挟んだ事態は対象地域から外すべきだとか、新ガイドラインの適用範囲は地理的概念ではなく事態の性質に着目したものだとかという主張や説明がなされた。
 しかし、地図を開けば台湾地域で何かが起こるなら日本に影響が及ぶことは明瞭である。先島諸島は台北よりも南にあり、台湾の基隆と与那国島の距離は一五〇キロしかない。那覇と台北の距離と那覇と鹿児島の距離はほぼ同じである。民主主義的手続きで選ばれた総統を抱く中華民国(台湾)が中国の武方による脅威に晒されるなら、米国が助けるであろうことは九六年の総統選挙における米国の空母部隊派遣を見ても明白であり、この地域における米軍基地は沖縄しかない。
 それゆえ台湾海峡を挟んで軍事衝突の危険性が生じるなら、日本も必ず巻き込まれることは地理的に明白であり、周辺事態には含まれないと宣言しようがしまいが、地理的に、あるいは物理的に日本は巻き込まれる。
 だから日米安保条約は破棄せねばならないというのは勝手だが、ガイドライン関連法はあくまでも日米安保条約を前提としているので、ガイドライン関連法の内容に関する議論でそれをいうのはおかしい。
 米軍支援への自治体協力に関して、「那覇軍港などを抱える那覇市の親泊康晴市長は『後方支援とはいえ、対戦国は基地があるゆえに攻撃目標とする。戦闘行為に加担することはできない』と自治体協力に否定的な姿勢だ」(四月十八日朝日新聞)といった自治体の長の発言やそれを伝えるメディアもあったが、これらの発言、報道には日本がアジア・太平洋地域の平和と安定に貢献するという姿勢がまったく欠如し、ただ日本は巻き込まれたくない、何もしなければ爆弾は降ってこない、日本だけ安全ならばそれでよいという考えしかない。それでは新ガイドラインの意味がない。
 このような議論や報道姿勢が出てくる背景には、日米安全保障条約の再定義に関して国民の間に具体的なコンセンサスがないことがある。そのため、冷戦後のアジア・太平洋地域の平和と安定に日本がどこまでどのように積極的に貢献するのかという姿勢、あるいは覚悟が国民の間になく、その状況を自分の価値観やイデオロギーに利用しようとする論者やメディアの都合の良い解釈、報道姿勢に利用されてしまっているのである。
アジア・太平洋地域の安定にどのように貢献するつもりなのか
 では日本の安全には直接影響がなさそうに見える事態だが、国際的に共同歩調が求められる場合にはどうするのだろうか。たとえば湾岸戦争のときのような、世界のエネルギー供給の中心である中東の石油の安全が脅かされるというような場合である。これが(3)の状況に相当する。
 日本は毎年世界から七億五〇〇〇万トン以上の物資を売ってもらって生きている。石油だけでも二億トン以上を輸入し、その八五%は中東からの供給に依存している。それを運ぶタンカーのほとんどすべてがマラッカ海峡やインドネシアのスンダ海峡、ロンボク海峡を抜け、南シナ海を通ってくる。
 たとえばその南シナ海で紛争が起こり、ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争のように多国籍軍事力による平和執行、安定活動が行われることになった場合、日本はそれに対する参加要請を拒否できるのだろうか。南シナ海は外洋船舶だけでも年に五万隻以上が通航する世界有数の重要航路であり、その船舶の大半は日本から出入りするものである。そして日本はアジア・太平洋地域で米国に次ぐ第二位の海軍力を持っている。
 南シナ海は日米安全保障条約における政府見解の極東の範囲外であり、日本国憲法の解釈は自衛権以外の武力行使を禁じている。それでも日本は、南シナ海における国連、あるいは地域機構や複数国による軍隊を投入した平和復興、維持活動に対して参加しない(自衛隊は提供できない)と言い切るつもりなのだろうか。軍艦が絶対的に不足しているときに、日本は経済的支援だけを行うと突っぱねるつもりなのだろうか。海上自衛隊は英海軍の二倍の数の水上艦艇を持ち、その多くは最新の大型艦である。
 しかし、海上自衛隊の戦闘艦艇を除けば、自衛隊が保有している装備でこのような遠隔地での国際平和維持活動に使用できる装備は現在のところ非常に少ない。米海軍艦艇に燃料や水、食糧を補給できる艦隊補給艦と呼ばれる艦は世界標準から見て比較的小型の艦が四隻しかない。日本列島を離れた場所まで飛べるような輸送機は、中型輸送機に分類されるC-130が十五機だけである。
 輸送艦も小型輸送艇やホバークラフト型輸送艇、車輛を搭載し、輸送ヘリコプターを発着させられる比較的大型の多目的型「おおすみ」一隻(一九九九年度予算で同型がもう一隻建造される)以外は、中型(一五〇〇〜二〇〇〇トン)、低速の輸送艦が五隻あるだけで、大規模輸送能力はない。航空機を遠方に展開させる空中給油機もなければ、遠隔地と日本とを結んで迅速な情報交換と指揮統制を行うための遠距離通信システムもほとんどない。
 日本は今まであまりに専守防衛、日本本土の守勢的防衛に専念してきたため、アジア・太平洋地域の平和と安定に積極的に貢献しようとしても、その装備がない。
 民間にはたとえばコンテナ船とか、大型貨物輸送機(ただしそれらが発着できる空港の確保が前提となる)、衛星通信機能があるが、その協力を依頼することはできても、物理的、経済的損失が生じた場合の補償を行う法制度(有事法制)が整備されていない。
 もし、日本(国民)が本当にアジア・太平洋地域の平和と安定に積極的に貢献するつもりなら、憲法の呪縛を解き放ち、日米安全保障条約のこれまでの政府答弁や解釈に囚われず、日本としての世界に受け入れられる確固とした明瞭な戦略を打ち出し、現実的な法の整備と運用、必要とされる装備の充実が求められよう。
 それには我々日本人一人一人の主体的な自覚と責任感が必要である。大日本帝国憲法下における天皇一人が統帥権を持つ軍隊ではない、自衛隊は民主国家の軍隊であり、それを日本と世界の平和、安定のためにどう活用するかは、我々自身の責任と意志にかかっている。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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