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2000/04/12 産経新聞朝刊
座談会「教育憲法を考える」 西部氏の教育基本法改革私案
西部邁(評論家)
 
【前文】われらが理想とするのは、日本の歴史にもとづく文化の価値と社会の規範とが尊重され、そしてそれらが現実の状況における経済の効率と政治の独立の達成に活かされるような、国民の生活であり国家の制度である。この理想の実現は、根本において、国民への教育に俟つべきものである。われらの目指す教育にあっては、国民一人びとりが正義を信じ、真理を望み、美を愛するような個性を身につけるのを助けるべく、国際社会と地域社会との両面のかかわりのなかで形成されてきた日本国民の歴史とそこにおける伝統の精神が尊ばれ、さらにその精神に立脚する個人の自主的な人格が重んじられる。
 ここに、日本国の歴史の英知に則り、またその英知を明文化したものとしての新日本国憲法の規範に従いつつ、教育の目的と制度にかんする基本を提示して、日本国の歴史の連続的な発展を促すために、この法律を制定する。
 
【第一条(教育の目的)】教育によって国民一人びとりの精神を培うに当たって期されなければならないのは、公私にわたる自己の活動にあって、健全な集団の規律と集団への帰属心を守るとともに健康な個人の人格と個人への自愛心を表しうる能力であり、さらにそれらの活動のあいだの葛藤を解決するために社会の価値および規範の意義を的確に理解しうる能力である。
 
【第二条(教育の方針)】教育の目的は、国民一人びとりの生涯にわたって、家庭、学校、職場、地域共同体、議会などの場所において追求されなければならない。またこの理想の実現のためには現実的な諸条件への配慮が要請されるのであって、そのためには国民が各人の日常生活、学問生活および政治生活の全域において、自由と秩序、平等と格差および博愛と競合それぞれのあいだの平衡の知恵としての文化を、維持し発展させるよう努めなければならない。
 
【第三条(教育の機会均等)】(1)すべての国民はその能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、宗教的および政治的な信条、性別、社会的身分、経済的地位および家柄による教育上の差別は、いかなる個人および集団の努力によっても除去できない能力差にもとづく差別である場合を別として、認められない。(2)中央政府、地方政府および民間諸団体は、能力を発揮しているにもかかわらず、またその強い可能性があるにもかかわらず経済的その他の社会的格差のゆえに就学困難な者に対しては、財政その他の事情の許すかぎりにおいて奨学の方法を講じるよう努めなければならない。
 
【第四条(義務教育)】国民は、その養育し保護する子弟に、その子弟が生得的および変更不能な環境条件による理由のために当該の教育を受ける能力を欠いている場合を除き、…年の普通教育を受けさせる義務を負い、また政府はその国民の義務遂行を監視し扶助する責任を負う。
 
【第五条(男女共学)、第六条(学校教育)、第七条(社会教育)は略】
 
【第八条(政治教育)】(1)公民たる国民は、国の歴史にもとづくものとしての良識を習得すべきものとして、政治的、経済的、社会的および文化的な教養を尊重しなければならない。(2)政府の補助を受ける学校は、特定の政党への支持および反対することを公然の目的とするような積極的な政治教育をしてはならない。
 
【第九条(宗教教育)】文化的教養にかんする教育にあって、国民による公私両面の活動において宗教および道徳の占める役割については、これらの教義や徳目にかんする寛容の態度を持しつつ、尊重しなければならない。
 
【第十条(教育行政)は略】
◇西部 邁(にしべ すすむ)
1939年生まれ。
東京大学経済学部卒業。
東京大学教授を経て、現在、秀明大学教授。評論家。


 
 
 
 
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