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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/12/10 毎日新聞朝刊
[記者の目]冷戦後の日米防衛協力 自衛隊への期待と警戒
◇「共同で海外に」求める米国
 自衛隊と米軍の関係は、どうなるのだろう。十一月、北海道周辺で行われた「日米共同統合実動演習」を取材し、手がかりを探した。わが国は米国との同盟を「安全保障体制」の根幹としている。しかし、双方に「少しのすき間もなし」は難しくなっている。日米共通の「脅威」だったソ連は崩壊、何よりも日本に防衛力の増強を求めてきた米国から、在日米軍の役割は自衛隊の増大を抑える「瓶のふた」に変わったとの「論」さえ聞こえてくる時代になった。
 今回の演習には陸・海・空の各自衛隊と、陸・海・空・海兵隊の米四軍の計一万四千人が参加。一九八六年に次いで二回目。
 日米の「安全保障体制」を振り返ると、「日米防衛協力の指針」が結ばれた七八年が、転向点になっている。防衛白書によると、日米共同訓練(演習)は陸・海・空別の方がはるかに多い。七八年から現在まで陸上自衛隊が五十九回、航空が百五十四回、海上は環太平洋合同演習も含め八十七回に上る。
 七八年以前は、海自と米海軍だけの訓練しかなかった。それまでは「日本自体への切迫した脅威はない」と米側は判断していたといえる。
 日米共同訓練が本格化した背景には米ソ対立の緊張があった。ソ連は欧州だけでなく、極東軍も増強、特にウラジオストクを本拠とする太平洋艦隊が日本海から太平洋へと活動を広げていた。
 「ランドパワー(ソ連)とシーパワー(米国)のグローバルな対決」(ワインバーガー米元国防長官演説)を迎え、米国はシーレーン防衛を掲げて日本に対潜水艦戦と防空戦の能力の増強を要求した。有事には日米の「海・空」部隊によって宗谷・津軽・対馬の三海峡を封鎖し、ソ連海軍の動きを封じ込めて撃滅するという戦略構想だ。
 日本側も呼応した。「日本列島を『不沈空母』に」という中曽根元首相の発言(八三年)が端的にそれを物語っていた。共同訓練の目的は「日米共同の抑止体制の誇示」にあり、日本はソ連の脅威に対抗する米国の前線拠点となった。自衛隊の役割は「米軍の日本における補完勢力」と両者の関係は明快だった。
 だが、冷戦は終わった。
 その途端の九〇年三月、スタックポール在沖縄米海兵隊司令官から飛び出したのが「在日米軍は日本の軍事大国化を抑える『瓶のふた』だ」の発言。瓶の中身の自衛隊が「米国のコントロールを離れて」あふれ出ないように米軍がふたをする、というのだ。
 これは、一米軍人の個人的見解だったのだろうか。
 来年一月、米国にはクリントン民主党政権が登場する。民主党系といわれる米有力シンクタンク「ランド・コーポレーション」が今年九月公表した米国防総省向け報告書は、こう言う。「今後、アジア地域の諸国から見て最も中心的関心は日本の軍事力の推移であり、日本の再武装化(自衛隊の増強)を阻止できるのは米軍のプレゼンス(存在、前方配備)のみである」。これは「瓶のふた」を言い換えただけではないか。
 今回の統合演習でも「ロシアを考えて」と、自衛隊と米軍の幹部は口をそろえた。素直に受け取れば、これまでの演習・訓練と「シナリオ」は変わっていない。
 しかし、自衛隊の幹部は「瓶のふた」論の影響を気にしていた。「彼ら(米軍人)が米国に帰ってから『自衛隊にはいいやつがいるから日本を守ってやろう』と言ってもらうことが今は一番大事」と答えた。別の幹部は「“ふた発言”は米側の本音」としたうえで、「といって仲たがいはできない。今の自衛隊だけで日本は守れないから」と声をおとした。
 日本の安全保障体制は「まず米軍あり、そして自衛隊」であった。「今後、新たな国際秩序の形成に向けて、いろいろな議論が起こるであろうが、わが国はこの日米安保体制の維持を国政の基本としていくべきである」(今年度防衛白書)とソ連崩壊後も変わっていない。だが米国の姿勢が変わった今、「共同訓練を通じて制服同士(米軍人と自衛官)の友情を高め合えば日米安保は何とか大丈夫」(防衛庁幹部)には、疑問を感じる。
 今春、防衛庁内で日米防衛協力に長くかかわってきた知日派のJ・アワー元国防総省日本部長の論文(中央公論七月号)が注目された。米国からみて「控えめな日本の防衛力」を前提にし、冷戦後の防衛協力は「日本が日米安保条約の傘の下で防衛行動の範囲を(海外まで)拡大するなら、米国と大半のアジア諸国から好ましい動きと歓迎されるに違いない」という。そうしないと「短期的には日米安全保障関係の廃棄には必ずしもつながらないが、米国内で日米安保条約の支持が弱まることはあり得る」とまで主張している。
 これは「日本周辺での共同防衛」から「冷戦後の米国による世界新秩序の形成に、日本は米軍と行動をともにし、自衛隊の海外派遣に協力せよ」という要求だ。
 「これが米国の本音では」。私の問いに防衛庁幹部の何人かは、ためらいながら、うなずいた。米国が日米共同訓練のシナリオを、「対露」から「対露」プラス「米軍と共同しての海外での行動」へと書き直すことを求める日は、そう遠くなさそうだ。
 米国が求める防衛行動の拡大にどこまで応じ、あるいは拒むのか。日本のカジ取りは冷戦期より、はるかに難しい時代を迎えている。
<長江一平・社会部>
 
 
 
 
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