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2003/10/17 産経新聞朝刊
【社説検証】(下)教育基本法 解説
 
■「愛国心」めぐり差異/産・読強く改正主張、朝・毎と対立
 教育基本法改正をめぐる論議は平成十二年三月に発足した故小渕恵三・元首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」で始まり、改正の方向性が示された。十三年十一月から、文部科学省の中央教育審議会で具体的な論議が行われ、今年三月、国を愛する心や家庭教育重視などの導入を求める答申をまとめた。
 産経は国民会議の発足前から、「見直しには先人の知恵も」(12年2月20日)と教育基本法改正を訴えた。国民会議発足後も、「改正へ首相が先頭に立て」(同年9月10日)、「まず戦後教育の負の反省を」(13年1月8日)などと繰り返し改正論を主張した。
 主な論拠として、現行の教育基本法が「人格の完成」「機会均等」など世界共通の普遍的な教育理念をうたっているものの、肝心の日本人としてのありようや道徳規範が欠落していることを挙げた。また、GHQ(連合国軍総司令部)の干渉を受けた現行法に基づく戦後教育を批判したうえで、現行法にない愛国心や家族愛、伝統文化の尊重などの大切さを強調し、これらの理念が盛り込まれた中教審答申を大筋で評価した。
 読売は当初、基本法改正に今ほど積極的ではなく、「法律を時代にあった形に適宜変えて行くのはあまりに当然のことだ」(12年7月28日)、「一部死文化している法律を、これからの時代に有用な、使い勝手の良いものに改める。それをはばかる理由などない」(同年12月23日)という社説にとどまっていた。
 しかし、中教審が教育基本法改正を求める中間報告を出した昨秋以降、積極的な改正論を展開し、「戦後思潮のゆがみ」を正すためにも、国を愛する心などを盛り込んだ基本法改正案の提出を急ぐべきだとした。
 これに対し、朝日は国民会議での議論の段階から、「基本法をあげつらうより」(12年7月28日)、「なんのための改正か」(同年12月14日)と改正論を批判した。毎日も「結局初めに改正ありきだ」(同年12月23日)と改正を疑問視した。中教審の中間報告の後も、朝日と毎日は改正に反対する姿勢を一段と強めている。
 朝日は、伝統や文化の尊重、郷土や国を愛する心を否定はしないが、そうした理念を法律にあえて書き込む必要はないとしている。基本法の文章をいじっても、いじめや学級崩壊などの教育問題を解決するための有効な処方箋にはならないという理由からだ。改正論で「日本人」や「心」が強調されていることにも警戒している。
 毎日も朝日とほぼ同じ論調で、愛国心が偏狭なナショナリズムや拝外主義に転じることを心配している。
 中教審答申後、改正論議は与党協議に移されたが、公明党が今国会での改正案提出に抵抗し、次期通常国会に持ち越された。産経と読売は、この公明党の姿勢にも批判を加え、早期改正を求めた。
 現在は、教育基本法改正を強く主張する産経・読売と、それに反対する朝日・毎日の論調が真っ向から対立している。(石川水穂)


 
 
 
 
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