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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/02/24 産経新聞夕刊
【日刊じゅく〜る】460号 エリート教育のすすめ(上)
 
◇21世紀の日本を支える人材とは
 「今の教育のままでは、日本は世界のリーダーにはなれないし、科学技術の分野でも世界のトップには立てない。いや、逆に“三流国”に転落するだけだ」
 厳しい口調で、こう警告を発したのは、名古屋大学多元数理学研究科の四方義啓(しかた・よしひろ)教授。
 名古屋大は平成六年度に文部省の「教育上の例外措置に関するパイロット事業」の調査研究協力校に指定され、数学の分野で特に優れた才能を持つ高校生を迎え入れている。四方教授はその担当教授の一人。
 今年度も、高校で教わる数学では飽きたらない高校生が十三人集まった。彼らは大学の講義に潜り込むこともあるが、「目の輝きが違う」という。
 しかし、こういった“場”に巡り合える高校生はほんの一握りに過ぎない。多くは、今の日本の教育システムの中で埋もれてしまっている。
 四方教授は「数学が好き、勉強が好き、ものを創造するのが好きという子どもたちは、『自分が一生懸命になれる場』を求めているのに、今まで学校はそれにこたえてこなかった。横並び意識が、先に伸びようとしている子の足を引っ張り、意欲、能力、創造性を備えた子どもたちの芽を、教育がつぶし、社会がつぶしてきた」と、平等主義を前提とする戦後の画一的教育の問題点を指摘した。
 「才能の芽を摘む教育」の“結果”は、例えばノーベル賞受賞者の数に見ることができる。科学技術庁の調べによると、平成六年度(一九九四年度)の日本の研究費は政府、民間合わせて総額約十三兆六千億円で、米国の約三十兆六千億円(購買力平価換算値)に次ぐ世界第二位。そのうち、日本では九割以上が自然科学系の研究に費やされているが、日本人の自然科学系のノーベル賞受賞者数は世界で十三位(表参照)と低い。
 ノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈・筑波大学学長は言う。
 「日本の研究者の創造性の平均値は、欧米先進国に比べてかなり劣っているのではないか。そのため、個人の創造性が決定的な役割を演じる基礎研究が日本は弱い。このことが、ノーベル賞受賞者の少なさにつながっている。基礎研究に対する日本人の貢献度は非常に低く、しかも欧米との差は大きすぎる」
 こういった現状を踏まえ、江崎学長は「基礎研究の遅れを取り戻す一つの方法は、タレント(才能)のある人材を発掘し、育てる教育が必要」と、「真のエリート教育」の必要性を説く。
 「アメリカの統計だが、数学や理科などに恵まれた才能を持っている人が全人口の〇・五%ぐらいいるといわれている。人間には生まれながらにして才能がある人がいる。違った能力を持っている人たちを同じように教育することが、はたして平等だろうか。能力や適性に応じた教育をすることの方が平等ではないか。本人にとっても、社会にとってもその方がプラスになる」
 言葉の節々に、「自らの後」を担う人材が育ってほしい、という願望がうかがえる。
 
 「政治は三流」と言われる日本が戦後発展してきたのは、官僚主導によるところが大きい。とりわけ、その中心になったのは、政策立案に関与する霞が関のキャリア官僚たちだ。
 しかし、ここ数年、キャリア官僚の不祥事が相次いでいる(表参照)。倫理観を失った官僚への国民の不信感はピークに達していると言っても過言ではないだろう。
 
◆使命感も責任感もない閣僚
 一体、官僚に何が起きているのか。「今の官僚には使命感も責任感もない、ただ偏差値が良かっただけの人が“長”になっているだけで、『真のエリート』といえるリーダーがいない。戦後、真のエリートを養成する教育を否定してきたためではないか」。こう語ったのは、京都大学の会田雄次名誉教授。実際、「偏差値がとりわけいい人が集まる大学」の卒業生から、こんな言葉を聞いた。
 「同級生の中に『とくにやりたいこともないので、おれ、官僚になるよ』と言っていた人がいました」
 “告発”の主は白井智子さん(二四)。彼女は東大法学部を卒業後、「霞が関」に向かった多くの同級生とは違う道をあえて選んだ。選択の理由は小学生のときにさかのぼる。「三年のとき、オーストラリアから帰国し、千葉県の公立小学校に通い始めたのですが、そこは『個性を摘み取るモデル校のような学校』でした。その体験から、『日本の学校教育を何とかしたい』と思うようになりました」
 彼女が選択したのは指導者を育成するために設立された財団法人「松下政経塾」への入塾。「将来的には政策を実際に実行できるポジションにつきたい」という彼女は、こう疑問を投げかけた。
 「日本の官僚は、本当に使命感を持って、官僚になっているのでしょうか」
 小学校から大学院までの一貫教育の中で、リーダーの育成に尽力してきた慶応義塾の中川真弥・幼稚舎長も言う。「日本では、受験競争の勝者であるという理由で、官僚になりたがっているだけ。『人に勝ちたい』という発想で官僚になっているから、国民を見下すことにつながっている。しかし、真のリーダーとは『人に勝つこと』を目指すのではなく、『国のためにベストを尽くすこと』ができる人。そういう人材を育てる教育が日本には欠落している」
 
 才能の芽を摘み、真のリーダーが育たない日本の教育とは、どういう教育なのか。白井さんは語る。「日本の教育は平等主義ではなくて、悪平等主義。機会の平等よりも、結果の平等を強いる。同じカバンを持たされたり、何でも同じでないといけない。勉強が出来過ぎてもだめ。私は考え方が他の子と違っていたし、英語もしゃべるし、先生にとって『目の上のたんこぶ』だった」
 平等主義的教育は、才能や優れた資質を持った子どもたちに、時に罪悪感を持たせることもあった。白井さん自身、小学生のとき、担任教師が教えた内容に疑問を訴えただけで、教室から追い出された経験を持つ。まさに、「突出するものはつぶされる」という今の「いじめ」の構図と同じだ。
 平等主義的教育の行き着く先はどこなのか。
 「平等主義の裏には、本人の才能をきちんと評価しないということがある。先生は、本人の潜在的能力や創造性を評価せずに放棄してしまっている。評価するとしても、せいぜい知識を問う試験で記憶力をみているだけ。これは日本人全体にも言えることで、『ブランド志向』も自分で評価することを拒否している。鑑識眼を持って評価しない文化は衰退するだけ。もうすでにいろいろなところで、日本の衰退は始まっている」
 江崎学長は、こう言った。
 
 エリート。この言葉に日本人は敏感だ。戦後の平等主義的教育が「特権階級や差別意識をもたらす」と、エリート教育を否定してきたからだ。戦後の教育は平均的に質の高い国民を作ることに成功したが、一方で才能や資質を備えた子どもたちの芽を摘んできた。今、日本では創造的人材の養成やリーダー待望論が盛んに論じられている。裏を返せば、そういった人材が日本には極めて少ないということだろう。時代は才能や資質を開花させるエリート教育を必要としている。昭和二十二年に現行の教育制度になってから五十年間、タブー視されてきたこの問題に取り組んでみたい。(水沼啓子)
 
《最近の官僚による不祥事、汚職》
平成元年
3月
リクルート事件で、元労働事務次官(東京大学法学部卒)を収賄容疑で逮捕
 
リクルート事件で、前文部事務次官(九州大学法学部卒)を収賄容疑で逮捕
7年
3月
大蔵省東京税関長(東京大学法学部卒)、旧東京協和信用組合元理事長との香港旅行が発覚。同年末辞任
 
7月
前大蔵省主計局次長(東京大学法学部卒)が健康飲料輸入の副業発覚で辞任
8年
10月
薬害エイズ事件で、元厚生省生物製剤課長(北海道大学大学院修了)を業務上過失致死容疑で逮捕
 
11月
厚生省汚職事件で、元厚生省課長補佐(東京大学法学部卒)を収賄容疑で逮捕
 
12月
厚生省汚職事件で、前厚生事務次官(東京大学法学部卒)を収賄容疑で逮捕
(肩書はすべて当時)


 
 
 
 
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