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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998年12月号 The21
世界は自衛隊の抑止力を高く評価している
江畑謙介
えばた けんすけ
英ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー特派員
防衛力の構成要素と難しい質の比較
 「防衛力」という言葉の定義は曖昧である。資源や食料が自給できるか、周辺諸国とのあいだにどのような国境があるか、民族・宗教などの対立関係を国内や周辺諸国と有していないか、友好国がどのくらいあるか、そのなかで防衛同盟関係を結んでいる国がいくつか、その同盟関係の信頼度はどの程度なのか、なども防衛力の重要な要素となる。
 日本は資源と食糧の自給率からみると非常に脆弱であるが、国境は海洋国境という「攻めるに難く守るに易しい」天然の国境としてはもっとも優れた防衛機能を発揮するものに四周を囲まれている。また、幸い、いまのところ国内外での民族・宗教的対立要素は非常に少ない。世界に「友好国」と呼べる国は多いといえようが、防衛同盟を結んでいる国は米国一国しかなく、その同盟の信頼度という点になると議論が分かれる。少なくも米英の同盟関係以上のものではないのは明白である。
 さらに狭い定義の防衛力=軍事力としてみた場合も、国家予算の規模(つまり経済力。基本的にはこの規模が大きいほど、必要とあらば大規模な軍隊を保有でき、長期にわたって戦いを継続できる能力がある)、人口と動員体制(人口が多いほど大規模な軍隊を編成できるし、動員体制が整っていると迅速に軍隊を拡大できる)、教育レベル(高いほど、短時間で近代的な装備を扱える兵士に育てやすい)、技術・工業力の大きさと質(大きくて高いほど、防衛装備の自力生産や修理が容易で、兵士の技術知識も高い)などを考慮する必要がある。
 これらの要素のうち、国家予算や人口などは定量化できるし、動員体制もたとえば四十八時間以内に何人までというかたちでの定量化した比較ができる。しかし、教育レベルや技術・工業力の質などは定量化が難しいため、なかなか比較材料としては取り上げにくい。同様に兵士と兵器の数の比較は容易だが、兵士の士気や訓練レベル(質)、兵器の質(性能)や運用法なども定量化できにくい。そのため、一般的には兵士や兵器の数、国防(軍事)予算などの定量化しやすい要素の比較だけで、防衛力(軍事力)が論じられるのがつねである。
 兵器の種類の比較(性能比較)を定量化しようという努力もされてはいるが、いまだに世界の主力戦闘機として広く使われているソ連製のMiG-21戦闘機と、航空自衛隊も使用している(世界で使用しているのは四ヵ国しかない)米国製のF-15戦闘機との性能比較を、一対五とか一対一〇とか決めつけるのには多くの異論を呼ぶことであろう。
 MiG-21戦闘機にもいろいろな型があり、しかもまた、種々の近代化改造をした型があるから、一律に性能差の比率を定められない。
 さらに、定量化できる要素であっても、兵士の数は現役兵士の数の比較だけではだめで、予備役兵やそれに準ずる兵士の数の比較もせねば実際に近づけない。たとえば米国では、予備役部隊や州兵が現役部隊と肩を並べて活動しているし、ときには米軍作戦の三分の一から半分を占めるまでになっている。兵器も、それによって発射、投下される砲弾や爆弾の数と質を問われねばならない。米国はマレーシアにF/A-18D戦闘攻撃機を輸出したが、それに搭載可能な非常に高性能の空対空ミサイルAIM-120アムラームの輸出は拒否した。理由はこの地域(東南アジア)の軍事バランスを崩すおそれがあるからというもので、どこか他の国がこの地域に同種の高性能空対空ミサイルを輸出した後であるなら、米国はアムラームの輸出を許可するという態度をとっている。そうすると(訓練の度合いなどの差は別としても)、米海軍・海兵隊が運用しているF/A-18DとマレーシアのF/A-18Dとは、基本的には同じものでも、空対空戦闘能力では大きな差があるということになる。
 結局、こうした質の差はなかなか定量化比較ができないため、現実世界では、国家間の外交の場においてすら、国防予算が多いだの少ないだの(これもどこまでを国防予算とするか、その比較のためにどの通貨に換算するかなどによって異なる)、戦闘機を何機もっているだのという、定量化できる要素だけの比較が行なわれる場合が多い。
 
国防費はアメリカが突出
日本も絶対額では世界第2位
■世界各国の国防費(億ドル)
国名 国防費
アメリカ 2,623
日本 429
フランス 371
イギリス 355
ロシア 310
ドイツ 271
イタリア 183
サウジアラビア 179
韓国 155
ブラジル 120
資料: 史料調査会編『世界軍事情勢98年版』(原書房)
 
現役兵力では世界24位の自衛隊だが「見かけの力」はそれ以上の評価を受けている
■世界の陸軍現役/予備役数(96/97年)
    現役兵力 総人口 対人口比 予備兵力 対人口比 現役+予備役数 対人口比
1 中国 222.0万人 130,000万人 0.17% 300.0万人 0.23% 522.0万人 0.40%
2 北朝鮮 115.0 2,350 4.89 350.0 14.89 465.0 19.79
3 インド 110.0 93,650 0.12 24.0 0.03 134.0 0.14
4 ロシア 67.0 14,820 0.45 2000.0 13.50 2067.0 13.95
5 パキスタン 56.2 13,150 0.43 14.4(準軍事) 0.11 70.6 0.54
6 韓国 52.0 4,560 1.14 300.0 6.58 352.0 7.72
7 米国 49.5 26,380 0.19 90.2 0.34 139.7 0.53
8 ベトナム 45.0 7,340 0.61 100.0 1.36 145.0 1.98
9 トルコ 40.0 6,500 0.62 110.0 1.69 150.0 2.31
10 イラン 35.0 6,660 0.53 20.0 0.30 55.0 0.83
11 イラク 30.0 2,060 1.46 1.5(準軍事) 0.07 31.5 1.53
12 エジプト 30.0 6,240 0.48 46.0 0.74 76.0 1.22
13 シリア 30.0 1,550 1.94 10.0 0.65 40.0 2.58
14 ミャンマー 28.0 4,510 0.62 7.3(準軍事) 0.16 35.3 0.78
15 台湾 24.0 2,150 1.12 116.0 5.40 140.0 6.51
16 フランス 23.6 5,810 0.41 22.0 0.38 45.6 0.78
17 インドネシア 23.5 20,360 0.12 150.0 0.74 173.5 0.85
18 ドイツ 23.3 8,130 0.29 65.0 0.80 88.3 1.09
19 エチオピア 22.5 5,600 0.40
20 イタリア 20.4 5,730 0.36 58.0 1.01 78.4 1.37
21 ブラジル 19.6 16,070 0.12 24.3(準軍事) 0.15 43.9 0.27
22 タイ 19.0 6,030 0.32 53.0 0.88 72.0 1.19
23 ポーランド 17.8 3,880 0.46 47.0 1.21 64.8 1.67
24 日本 15.3 12,550 0.12 4.7 0.04 20.0 0.16
25 キューバ 14.5 1,090 1.33 290.0 26.61 304.5 27.94
26 スペイン 13.5 3,940 0.34 25.0 0.63 38.5 0.98
27 イスラエル 13.3 550 2.42 63.4 11.53 76.7 13.95
28 メキシコ 13.0 9,400 0.14 30.0 0.32 43.0 0.46
29 ルーマニア 13.0 2,270 0.57 60.0 2.64 73.0 3.22
30 イギリス 12.0 6,500 0.18 32.0 0.49 44.0 0.68
資料: 江畑謙介氏
自衛隊は現在まで第一の任務を果たしてきた
 現実には、各国の防衛力の比較は、まず定量化しやすい要素にかぎって行なわれる。つまり「見かけの防衛力」である。
 ここでまず抑えておかなければならないことは、防衛力(軍事力=軍備)の第一にして最大の役割(保有の目的は「抑止力」にあるという点である。つまり、他の国や勢力から、その国(や勢力)が当然と考える固有の利権を侵害されるような無理難題な要求を押しつけられず、他の国や勢力が武力をもってその侵害を行なおうという気を起こさせないようにすることである。
 ところが難しいのは、自分は歴史的、国際法的にみて一点の疑問もない正当な利権と考えていても、他の国や勢力もまた同時にそれを自分たちの正当な利権だと考える、という現実である。領土問題を考えてみれば、これは容易に理解できるだろう。それゆえ紛争の種はなくならない。
 それでも、相手が武力(軍隊)をもってその正当と考える権利を行使しようとする場合、相当な損害ないしは得られる利権では引き合わない被害(そのなかには、国際社会での孤立化などの要素も含まれる)が避けられないと考えるならば、武力による強硬手段には訴えてはこないであろう。これが抑止力である。
 従って、防衛力(軍備)の本質は「使わない」点にある。これが平時における政府、民間組織の多くと異なる点である。消防という組織は火事を消すだけではなく、火事を出さないように教育、指導を行なう任務もあるが、消防車は火事が生じた際に火を消すためのものである。ところが戦闘機は、戦争状態になったときに戦う任務もあるが、平時からそれが存在することで戦争状態を引き起こさないという役目があり、後者のほうが重要である。
 それゆえ、不幸にして戦争状態が発生してしまったならば、その防衛力(軍備)は第一の任務を果たせなかったことになる。
 結果論的には、自衛隊が創設されてから半世紀近くたった現在に至るまで、日本が直接的な戦争状態にならなかったのだから、自衛隊は立派に第一の任務を果たしてきたといえよう。それはもちろん自衛隊だけの力ではない。日米安全保障条約による米国との総合力としての抑止力や、地理的要因、そして日本周辺と世界の状況が幸運だったなどの要因もあろう。だが世界が定量的にみた場合、自衛隊の力を高くみている(評価している)のは事実である。
 
数字の上では自衛隊より攻撃的なイギリス軍
ただし「見かけ」の数字で実質は判断できない
■イギリスと日本の軍備比較(原則として97年初頭現在)
  イギリス 日本
人口(95年7月) 5,830万人 1億2,550万人
防衛予算(USドル換算) 327億ドル 459億ドル
対GDP比 3.1% 1.8%
現役総兵力 22万8,000人 23万9,992人
対人口比 0.4% 0.19%
予備役兵力 32万人 4万7,220万人
陸軍現役兵力 12万人 15万人
主力戦車 960輛 1,110輛
装甲兵員輸送車 3,453輛 1,230輛
野砲 508門 1,136門
多連装ロケット弾発射機 36輛 145輛
ヘリコプター 324機 526機
海軍現役兵力 4万7,200人(含海兵隊) 4万3,800人
弾道ミサイル原潜 4隻 0隻
軽空母 3隻 0隻
攻撃型潜水艦 12隻 16隻
駆逐艦 12隻 41隻
フリゲート 22隻 20隻
ドック型揚陸艦 2隻 1隻(1998年初頭完成)
戦車揚陸艦 7隻 6隻
大型掃海艦 0隻 3隻
中型掃海艦 18隻 27隻
戦闘機 40機 0機
対潜哨戒機(空軍所属) 26機 98機
対潜ヘリコプター 155機 106機
空軍現役兵力 6万人 4万4,500人
防空/制空戦闘機 92機 255機
攻撃/戦闘爆撃機 152機 74機
偵察機 48機 17機
早期警戒管制機 7機 13機
空中給油/輸送機 29機 0機
輸送機 66機 42機
輸送ヘリコプター 104機 15機
資料: 江畑謙介氏
国防費は世界有数 数もイギリスを上回る
 日本は半世紀前、ほんとうに貧しい国で工業力も壊滅状態にあったが、その後めざましい発展と進歩を遂げた。その国家予算規模と工業力、技術水準から日本の国家体力を低く評価する見方は少ない。ほとんどの資源を外国に依存していても、ソ連が崩壊した現在、太平洋からの資源、食料ルートに対する脅威の度合いは、冷戦時代よりも大きく低下しているし、予見できる将来において大きな脅威が出現する様子はみえない。
 国防費(防衛費)の米ドル換算額は、円の為替レートが低下しているとはいえ、なお世界第二位に位置している。日本の防衛費は恩給を含むが欧州の国防費には含まれない、中国の国防費は公表値の少なくも三倍はあるだろうといった変動要素はあるが、それでもなお「世界有数」の高額である事実に変わりはない。
 人口は世界第八位であるものの、動員制度はないし、予備自衛官は五万人もいないが、十五万三千人の陸上自衛隊現役兵力(自衛官数)は世界で二十四位である。国連加盟国数だけでも百八十五カ国ある世界の中では、やはり大きな軍隊ということができよう。この陸上自衛隊の現役兵力はイギリス陸軍を上回る。陸海空三軍(三自衛隊)の現役総兵力でも、日本はイギリスを上回っている。人口比からするとイギリスの〇・四%に対して日本は〇・一九%しかないが、この絶対的兵力差はやはり人目を惹かずにおかない。国防費(防衛費)の額も対GDP(国内総生産)比では、日本はイギリスの六割弱にすぎない(それだけ、国民に対する軍備の負担が少ない)のだが、絶対額ではイギリスより三割も多い。
 装備の数ではもっと印象的である。陸軍(陸上自衛隊)の装備では、主力戦車、野砲、多連装ロケット弾発射機、ヘリコプター、いずれも日本のほうが多く、主要な戦闘装備いわゆる「正面装備」でイギリスが上回っているのは装甲兵員輸送車の分野だけである。このことから英陸軍のほうが、装甲機動作戦能力が優れた近代的な陸軍であるといえるのだが、日本の国土のなかだけで防衛戦闘を行なう状況を考えてきた陸上自衛隊と、NATO(北大西洋条約機構)の一員として欧州大陸での戦闘や、それ以外の地域へ進出展開して戦闘する状況を考えてきた英陸軍とでは、一概に単純比較することはできない。もっともこれは専門知識があっての比較検討事項で、一般にはそこまで条件を考慮されて比較される場合はほとんどない。
 海上自衛隊と「大英帝国海軍」との比較でも、一九九七年初頭時点で英海軍の主要水上戦闘艦の数は三十七隻であったが、日本では六十一隻を擁していた。ただしその内容を比べると、英海軍は海上自衛隊にはないV/STOL空母(軽空母)三隻を保有している。潜水艦の数は日英ともに十六隻だが、日本はすべて通常動力の攻撃型(パトロール)潜水艦であるのに対して、英海軍は四隻が弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦(戦略核攻撃用)、残り十二隻は攻撃型原子力潜水艦である。
 このほかの保有する艦艇の種類を比較するなら、英海軍は長距離を遠征し、必要なら上陸作戦もできる海軍であるのに対して、海上自衛隊は艦隊補給艦の数も四隻しかなく、上陸作戦に使える艦種も、今年三月に完成した「おおすみ」というドック型揚陸艦を加えても非常に限定されたものである事実がわかるが、世界はやはり駆逐艦や潜水艦の数だけに目を奪われる場合が多い。
 同じ内容は空軍(航空自衛隊)についてもいえる。戦闘機や戦闘爆撃機(航空自衛隊の用語では「支援戦闘機」)、偵察機の合計数は日本のほうが多いが、日本の戦闘機は防空用の迎撃(要撃)戦闘機が主体であるのに対して、英空軍は攻撃機や戦闘爆撃機の数が多い。さらに英空軍は航空自衛隊にはまだない空中給油機を保有し、中・大型輸送機の数でもはるかに上回っている。もし日本のメディアや政治家が好きな言葉で表現するなら、イギリス軍のほうが自衛隊よりもずっと「攻撃的」な装備を多く保有している。
 もっとも、軍備とはつねに諸刃の剣であって、完全に防衛的、あるいは攻撃的装備などというものは存在しない。どう使うかの問題であるし、戦っている相手がどちらも自分たちの正当な利権を守るためと考えるなら、どちらもその使い方はつねに防衛的である。
 「純粋に防衛的」と説明される場合が多い弾道ミサイル防衛(BMD)構想や戦域ミサイル防衛(TMD)構想も、もしそれを保有する国が同時に攻撃用の弾道ミサイルをはじめとして、航空機から発射する空対地ミサイルでもよい、別種の兵器をもつのであるなら、相手にとってBMDは、その兵器が相手の弾道ミサイルの攻撃によって破壊されないようにして、相手に反撃を加えるための手段を確保する目的のものともみなすことができる。要するに「攻撃的」「防衛的」の議論や主張には意味がない。
「見かけの防衛力」と実質的防衛力
 さらに細かく装備の内容を比較するなら、自衛隊の「見かけの防衛力」は世界でもトップクラスとなる。航空自衛隊のF-15戦闘機は、現在実戦配備になっている戦闘機ではなお世界最高の性能であり、日米以外ではサウジアラビアとイスラエルしか保有しておらず、そのどちらの国よりも日本は多い数を持っている。E-767早期警戒管制機は米、英、仏、サウジアラビアが保有するE-3早期警戒管制機と同じレーダー・システムを搭載し、その四機という数はフランスと同じである。これに加えて十三機のE-2C早期警戒管制機をもっているが、一つの空軍が二種類の早期警戒管制機を保有している国はほかにはない。
 海上自衛隊の水上艦と潜水艦の平均艦齢は世界でもっとも若く、四隻の「こんごう」型護衛艦は米海軍以外では唯一の、イージス・システムという非常に高性能の防空システムを搭載している。一隻じつに千二百億円以上というとてつもない高額艦である。
 陸上自衛隊の90式戦車は、世界の目からみると次の主張はかなり疑問なのだが、当事者は「世界第一級の性能」と豪語している。たしかに内容はいちおう現在の最新型戦車に共通するものを備えている。野砲は新型の長射程化と自走化が進み、その新型野砲の数という点では世界水準でも上位に位置できるようになった。
 しかし、90式戦車がほんとうに実戦的であるかといえば、上面からの攻撃に対する防御が配慮されていない、指揮統制とデータ通信機能が旧態依然のままであるなど、表面からだけではわからない分野に疑問とする点が多い。野砲もその機動力と長射程を活かすための、遠距離目標捕捉、情報伝達手段が備わっているとはいえないし、だいいち、現代の戦闘に十分なだけの弾の備蓄があるかというと、さらに頼りない。もっとも、いかなる国でも弾薬の備蓄量は最高機密の一つであって、それを積極的に公表するところはないが、「たまに撃つたまがないのがたまに傷」という川柳が自嘲気味に当事者の口から語られていたのは、そう遠い昔の話ではない。
 さらに弾はあっても、それを実際に撃って訓練できる、十分に広い演習場がない。そのため以前より地対空ミサイル実射訓練は米国本土の試射場を借りてきたが、いまでは地対地誘導弾(沿岸防衛用ミサイル)や戦車、あるいは海上自衛隊のミサイル、魚雷の実弾発射訓練も米本土やハワイで行なわれるようになった。今後も野砲や航空自衛隊の戦闘機なども米国の訓練施設を借りざるを得ない状況にある。このような訓練場の不足は(それは何も日本に限った現象ではなく、世界の多くの国で似たような問題に悩んでいるのだが)、必然的に実戦的訓練の機会を制限する結果になる。とくに現代戦に必須の電子戦の訓練においては、日本の国土やその周辺で下手に強力な妨害電波を発信すると、民間の電波利用に大きな障害が起こるし、また日本周辺の国々に日本の電子戦能力を知られてしまうために、そう気兼ねなく実施できる状態にない。
 また、組織、制度上の問題もある。現代戦では陸海空の部隊が統合的に協力し合って作戦をする必要があるのだが、日本では欧米主要国の軍隊に比べると三軍統合作戦ではずっと遅れている。情報の分野でいちおう形だけは統合化ができたのはやっと一年前の話である。百キロ以上の有効射程をもつ陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾は、水平線を越えて目標を捕らえるシステムがなく、その能力を持つ海上自衛隊のP-3C哨戒機や航空自衛隊のE-767、E-2C早期警戒管制機からは、直接に目標の位置と動向に関するデータを受けられるようにはなっていない。
 このような「実質的な」防衛力は、米軍のような実際的な軍隊に比べるとずっと低いといわざるを得ないものがあるのだが、前述のように防衛力(軍備)の第一の任務は抑止力にあり、またその国特有の条件がある。この点からは全世界でつねに実戦に投入される可能性がある米軍と、「専守防衛」で軍事面での積極的な国際貢献を拒否している日本の自衛隊とでは、直接的比較には無理がある。
 繰り返すが、自衛隊は少なくとも「抑止力」という見地からは、優れた「見かけ」上の要素があり、これまではそれを果たしてきたということはできよう。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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