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1991/10/31 読売新聞朝刊
[社説]「平和への貢献」実証した掃海艇
 
 湾岸戦争でペルシャ湾に敷設された機雷を除去するため、初の海外実動任務に就いていた海上自衛隊の掃海派遣部隊が帰国し、歓迎式典が行われた。
 出港以来百八十七日。炎熱の危険海域で三十四個の機雷を爆破処理し、航路の安全を確保したことは、「新たな時代におけるわが国の国際貢献の輝かしい先駆」(海部首相訓示)と評してよい。隊員はもとより、留守を守った家族、関係者全員に、まずは、ご苦労さまと言いたい。
 石油輸入の七〇%を湾岸地域に依存している日本が、機雷除去に参加するのは、国際貢献という側面はもちろん、日本船舶の航行の安全を守るという点でも、極めて当然のことである。
 しかし、政府の派遣決定は、かなりもたついた。すでに十数か国が掃海に参加し、イラクが敷設した千数百個の機雷のうち、半数以上が各国の努力で掃海ずみになったあとでの遅ればせの派遣だった。
 このことは、わが国が今後、国際貢献を果たすうえで、大きな教訓を残した。
 政府はじめ与野党は、やらなければならないことは率先してやる、という姿勢をまず確立しなければならない。こういう姿勢がないと、大局観を欠いた不毛の法律論争におちいり、結論が出せなかったり、タイミングを失することになる。
 今回、わが国が掃海部隊を派遣することができなかったり、参加決定がもっと遅れたりしていたら、日本の「一国平和主義」に対する国際的批判は一段と高まり、国際社会の中で、厳しい立場に立たされていたことは疑う余地がない。
 掃海部隊の派遣に対しては、“アリの一穴”論と言われる反対論があった。いったん自衛隊が海外へ出るのを許したら、堤防がアリの一穴から崩れるように、いずれ海外派兵に道を開き、日本は再び軍国主義化する、という議論だ。
 しかし、今回の掃海部隊の活動は、「平和への貢献」に徹したものであることを実証した。どこに軍国主義化への“穴”があいたというのか。このような人を惑わす議論があるから、アジア諸国が心配する。
 現在の日本は、民主主義体制の下で、国会を中心に文民統制が確立している。他国を侵略する意図も能力もない。今回の掃海部隊の活動ぶりと実績をもとに、もっと自信をもってアジア諸国に説明すれば、理解を得られないはずはない。
 政府は今回、自衛隊法の「雑則」の中の九九条に基づいて掃海部隊を派遣したが、これについては、同条は海外への派遣を規定したものではないので拡大解釈だ、という批判がある。
 派遣を決めるに当たり、法改正をすべきだという議論もあったが、そうした野党の主張は、派遣を阻止するための口実であり、当時、成立させる時間的余裕がなかったのも事実である。
 掃海部隊が任務を終えた今こそ、自衛隊の平和的貢献に関する役割を同法の「本則」に明記するよう、与野党は正面から論議すべきである。
 
 
 
 
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