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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1988/07/26 世界週報
“史上最も高度な”イージス艦の落とし穴
江畑謙介
大韓機事件との共通点
 七月三日午前に起こった、米海軍イージス巡洋艦ビンセンズCG49によるイラン航空エアバスA300誤認撃墜事件は、全世界を電撃のように駆け巡った。その内容のショッキング性と類似性において、五年前に起こったソ連防空軍による大韓航空007便撃墜事件が比較に出された。
 米政府は、大韓航空機撃墜事件と今回のイラン航空機誤射事件は本質的に異なると盛んに弁明している。その妥当性はともかくとして、双方の事件に共通する項目の一つに、「なぜ、目標の識別を誤ったのか?」ということがある。大韓航空機の時は、ボーイング747ジャンボジェットと、それより二回り以上小さいRC135戦略偵察機と誤認したとソ連は主張し、今回、米側はエアバスA300と、それよりずっと小さいF14トムキャット戦闘機と誤認したと主張する。その双方の原因については、いまだに各種の推測に頼るしかない。
 大韓機事件の場合、ソ連は防空レーダーと防空戦闘機のパイロット双方により目標を誤認した。イラン航空機事件では、米海軍が空母戦闘群防衛の切り札とみなしていた「史上最も高度の洋上戦闘指揮システム」たるイージス・システムを使いながら目標を誤認した。これが科学技術に大きな信頼と期待を寄せるアメリカの国民に大変な衝撃を与えたのである。
“史上最もテストされた”イージス・システム
 事件後、すぐにイージス・システムの能力に関する不信の声が上がった。続いて「イージス・システム」は十分なテストもされず実用化されたとの批判が出た。この批判が具体的に何を意味するのか、本稿執筆時点ではわからないが、イージス・システムは米海軍がいうに、「史上最もテストされた」システムであり、それでも一九八三年に議会から出されたテスト不足の疑念に応えるため、一九八四年にさらに追加テストを行っている。
 それでもこのシステムは結果として誤りを犯した。この結果は否定できない事実であり、現時点での状況を考えると、非難されてもやむを得ぬものがあろう。
 いわゆる一般の人々に、事件の話をわかりにくくしている理由の一つが、この、イージス・システムなるものの存在である。「イージス(Aegis)」とはギリシャ神話で、ゼウスがアテナに与えた盾の名であり、空母戦闘群を守る至上の防衛手段というところから選ばれた。
 その主体はコンピューターであり、SPY1と呼ばれるレーダーを始めとする各種センサーと兵器とを組み合わせ、制御する能力が本システムの神髄である。エアバスA300を撃墜したスタンダードMR艦対空ミサイルは、イージス・システムで制御される兵器の一つに過ぎない。ほかにもハープーン対艦ミサイルとか、対潜魚雷とかいろいろな兵器をこのシステムは制御する。つまり人間でいえば、イージス・システムは頭脳であり、目や耳に相当するレーダーやソナーからの情報を処理して、ナイフやピストルに相当するミサイルや魚雷を使う。従来、この頭脳は艦に乗る人間が、レーダーやソナーから入ってくる情報を見て判断し、兵器を誘導していた。
 イージス・システムでも人間が介在するが、目標の識別とか脅威度の判断、目標へ向けての兵器の誘導や最適時間での発射など、コンピューターにまかせられるものはなるべくやらせ、人間は攻撃決定とか、表示された攻撃モードのオプションの中からの選択といった作業だけを行う。高速の多目標脅威に素早く対処できるようにするためだが、実はここに落とし穴があった。
 イージス・システムは何度も書くが、洋上において米空母を守るためのシステムである。西側生存の生命線は海上交通路であり、その確保と洋上戦に最も大きな力を持っているのが米大型航空母艦である。したがってソ連が米国と事を構えるとした場合、洋上においては米空母の撃破をまず第一に考えねばならない。それにはかなりの犠牲を払っても、ひきあうものである。このような目標を「高い価値を持つ目標(ハイ・バリュー・ターゲット)」といって、たとえばTu26バックファイアー爆撃機のような機体を使って、何十機かで同時集中攻撃をかける。防御側の能力を飽和状態にさせるためである。
 イージス・システムはそのような攻撃にも十分対処できるように設計された。同システムを構成するハードウエアの中で、最大の特徴である上部構造物壁面上四面に備えられたSPY1フェーズド・アレイ・レーダーは、コンピューターと連動し、数百(二百以上といわれる)の目標を同時に探知、追尾、識別し、そのうち、脅威度の高い目標二十個以上に対して、ミサイルを発射誘導できる能力を持つ。
最終判断は人間が行う
 ところが問題はここにある。「脅威度の高い」とは、どうやって判断するか?コンピューターが各種の判定基準と照らし合わせて行うのだが、たとえば、こちらに向かって来る目標は、遠ざかっていたり、あらぬ方向に進んでいるものより「脅威度は高い」。それが増速していれば、減速しているのより「怪しく」、降下してくるのであれば、これは「危ない目標」と考える、といった具合である。
 その作業をコンピューターが瞬時に行うから、多目標対処ができるのだが、その「脅威度の高い」目標を攻撃するか否かを決めるのは人間である。
 イラン航空機を撃墜した場合も、イージス・システムのコンピューターは、こうした判断選択を行い、さらに「各種電子情報」に基づき、敵味方の識別作業も行ったはずである。
 その中には当然、あの海域での民間定期航空路線のスケジュールも入っていたはずで、イージスのコンピューターは多分、「『イラン航空の655便がまだ来ていないから、それである可能性はあるが・・・』、目標はこちらに向かって来る、脅威度のレベルは赤のほうだ」というようなことをビンセンス艦内の戦闘指揮所のスクリーン上に表示してきたであろう。あるいは始めの『 』の中は表示されていなかったかもしれない(その可能性が大きい)。
 イージス・システムのコンピューターは決して「目標が敵である確率一〇〇%」とはいっていないはずである。しかし、戦闘指揮所内にいて、そのわずか半時間前にイランの高速艇相手の戦闘を交えたばかりであり、イラン側の報復攻撃をピリピリしながら警戒している人間には、コンピューターのいってきていることが、「一〇〇%敵」と映っても不思議ではない。これはコンピューターの問題ではなく、人間が人間である限り永久について回る問題である。
 もっとも、イージスのコンピューター・ソフトウエアにも問題がない訳ではない。前述のように、イージス・システムは大洋上で空母を守るためのシステムであり、そのソフトウエアは、「接近して来るものは、まず敵」と疑ってかかるように書かれている。まず「民間のものか、中立国のものかもしれない」と疑ってかかるようにはなっていないのである。
 したがって、スクリーンの表示には「脅威度」としては示されても、「不確実度」とは示されない。そのスクリーンを見る戦闘状態にある人間が、初めから敵と疑ってかかっても、あながち責められるものではないかもしれない。
 イージス・システムは確かに洋上航空管制所として使える能力を持ち、ベイルート沖やリビア沖で実際にその任務に投入された。しかし、それは同システム本来の使い方ではなく、今回の事件も使用場所を誤ったことから生まれた悲劇といえなくもない。
(えばた・けんすけ=軍事評論家)
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
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