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1997/06/13 毎日新聞朝刊
[徹底解説ガイドライン]/4 民間港湾・空港の使用 周辺住民の合意形成が必要
 
 1991年1月、湾岸危機は戦争へと突入した。直後から那覇市の駐留米軍那覇軍港の岸壁は、迷彩色のトラックや四輪駆動車、特殊車両で埋まった。おびただしい数の車両はコンテナ船に次々積み込まれ、戦火の中東地域へ。普段、閑散とした港は一変し、慌ただしさに包まれた。
 那覇軍港への入港船はこの年40隻を超え、平年の約3倍を数えた。那覇市平和と国際交流室の宮里千里室長は「あるだけの物資を全部持ってきた感じ」と振り返り、有事における米軍の豊富な物資供給力に驚きを隠さない。
 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」見直しの中間報告は、日本周辺有事の際の米軍による民間港湾・空港の使用、運用時間延長などを挙げている。米国は、戦時には中継基地となる日本に物資を積んだ輸送機や艦船が頻繁に発着すると想定するが、大量集積する物資を保管するためには、現在の米軍施設だけでは不十分と判断。自衛隊施設に加え、民間港湾・空港の使用を強く求めている。
 米軍への新たな施設提供について政府は「日米地位協定2条4項Bの規定により、日米合同委員会で合意すれば可能」(外務省筋)としており、手続き面の問題は少ないとみる。
 しかし、実際に民間港湾・空港を使うとなれば、周辺住民の合意形成も事実上求められる。地方自治体の経験も長い運輸官僚は「有事を念頭に、通常でも港湾や空港での米軍の一時利用が増える可能性があり、軍事基地化への住民の不安が広がるのでは」との見方を示す。
 政府は、港湾・空港の管理者である自治体首長に有事利用の同意を得なければならないが、住民の反対が強ければ容易には首長も首を縦には振れない。
 さらに米軍機の発着が増えると、民間機の減便に伴う補償問題が派生。物資積み下ろしにかかわる要員の確保など、政府内でも「解決が難しい実態面の課題が山積する」(外務省幹部)との弱気な声も漏れる。
 一方で、「一時使用」という形の民間施設の軍事利用は着々と進む。昨年の米軍機による民間空港使用は1048回と、前年を122回上回った。 =つづく
 
 
 
 
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