日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/10/04 産経新聞朝刊
【一筆多論】論説委員 石川水穂 後退した学校自由化論
 
 公立の小中学校にも一定の競争原理を導入しようという学校自由化論は、いまだに結論の出ない難問である。
 先月末、教育行政の規制緩和について答申を出した中央教育審議会(中教審)でも、通学区域の弾力化をめぐってこんな論議が交わされた。
 「学校の自主性を確立するためにも、中教審として積極的に対応すべきだ」
 「さまざまな意見があり、もっと慎重に議論していく必要がある」
 結局、後者の慎重論が大勢を占め、答申では、次のような表現にとどまった。
 《小中学校の通学区域の設定や就学する学校の指定に当たっては、学校選択の機会を拡大していく観点から、保護者や地域住民の意向に十分配慮し、教育の機会均等に留意しつつ地域の実情に即した弾力的運用に努めること》
 これは、従来も認められている学校教育法施行令第八条に基づく保護者の“異議申し立て権”を改めて確認したものに過ぎない。
 しかし、今年三月のマスコミに対する説明では、文部省側は教育改革の柱の一つに「個性を伸ばし多様な選択ができる学校制度の実現」を掲げ、町村信孝文相(当時)は「どの学校も生徒数が均等では困る。それぞれが特色ある学校づくりに努力した結果、生徒数に差がついてもやむを得ない。文部省はルビコン川を渡った」とも語っていた。
 その考え方が後退した背景について、「あれは町村さんの持論で、省内では多数意見ではなかった。大臣が代わり、議論も尻すぼみになった」と中教審関係者は話す。
 学校自由化をめぐっては、昭和五十九年から六十年にかけて、臨時教育審議会(臨教審)でも、激しい議論が闘わされた。
 当時、自由化論の急先鋒は第一部会長代理の香山健一氏(学習院大教授)だった。中曽根康弘首相のブレーンといわれた香山氏は(1)教育行政分野の許認可、各種規制の見直し(2)教育分野への民間活力の導入(3)学校の民営化(4)学校選択の自由の拡大と競争メカニズムの導入−などを提言。
 これに対し、第三部会長の有田一寿氏(クラウンレコード会長)らは「利益追求のために学校をつくり、赤字になれば廃校となったら、子供はどうなるか」「学校選択を自由にすれば、伝統校などに入学希望者が集まり、行政的対応が不可能になる」などと強く反対した。
 文部省をはじめ、校長会や日教組など、これまで対立を続けてきた各種教育団体も、このときばかりは学校自由化反対へ足並みをそろえた。
 香山氏が「文部省は専門ばか」「教育改革は文部省改革を避けて通れなくなる」と言えば、有田氏が「満身創痍になっても、切り死に覚悟で自由化を阻止してみせる」と反論するなど、感情的な対立にもなった。結局、臨教審では、「自由化」を「個性化」「個性主義」と言い換えるようになり、答申でも「個性重視」という言葉が使われた。
 今回の中教審も、臨教審ほど激論はなかったものの、学校選択の幅を拡大しようという自由化論は、教育委員会や学校側を代表する委員らの圧倒的な反対によって、つぶされたかっこうだ。
 だが、一部の自治体では、学校選択の自由化の試みが始まっている。札幌市は昭和五十二年から、過疎化対策の一環として、小規模特認校制度を全国に先駆けてスタートさせた。
 生徒数が減少の一途をたどる地域の小中学校に限って、就学区域の制限を撤廃、通学区域外からも生徒を募集できる制度だ。(1)小学校低学年で片道四十分以内、同高学年で六十分以内(2)保護者の自家用車での送迎は原則として認めない−を条件としている。
 現在、特認校は小学校四校、中学校一校の計五校。各校が豊かな自然を生かした体験学習などで特色を出し合い、親はその特色を比較した上で、子供に行かせたい学校を選ぶことができる。
 例えば、盤渓小はスキー学習や山登り、有明小は吹奏楽や学級農園、駒岡小は学校林のアスレチック冒険コーナーや野鳥の観察が特徴だ。各校とも通学区域外から数十人−百人規模の生徒が学び、うち四校はその数が地元の生徒数より多い。
 通学区域の弾力的運用では、こんな事例もある。
 青森県黒石市内の中学校で平成五年、二年生の男子生徒が二学期から登校しなくなった。番長らから使い走りをさせられ、金を貸しても返してもらえないなどのいじめが原因だった。母親は市の教育委員会に相談、市教委は希望をいれ、郊外の中学校への転校を認めた。転校後、その子は再び学校へ通うようになり、高校にも進学したという。
 同じような悩みを抱える子供や親は多いはずだ。が、学校から救いの手をさしのべることは、まずない。親がよほど強い信念をもって校長や教育委員会に救済を訴えない限り、行政側も転校を認めない。いじめや校内暴力にも、多くの子供たちは我慢するしかないのが現状である。
 今回の中教審答申は国や地方自治体の規制を緩和し、教える側の自由を大幅に拡大したが、教えられる側の自由はほとんど認めていない。せめて、通学可能な範囲での学校選択の自由くらいは認めるべきではなかったか。学校や先生は、生徒や親からも少しは評価されないと、進歩しないのである。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
11位
(29,244成果物中)

成果物アクセス数
496,637

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年12月9日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【憲法改正について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から