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2004/07/01 毎日新聞朝刊
[社説]自衛隊50年 「専守防衛」で国民の信頼得た
 
 自衛隊がきょう1日、発足から50年の節目を迎える。
 この半世紀で国際情勢は大きく変わった。ソ連が崩壊し冷戦時代は終わったが、民族や宗教による地域紛争が頻発し、国境を超えたテロとの戦いも始まっている。自衛隊は近代装備を着々と整備し、防衛費が約5兆円に上る世界でも有数の軍事組織となった。
 その自衛隊にとって今年は、転機の年である。
 四半世紀にわたって懸案だった有事法制が整備され、本来任務である国土防衛の法的整備に一区切りがついた。
 同時にミサイル防衛(MD)システムの整備が始まり、イラク派遣と多国籍軍参加という新たな任務が加わった。
 そうした変化に対応するため、政府は防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」の見直し作業に着手した。時代の変化に合わせた自衛隊の装備や編成の大胆な改革につながる。
 この50年で自衛隊に防衛出動の命令が出たことは、幸いにも一度もなかった。92年のカンボジアを皮切りに始まった国連平和維持活動(PKO)でも犠牲者はゼロだ。かつて「憲法違反だ」として冷たい視線を浴びたこともある自衛隊に対し、国民の8割が肯定的な印象を持つようになった。専守防衛に徹して平和が保たれ、災害派遣などを含めた平時の活動が認められるようになったからだ。
 しかし、テロ対策特別措置法やイラク復興特別措置法による自衛隊の海外派遣には、必ずしも国民的な合意が得られていない。多国籍軍参加に至っては、国会での議論もほとんど行われず、野党の強い反発を招いている。
 もちろん責任は政治にある。自衛隊の海外派遣や多国籍軍参加は最高指揮官である小泉純一郎首相が政治判断を下した。
 政策判断をする政治の側には、同時に国民に対する説明責任もあるはずだが、多国籍軍参加に関しては参院選を通じても与党が十分な説明をしたとは言い難い。
 シビリアンコントロール(文民統制)の本質は、国会による統制である。その国会を軽視した首相の責任は重大だ。
 現職自衛官は、民主主義教育を受けた世代である。国民の理解と信頼に支えられてこそ、国際的にも評価される仕事ができると実感しているはずだ。
 防衛計画の大綱を検討している政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」には、元陸幕長ら軍事のプロだけでなく、財界出身者や学者・研究者、元外交官など文民が多数参加している。
 懇談会が年末にまとめる大綱の素案には、国際軍事情勢や自衛隊の部隊のあり方が示されるが、装備の整備には将来の国の財政事情も色濃く反映されるという。
 転機に立つ自衛隊がより信頼される組織になるためには、透明性の確保が重要だ。新大綱が策定されたら、政府はそれを国会に示し、次の50年に堪えるだけの徹底した議論をすべきだ。
 
 
 
 
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