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2000/08/18 毎日新聞朝刊
[社説]視点 「情報戦」時代に向け、日本版RMAの研究を=仮野忠男
◇2000夏・体質改善
 防衛庁が、来年度から5年間の中期防衛力整備計画(次期防)の策定作業を進めている。
 次期防は、5年前に閣議決定された「防衛計画の大綱」に基づいて作られる。その内容は、平たく言えば「装備品などの向こう5年間の買い物計画書」である。
 すでに自衛隊内では、計画期間中に新型戦車を開発したい(陸)、イージス護衛艦をもっと増やしてほしい(海)、空中給油機を最低でも4機導入すべきだ(空)といった買い物希望リストが取りざたされている。
 東西冷戦時代、自衛隊はよく「正面ピカピカ、後方ボロボロ」と揶揄(やゆ)されたものだ。隊員作成の「たまに撃つ弾がないのがたまに傷」という川柳がはやったこともあった。正面装備の購入には熱心だが、情報を含む後方部門の整備は不十分という意味である。
 冷戦が終わってすでに11年。日露、日中関係は安定し、朝鮮半島も南北首脳会談実現後、緊張緩和に向かい始めた。こうして見ると、日本をすぐに攻撃してくるような国は周辺にはないことが分かる。
 国内に目を転じた場合、国の財政事情はひっ迫している。これまでのように防衛費を聖域扱いしていくことはどう見ても無理だ。
 にもかかわらず、次期防の策定に関する今の防衛庁・自衛隊内の論議は、相変わらず冷戦時代と同じ発想で、高価な装備をもっと買いそろえたいと言っているように見えてならない。
 ここは発想の転換が必要だ。どうするか。米国の「軍事における革命(RMA)」にならい、新しい情報技術(IT)を駆使した日本独自の専守防衛構想をまとめることだ。
 米国では湾岸戦争以降、ITの発達により軍事技術に大きな変化が起こりつつあるとしてRMAに関する研究が進んでいる。その変化は、弓矢に対する機関銃、白兵戦に対する戦車、通常兵器に対する核兵器の登場などに匹敵するほど劇的なものだ、との認識からだ。
 その結果として21世紀は情報戦(IW=インフォメーション・ウオーフェア)の時代になるだろうと分析されている。
 具体的には敵のコンピューター網にウイルスを忍び込ませ軍の指揮系統をまひさせるサイバー(電脳)戦を想定したり、小型コンピューターなどで“完全武装”した第一線の兵士がカブトムシ大でコンピューター制御の攻撃用飛行体を使って相手陣地を無力化したり、といった手法の研究、装備の開発が行われている。
 RMAが進んだ場合のメリットとして、軍組織のスリム化が挙げられる。指揮官と一線の隊員とがコンピューター網でつながっていれば、情報伝達や指令をストレートに行うことが出来、そうなれば中間の人員を減らせるというわけだ。既存の戦車や戦闘機さえ使い物にならなくなるかもしれない。
 翻って日本はどうか。やっとIT担当参事官室が防衛庁内局に置かれた程度で、全体としての取り組みは遅れている。防衛庁自体がデジタル・デバイド(情報格差)状態では困る。
 「大綱」の目標である自衛隊の効率化、コンパクト化を進めるためにも日本版RMA研究を急がなければならない。
 
 
 
 
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