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1997/06/12 毎日新聞朝刊
[徹底解説ガイドライン]/3 臨検活動 「経済制裁」の解釈が問題
 
 1993年末から、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発疑惑をめぐる経済制裁の動きが、日本政府を大きく揺さぶった。
 日本に制裁参加を求める空気が米国で日増しに強まる中、ウォールストリート・ジャーナル紙は94年1月、経済制裁の際に「米軍と海上自衛隊による海上封鎖が必要」との論文を掲載した。日本政府も国連安保理が経済制裁に踏み切れば、同調せざるを得ないと判断していたが、対応に最も苦慮したのが船舶に対する臨検活動だった――。
 米国は今なお、朝鮮半島有事の可能性を排除していない。今回、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」見直しの中間報告に臨検が盛り込まれた背景に、核開発疑惑での「苦い経験」が念頭にあったのは言うまでもない。
 臨検活動は、定められた水域を航行する民間船などに停船を求めて行う検査。武器や食糧、油などの禁輸品を積載していた場合は、行き先の変更を求めるほか、指示に従わない船舶に警告射撃することもあり、現実の対応は各国の判断にゆだねられている。
 臨検自体は日本でも日常的に海上保安庁が領海内で実施しているが、中間報告に挙げた臨検では海上自衛隊の参加も検討している。外務省は10日の衆院安保委で「国連安保理決議に基づく経済制裁を想定している」(川島裕総合外交政策局長)と説明した。決議に伴う経済制裁は過去、湾岸危機での対イラクなどがあるが、政府がどのような状況下の臨検参加を想定しているかは明確ではない。
 今後の焦点は、国連安保理決議による経済制裁を「武力行使」と解釈するかにある。さらに参加形式も、船舶の位置を伝える情報交換から停船命令、強制的な検査まで態様に濃淡があり、グレーの線引きは一層複雑になる。
 防衛庁筋は「検査の対象は民間船であり、武器を使用するケースは現実には少ない。武力行使というより国際警察権のようなものだ」と説明する。しかし、不審船の位置情報をもとに米軍が攻撃を加えれば「武力行使との一体化」とみなされる可能性もある。=つづく
 
 
 
 
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