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1991/11/29 読売新聞朝刊
[社説]重ねてPKO法案審議に望む
 
 二十八日に予定されていた国連平和維持活動(PKO)協力法案の衆院通過は、社会党などの反対が強いため見送られ、二十九日以降に持ち越しとなった。
 この法案は、国際紛争の再発を防止して世界の平和を維持しようという崇高な目的に向かって努力を続け、ノーベル平和賞まで受賞しているPKOに、日本が、遅ればせながら参加するためのものだ。日本が、世界平和のために国連を通じて人的協力をするのは、当然の責務でもある。
 今国会でPKO法案が成立することを重ねて強く求めたい。
 衆院国際平和協力特別委で同法案が可決された際、自民、公明両党による“強行採決”のような光景がみられたことは、極めて遺憾だ。だが、これは強行採決ではない。社会党などが、物理的な力によって、採決阻止を強行したために起きた現象だ。
 ろくに審議もせずに採決を強行したのなら批判は当然だが、実態はそうではない。PKO法案の審議は、前国会から継続してきたもので、公聴会も終えている。
 国民の大多数が認めている自衛隊の存在自体を「違憲」としたままの社会党と、合憲の立場の自民、公明両党の間では論議はかみ合わない。一定の審議時間が経過すれば、採決に移るのはやむを得ない。
 にもかかわらず法案の採決を阻止しようとするのは、力ずくの強行採決という形にもち込み、同法案が危険なものであるかのようなイメージを作り出すことによって、国民の反発や不安をあおろうとする意図的な戦術としか思えない。
 社会党の有力支持労組である全電通は、採決に先立ち、社会党に対し、廃案一本ヤリの姿勢を改め、現実的対応へ転換するよう要請したが、無視されてしまった。
 野党の中で、いち早くPKOの重要性に着目し、わが国の参加を推進してきた民社党が、最終段階で、自民、公明両党が法案修正の歩み寄りをしたにもかかわらず、同調しなかったことも残念だ。
 PKOへの協力を必要だと考える政党は、互いに歩み寄り、できるだけ多数の党の賛成によって、PKO法案を成立させることが望ましい。参院の審議では、こうした方向で、各党の努力を望みたい。
 同法案の中心は、自衛隊を海外に派遣し、PKOに参加させることだが、PKOが侵略行動でないことは明白だし、憲法が禁じているとされる集団的自衛権の行使につながるものでないことも、法案内容から明らかだ。むしろ、憲法違反という追及を避けるための配慮からか、法案内容には、慎重過ぎるぐらい慎重な姿勢がうかがえる。
 参院の審議では、派遣される自衛隊の訓練内容やそれに要する期間など具体的問題や、アジア諸国の理解を得るための外交活動のあり方などについても、論議を深めることが重要だ。
 こうした問題を、国会が冷静に論議することこそ、文民統制(シビリアン・コントロール)を強化することにつながる。物理的に抵抗するだけでは、国民多数の支持を得るのは困難だ。
 
 
 
 
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