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2003/07/12 読売新聞朝刊
都教員異動短縮 校長に人事権を実質委譲、特色ある学校作りの推進図る(解説)
 
 東京都教育委員会は、公立学校で校長を中心とした学校運営を後押しするため、教員の異動サイクルを大幅に短縮した。(社会部・赤池泰斗)
 「これで欲しい人材を集めやすくなった」。都内のある公立学校長のこの言葉が、今回の異動基準の見直しの意義を如実に映し出している。
 最大のポイントとされるのは、校長の「具申」などがあれば、勤務年数が三年未満であっても、異動の対象とすることが認められたことだ。これにより校長の権限が拡大し、全国的な問題となっている指導力不足などの「問題教員」を、一年であっても異動させることも可能になった。
 新基準は来春の定期異動から適用され、小中高とも、同一校に三年以上の教員は一律、異動の対象となり、六年に達すれば必ず異動させることが原則となる。現行は八年が原則で、大阪や愛知、神奈川など都市部を抱える各府県教委でも、異動対象者は七―十年。都教委の見直しが、いかに大幅短縮かを示している。
 そもそも、都道府県教委が行う教員の人事異動では、これまでも校長が意見を申し出ることはできたが、三、四年で異動する各校長が思い描く人事を実現するのは不可能だった。「問題教員」を本人の希望なしに異動させることもできず、父母との板挟みになる校長も珍しくない。
 これに対し新基準は、「校長の人事構想に基づくきめ細かな異動」が基本で、「校長の具申」を異動原則と位置づけることで、人事権を事実上、校長に委譲した。
 「同じ教員でも、力が発揮できる学校もあれば、そうでない学校もあるはず。適材適所の人事配置が進むのではないか」。都中学校長会の鈴木憲治会長は期待する。
 都教育庁は、今回の見直しについて、「これまでは人事の不均衡を無くし、平等に人材を配置することが目的だったが、見直しでは『特色ある学校作りの推進』を主眼に置いた」と説明する。このため、校長が必要とした場合、勤務年数が六年以上でも留任可能とする措置も盛り込んだ。
 昨年度、都教委が指導力不足と認定した教員は三十一人。このうち三人を「不適切」として初めて行政職への転職を求めた。今後は、こうした「問題教員」がさらに顕在化する可能性がある。都教育庁は「たらい回しになるようなことは避けたい」とするが、教員の処遇や研修方法などの充実が求められる。
 一方で、実際に子供を通わす父母からは、新しい制度への注文や不安も出ている。
 都小学校PTA協議会の阿部貴明会長は、「様々な現場で経験を積み、プロの教員に育ってもらいたいが、果たして人事を行うだけの資質が校長にあるのかどうか、都教委はしっかりチェックして欲しい」とクギを刺す。世田谷区立小学校PTA連合協議会の新谷珠恵会長も「校長がイエスマンばかり集めて、地域の学校からいい先生がいなくなっては困る」と話す。
 都教委の委員の中からも、校長が恣意(しい)的に異動を行う心配の声も上がったが、都教育庁は「校長には責任の重さを十分に自覚してもらい、保護者や地元教委と情報交換も密にして、そのようなことがないよう努めたい」という。
 教育への信頼回復を目指す都の学校改革。その真価が問われる基準見直しだけに、慎重な運用が求められる。

 
 
 
 
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