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2002/07/31 産経新聞朝刊
【主張】奉仕活動 戦後教育の甘さを正そう
 
 中央教育審議会は、児童生徒の奉仕活動を単位認定し、入試の評価対象にもすることを求める答申をまとめた。子供たちの社会参加を促し、公共心をはぐくむ有力な方策である。学校に限らず、家庭でも積極的に推進してほしい。
 奉仕活動の導入は、二年前に開かれた首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」で、委員の作家、曽野綾子さんが「子供に与える喜びも教える必要がある」として提起したものだ。その後、中教審に移して検討が重ねられてきた。事実上の義務化を求めた国民会議の報告に比べると、若干後退した感もあるが、ともかく今回の中教審答申で奉仕活動が学校教育の中に位置づけられたことを評価したい。
 子供たちが奉仕活動に従事することの最大の利点は、社会のルールや規範意識を体で覚えられることである。それは、すでに奉仕活動を取り入れている学校の実践例が証明している。
 さいたま市立大宮小の児童は二十年以上にわたり、大宮駅前の清掃奉仕に取り組んでいる。学校側は「ものを捨てることに慣れている現代っ子に、言葉でゴミ問題を説明してもピンとこないが、実際に体を動かす中で、たばこの吸い殻一つ落ちていても、反応するようになる」と意義を説明する。
 兵庫県の中学校では、「トライやる・ウイーク」という地域体験学習が行われているが、その結果、遅刻や不登校が減ったという。富山県や千葉県などの学校でも、同じような奉仕・体験活動が行われ、病院実習などを通じ、高齢者をいたわる気持ちや礼儀正しさを自然に身につけている。これから奉仕活動を導入する学校は、こうした先行例も参考にしてもらいたい。
 家庭では、トイレの掃除や食事の後片づけなどを子供に分担させ、身近なところで奉仕活動を習慣づけていく必要がある。近所づきあいの中で、回覧板の配布や排水路の清掃、公園の草取りなどの仕事が回ってきたとき、子供を参加させることも大切だろう。
 戦後日本の教育は個人主義や権利思想が強調されてきた半面、社会貢献の意義がなおざりにされてきた面がある。それが、今の子供たちの自己中心的な傾向にもつながっている。奉仕活動の導入は、そうした戦後教育の行き過ぎを正すことにもなろう。


 
 
 
 
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