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2004/06/15 毎日新聞朝刊
有事関連7法案:テロ対策、なお課題 国民保護の具体策焦点に−−参院で成立
 
 日本有事を想定した有事関連7法が14日、参院本会議で成立し、今後の焦点は国民保護法に基づく政府の「基本指針」策定や、地方自治体の「国民保護計画」作りなど具体作業に移る。ただ、武力事態よりも、現実味のある大規模テロなどへの対応は不十分であり、与党と民主党で合意した緊急事態基本法案の策定過程で首相の指揮権限などがなお課題となる。
 「市町村レベルで具体的な計画がまとまるのは2、3年もかかる」
 ある県の担当者はこう不満を漏らす。国民保護法は3カ月以内に施行する。次に、政府は地方自治体や民間機関などの意見を聞いたうえで、想定される武力攻撃事態の類型、警報の発令、避難の指示、被害者の救援などを定める「基本指針」を1年以内に策定する。武力攻撃事態の類型は地方自治体の避難計画策定に必要なため、政府は(1)危険施設への攻撃(2)大規模集客施設への攻撃――など四つの類型を例示、さらに体系的な類型を示す。実際に大規模テロが発生した場合、国が事態を速やかに把握し、国民の避難・誘導から救援活動まで、国と地方自治体がどの程度連携できるかは、政府の「基本指針」が策定され、都道府県、市町村の「国民保護計画」ができるまでは不透明な部分が多い。
 国は9月に放送・通信、電気・ガス、輸送など公共性の高い事業者を「指定公共機関」に指定し、有事の際に必要な「業務」を指示する。日本民間放送連盟は「報道の自由が制限される」と反発しているが、政府は指定公共機関の同意は必要ないため「民放の協力は必要」(井上喜一有事法制担当相)として指定する方向だ。
 緊急事態基本法案の骨子は、緊急事態を外国からの武力攻撃、大規模テロなど「国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態」と定義。首相権限について「緊急事態における迅速かつ的確な首相の意思決定を確保するため、閣議との関係を検討する」と記した。
 しかし、憲法は「行政権は内閣に属する」と規定しており、首相が緊急事態において、閣議の手続きを経ずに首相の判断で自衛隊や各省庁を指揮できるかどうかについては検討の必要がある。
【南恵太】
◇有事関連7法のポイント◇
●国民保護法 日本が武力攻撃を受けた際に住民を避難、救援する手続きなどを規定
●米軍支援法 日本への武力攻撃に自衛隊と共同対処する米軍への支援措置を規定
●外国軍用品海上輸送規制法 敵国への武器などの海上輸送を阻止するため海上自衛隊による臨検を可能にする
●国際人道法違反行為処罰法 重要文化財の破壊や捕虜の送還遅延などに罰則
●捕虜取扱法 戦時捕虜の人道的な取り扱いや捕虜収容所の設置などを規定
●特定公共施設利用法 自衛隊や米軍が港湾、飛行場、道路、電波などを優先利用できるよう規定
●改正自衛隊法 自衛隊から米軍への物品などの提供規定を整備
《有事関連3条約》
●改正日米物品役務相互提供協定 適用範囲を武力攻撃事態などに拡大し、弾薬の提供も可能に
●ジュネーブ条約第1追加議定書締結 国際的な武力紛争の際に文民を保護し、戦闘方法を規制
●ジュネーブ条約第2追加議定書締結 内戦の際に傷病者や医療要員を保護し、住民への攻撃を禁止
 
 
 
 
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