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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/08/29 産経新聞朝刊
【正論】慶應義塾大学教授 榊原英資 「社会主義教育行政」を改めよ
 
◆文部省路線に異議あり
 京都大学の西村和雄教授、精神科医の和田秀樹氏等によって、二〇〇二年からの新指導要領の中止を求める国民会議が組織され、署名運動が展開されている。筆者もこの運動を全面的に支持し、多くの読者にこれに参加することを要請したい。
 というのは、この運動は従来から文部省が中央教育審議会等を使って展開してきた教育「改革」の中止と逆転を求めるもので、日本の教育界にとって歴史的意味をもつものだと考えられるからだ。今年の三月末から、新たな教育改革国民会議が開催されているが、あい変わらず事務局は文部省で、メンバーにはかつての中教審委員が多く含まれている。活発な議論が行われているようだが、要は、国民会議が既存の文部省路線を逆転できるかどうかで、何度かガス抜きをされた上で、「改革」を部分修正して容認するようならば、教育改悪のトレンドに再びイエスの解答を示すにすぎないことになってしまうだろう。
 問題は、この十数年、いや、戦後五十年を通じて、文部省が推進してきた教育行政が基本的にまちがったものであるということである。別に、筆者はイデオロギー的に判断を下しているのではない。結果として、文部省が最も力を入れてきた初等中等段階の公的教育の質が傾向として大きく低下してきたのは事実であり、まさに、和田氏が「学力崩壊」と呼ぶような現象が急速に進展してきたことは誰しもが認めざるをえなくなってきている。
 
◆平等主義と競争の否定
 筆者は、これは、文部省が悪しき平等主義を原則に、「社会主義的」教育行政を進めてきた結果だと考えている。文部省の寺脇研政策課長は、「競争の時代は終わった」と次のようにのべている。
 「…競争を勝ち抜くことを目標とした二十世紀的考え方は終わり、二十一世紀は共生の時代へと変わっていくのです。…勉強のできる子だけがすばらしいのではありません。学校の試験であまり点数がとれなくても他の面ですばらしいところがあり、その力を地球のために、それぞれ発揮していくという時代になっていきます。」(寺脇研、「二十一世紀 教育は変わる」)
 寺脇氏と文部省はこの平等主義哲学と競争の否定の理念にもとづき、業者テストを廃止、偏差値を学校から追放し、カリキュラム削減を行ってきたのだ。寺脇氏らは、こうした「改革」によって、「共生のための差別廃止」が一歩進んだと考えているようなのだが、競争を廃し、能力を客観的に評価する基準を追放することによって、内申書や進路指導等を通じての教師達の恣意的(しいてき)権力を圧倒的に増加させ、教師と生徒の関係を典型的権力関係にかえてしまったのだ。
 多くの良心的教師は決して生徒に対して権力者になろうとは思っていないだろう。しかし、多くの子供たちが権力者としての教師を嫌うようになってきたとしても不思議ではない。登校拒否の理由で最も多いのは「いじめ」のような同級生とのトラブルではなく「先生嫌い」だそうである(高嶋哲夫、小篠弘志「塾を学校に」)。権力者や官僚としての教師ではなく、教えるプロとしての教師の育成に、文部省や教育委員会はもっとエネルギーを使うべきであろう。
 
◆巨大過ぎる文部省権限
 平等主義の建前を前面にだしつつ、恣意的権力を増大させ、あげくのはてに、権力にいためつけられたものからの反乱に遭って、システムが崩壊する…。どこかできいたようなストーリーである。そう、共産主義体制の一九八九年以来の瓦解(がかい)と、日本の公立学校のそれはかなりの類似点をもつ。当然である。
 戦後日本の教育行政は、建前のうえでの自由と平等を、厳しい中央からの規制と恣意的権力の行使によって実現しようとした社会主義行政だったのだから。しかも、それは、日教組が社会主義イデオロギーを奉じていたということだけから生じたものではない。一見対立しているかに見える日教組と文部省の二人三脚でもたらされた社会主義教育行政が日本の公的教育と、子供達の学力を崩壊させつつあるのだ。
 事実、日本ほど教育に関する規制が厳しい国は世界に余りない。ちなみに、学校教育法第二条は「学校は国、地方公共団体及び私立学校法第三条に規定する学校法人のみがこれを設置できる」としている。そして、私立学校法において、所轄庁(つまり文部省)が私立学校の設置廃止、大学の学部、学科、大学院と大学院の研究科の設置廃止等の広範な権限をもつことが規定されている(同法第五条)。つまり、我が教育法体系にあっては、文部省の許可なしにおよそ学校というものは設立できないことになっているのである。
 学校設立についてある種のルールなり基準が必要だと論じることは出来るかもしれないが、これだけ巨大な設置・廃止についての権限を文部省に与える必要があるのだろうか。これこそが日本の教育をめぐる、まず最初に論じられなくてはならない点であろう。我々は、悪平等主義にもとづく文部省の社会主義教育行政を改革して、はじめて日本の教育をまともなものに戻せるのではないだろうか。(さかきばら えいすけ)
◇榊原 英資(さかきばら えいすけ)
1941年生まれ。
東京大学大学院、ミシガン大大学院修了。経済学博士(ミシガン大学)。
大蔵省入省後、国際金融局長、財務官を経て退官、現在、読売新聞調査研究本部客員研究員、慶応義塾大学教授、慶応義塾大学グローバル・セキュリティ・リサーチ・センター(GSEC)ディレクター。


 
 
 
 
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