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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/10/20 世界週報
AWACS(空中警戒管制機)とは何か 自衛隊が欲しがる性能と問題点
江畑 謙介
(英ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー特派員)
 
 宮下防衛庁長官は九月二二日、八月に計上した来年度(一九九三=平成五=年度)予算の概算要求を組み替えて、正面装備調達経費九二六一億円の枠内で航空自衛隊に配備する空中警戒管制機(AWACS)二機の追加要求を行う方針を明らかにした。このような大型調達が組み替え要求されることは極めて異例であるが、それはAWACSの唯一の候補ともいえる米ボーイング社のB767旅客機を元にする機体価格を、米国側が大幅に値引きしてきたことが大きな要因になったと伝えられている。それにしても、九月中旬のレート換算で一機五二五億円、二機で一〇五〇億円、さらに現在の中期防(中期防衛力整備計画)で当初予定していた四機がもし調達されるとなると、オプション二機も含めれば二一〇〇億円の高額発注になる。「この時期になぜ?」という声が存在するのも事実である。
ミグ25亡命事件でE2−Cの導入決定
 AWACSは「エイワックス」と発音し、一般には米ボーイング社が開発し、米空軍、NATO(北大西洋条約機構)、英空軍、仏空軍、サウジアラビア空軍で使用されているE-3セントリーを指す場合が多い。航空自衛隊による空中早期警戒機の装備構想は一九六〇年代にさかのぼることができる。近代的防空体制を保有しようとする「軍隊」なら当然のことで、早期警戒レーダーは地球の丸みや山などのために、いくら山の頂上に設置してもその低空の「見える」範囲は限られるが、高度七〇〇〇メートルの高空から見降ろせば、地上レーダーの死角を狙って低空を侵入してくる航空機を遠方から容易に発見できる。ベトナム戦争で米軍は、空中レーダーステーションと形容されるEC-121やE-1、E-2などの機体を飛ばして、北ベトナム空軍機、海軍艦艇の奇襲攻撃(実際にはなかったが)を警戒した。しかし同時にこの空中レーダーステーションは、南北ベトナムを爆撃する米軍機の誘導にも威力を発揮して、単に早期警戒だけではなく誘導管制(コントロール)機能も重視されるようになった。これがAWACSの開発につながっている。
 日本のAWACS装備計画は、「希望」という形で優先度の浮沈を繰り返していたが、決定的要因となったのが一九七六年九月六日の旧ソ連戦闘機ミグ25亡命事件であった。低空を侵入してきたミグ25の追尾捕捉に失敗して、結局、函館空港への着陸を許してしまったことから、日本の防空警戒網に大きな穴があるという事実が如実に実証されたのである。この事件を利用して一気に早期警戒機の導入を実現させようとする“必要以上”の動きもあったが、とにかく翌一〇月二九日に決定された防衛計画の大綱で、「警戒飛行部隊一個飛行隊」の保有が盛り込まれることになる。その結果、一九七八年八月に米グラマン社が米海軍の空母搭載用早期警戒管制機として開発したE-2Cホークアイの調達が決定された。米空軍向けのE-3セントリーも候補になったが、当時の防衛予算では価格面で到底手が出るものではなかった。E-2Cの三倍以上の値段だったからである。また独自の国内開発も検討されたが、価格、経験不足(特にソフトウエアの面で)から見送られた。
 E-2Cは当初八機の装備が計画され、一九七九年度、八一年度に各四機がFMS(対外有償軍事援助)調達された。一九八六年度から始まった中期防で、どんな理由か明白にされないままさらに五機の追加装備が決まり、一九八九年度に三機、九〇年度に二機が調達契約されて、合計一三機(一個警戒航空隊一二機、予備一機)が一九九三年度中に装備を終了する。調達価格は当初一機およそ八六億円であったが、最後の段階では約一二五億円になっている。
“金持ち”日本に売り込まれた新鋭機
 E-2Cは空母搭載機であるため、洋上での目標捜索能力に優れる特長があり、その点では周囲を海に囲まれている日本では、作戦運用環境からは適していた。半面、小型でレーダー操作員が三人しか乗れず、機内も非常に狭いために、米海軍の場合、一回の作戦行動時間は三・五〜四時間に制限される。航続距離では、飛行六時間、基地から三〇〇キロほど進出して、三〜四時間の哨戒ができるが、乗員の疲労を考えるとそれほど実際的ではない。
 機体が小さいことは当然、搭載機器の能力にも影響してくる。レーダー操作員の席が三つしかないから、一度に対応できる目標数は一四のレーダー操作員ステーションを持つAWACSには到底及ばない。「最大目標対応可能数」などという数字は条件でいろいろ変化するからあまり意味はないのだが、一応E-2Cで二〇〇個、AWACSで六〇〇個以上とされる。機体が小さいことは将来装備を追加するなどの分野で発展性を持たせる余裕がなく、プロペラ機であるから震動や騒音が大きく、速度も遅い。哨戒地点までの進出に時間がかかり、敵の攻撃に弱いなど、AWACSと比べるとどうしても見劣りするのはやむを得ない。
 当初は「金がないから」とあきらめていたこれらの制約も、防衛予算に余裕が出てくると目に付いてくる。さらに米国は「より高価な」AWACSを「日米貿易不均衡是正」の一手段として、日本が購入するよう求めてきた。この「求めてきた」要求の強さがどの程度かは分からない。だがAWACSを欲しいと思っていた日本の当事者にとって、調達のいい理由付けになったのも事実であろう。
予期しないE−3機の生産ライン閉鎖
 日米どちらの希望や要求が強かったのかは不明だが、航空自衛隊のAWACS装備計画がついに具体化したのが一九九一年度から始まった現在の中期防であった。四機の調達が盛り込まれたのである。
 AWACSの候補はほかにも挙げられた。E-2Cのレーダーを含む電子システムを、C-130輸送機やP-3対潜哨戒機といったより大型の機体に搭載する型や、E-2Cの最新型(航空自衛隊が装備しているE-2CのレーダーはAPS-125ないしはAPS-138という型で、現在、米海軍の機体に装備されているAPS-145より性能が劣る)を追加調達するなどの案も一応検討された。
 だが、米国側も航空自衛隊側も本命は一つであった。E-3セントリーである。機体が四発ジェット機であり、機内容積や発電量の余裕(現在の電子システムには大量の電力が要求される)、長時間高速飛行能力、航空自衛隊が主力迎撃戦闘機として装備しているF-15との適合性(E-2Cのときと違って、データリンクという情報伝達システムを介して、AWACSからF-15に直接目標の情報をコンピューター同士の会話で送り込むことができる)など、あらゆる面で最適な機種だからである。
 ところが、ここで問題が生じた。E-3のボーイング社における生産ラインが一九九一年三月末に閉鎖される予定で、ラインを維持するには同年中ごろまでに一一機のまとまった発注が必要だとされたのである。E-3は前述のように米空軍向け三四機だけでなく、NATOが共同運用する機体を一八機、英空軍が七機、仏空軍が四機、サウジ空軍が五機を購入した。その最後の英空軍向けの機体は九一年五月に引き渡されている。E-3の機体は最も初期のジェット旅客機B707型で、旅客機型の生産はとうの昔に終了したが、サウジ空軍の空中給油機KC-3や、米海軍の潜水艦通信中継機E-6などの機体にも採用されたため、生産ラインが維持されてきた。
 しかしこれらの生産計画がすべて終了したため、ラインの閉鎖が決まったのである。民間企業としては当然の処置であろう。注文があればラインを維持するのは当然だが、効率上から基本生産数を満たさなければならない。日本の発注(現中期防で四機)だけでは無理で、空中給油機型もB707の機体を元にするとしても、現中期防では装備を見送った関係上、防衛庁としては勝手に注文するわけにはいかない。望みをつなげたのはサウジアラビアで、同国はさらに四機のAWACSと何機かの空中給油型を追加発注する意向を表明していた。だが湾岸戦争の直後だけに、中東に対する兵器輸出を米議会が規制する動きに出て、商談が成立する可能性は非常に少なかった。
 その結果、ボーイング社はついに生産ラインを閉鎖してしまった。もし生産ラインを日本のためだけに再開するなら、一機の価格は七〇〇億円から八〇〇億円になるというのが、ボーイング社から示された数字であった。現中期防で四機一三〇〇億円(一機三二五億円)と予定していた防衛庁は、八月に九二年度中の発注をあきらめ、九三年度以降に先送りすると決定した。
突然ダンピングした理由は何か
 そこで米国側の巻き返しが始まった。九一年九月二七日、日本のAWACS購入を求めて米議員六三人が署名した要望書が時の海部首相に送られ、さらに年末になると、機体を現在生産中のボーイングB767旅客機とし、E-3の電子システムを搭載する新型の提案が米国防総省とボーイング・チームから提示されたのである。
 システムの乗せ換えとなれば、開発費が当然余計にかかり、機体そのものの価格も高価になる。米国側がB767型AWACSの価格を幾らで提示したか具体的には分からないが、今年六月の日米防衛協議で日本側は価格の引き下げを求めている。それと並行して前述のC-130やP-3を元にする型の研究も行われたが、それらの経済効率などが真剣に検討された様子は少なくも納税者側には感じられず、これらはいわば当て馬で、日本側も米国側もターゲットをB767AWACSに絞った交渉であった。
 九月一三日、ボーイング社は単価五二五億円を米政府を介して日本側に提示する。一気に一〇〇億円以上の値下げである。ここから防衛庁は一転して、九三年度予算への差し替え取得要求を盛り込む方向に向かうのである。
 現中期防が終わる一九九五年度までに合計四機が発注されるのか、中期防見直しが行われている現在、防衛庁は明らかにしていないが、ボーイング社は当然オプションとしての仮発注の言質を期待するであろう。もっともB767の生産ラインが閉鎖される計画は当面ないので、AWACS型の開発さえしてしまえば、注文に応じて旅客機型のラインの中で生産すればよい。
 そこで不思議なのは、どうしてボーイング社が突然大幅な機体価格の引き下げに応じたかである。ボーイング社は今年に入ると積極的にB767AWACS型の開発研究に着手し、風洞実験などを開始している。同時にAWACSを今後採用する可能性がある国として、これまでの日本やサウジアラビアに加えて、イタリア、韓国が上げられるようになった。イタリアや韓国がここ一、二年に採用を決める可能性は少ないが、湾岸戦争でAWACSの威力が改めて認識されただけに、世界の空軍で今後この種の空中早期警戒管制機を求める動きは必ずや大きくなるという予想もある。
 とにかく米国側は、B767AWACS型さえ開発しておけば注文が取れる。サウジアラビアも最近、ブッシュ政権がF-15戦闘機七二機の追加輸出に応じる決定を下したことから、再び四機発注の可能性が生まれてきた。韓国からは今年三月四日、軍事筋・業界筋の話として、早期警戒管制機二機の購入検討が伝えられた。韓国空軍が検討しているのはE-2Cだと言われるが、B767AWACSに全く可能性がないわけではない。これらの可能性を考えると、当初日本に全面的に負担させる積もりであったB767AWACS型の研究開発費を差し引いても十分に元が取れると考えて、米国側が大幅値引きに応じたとしても不思議ではない。
目標識別能力が高いB767AWACS
 B767のAWACS型への改造は、B767-200Eという長距離型を元に、客席の窓をほとんどつぶし、後部胴体の構造を強化して、約七トンのレーダー・アンテナを収容する回転式のドーム(ロートドーム)とそれを支える支柱を取り付ける。床下の貨物室を改造して通信装置を搭載し、床を強化してレーダー操作員席やレーダー本体などの装置を搭載できるようにする。ロートドームを回転させる独立した油圧系を追加装備し、レーダー用の液体冷却装置を搭載する。さらに発電機を増強してこれまでの三倍強の発電容量を持たせるほか、空中給油の受油装置を取り付けることになる。エンジンはE-3の四発に対して双発になるが、ボーイング社の話では、双発の場合のエンジン故障に伴う不安は、民間型の使用実績からほとんど問題にならないとしている。
 航続能力はE-3と同等か二割増しで、最大一八五〇キロ進出して高度九〇〇〇メートルで六・五〜八・五時間の哨戒ができる。エンジンのオイルタンクを追加すると、二四時間の連続飛行も可能になる。
 肝心の電子システムは、米空軍用E-3の最新型が搭載しているブロック20/25パッケージと呼ばれるものが基本となる。洋上哨戒能力が改良されたAPY-2型レーダーを中心に通信装置などが増強され、レーダー操作員席がそれまでの一〇から一四に増やされた型である。さらに日本が調達するとして、果たして輸出が許可されるかどうかは分からないが、一九九三年度から米空軍向けの生産が開始されるブロック30/35システムが搭載されれば、レーダーの低空での小型目標発見能力は大幅に向上し、中央コンピューターの記憶容量が拡大され、JIIDSと呼ばれるコンピューター・データ移送システムやGPS衛星航法装置が搭載される。
 このシステムの目玉は、新型の電波受信解析装置(ESM)で、高感度の電波受信装置を使って、こちらは電波を出さずに敵の戦闘機が発信する電波を五五〇キロもの遠方で探知、その内容を瞬時に自動分析し、戦闘機の型を特定し、位置や高度、速度などを知ることができる。AWACSレーダーの目標探知距離は高度八〇〇〇〜九〇〇〇メートルの所で三七〇キロ。戦闘機が持つレーダーの目標発見距離がせいぜい一〇〇キロ程度であるから、はるかに遠方で目標を捕捉し識別できるようになる。
国民と外国の納得をどう得るかが問題
 総合的に見ると、AWACSはE-2Cよりはるかに広域の防空警戒を、長時間にわたってできるし、将来のシステム改良発達の余裕、防空戦闘機の効率的運用能力も優れている。航空自衛隊のE-2Cがほとんど本土近辺での、地上防空レーダーの穴埋め的に使われているのに、太平洋上に長駆進出して、いわゆるシーレーン防衛にも使用できる。その高い運用効率、「軍事的価値」を疑う専門家はいない。
 問題は次の二点である。AWACSはまずいくら価値が高くても、価格も、そして運用経費も非常に高価である。現在および将来の日本の戦略環境を予想して、そのような高価なシステムを装備運用するだけの必要性があるかどうかの判断である。税金を使う以上、「専門家」だけの判断ではなく、そのカネを拠出する納税者の理解を得る必要があろう。例えば既に一三機を調達しているE-2Cと並行装備する必要性があるのかないのか、具体的な論議や説明がなされてはいない。シーレーン防衛という考え方が、現在の世界環境でも意味を持つのか、などである。
 第二に、AWACSの能力は非常に多岐にわたるもので、湾岸戦争で実際に使われたように、相手国の内部に入って航空攻撃(あるいは海上戦闘)を行う際に、空中の指揮司令部として大きな能力を発揮する。これが空中給油機と組み合わされた場合、長距離の進出・滞空能力は飛躍的に向上する。日本が意図しようがしまいが、これは他の国にとってみれば「日本がその能力を持った」と解釈される。その不安を除去する努力を別の分野でしなければならないのだが、E-2C装備の時には問題にならなかった「外国への配慮」が、AWACSでは大きな問題になることを、為政者だけでなく納税者である国民も理解しておくべきであろう。
◇江畑謙介(えばた けんすけ)
1949年生まれ。
上智大学大学院修了。
軍事評論家。
 
 
 
 
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