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1994/10/24 産経新聞朝刊
【主張】変わる日教組、問われる力量
 
 日教組が「阻止・粉砕・撤回」の看板を降ろし、参加・提言型の運動に転換してから四年が過ぎた。新しい路線は現場に根付いてきたのだろうか。
 組合と教育委員会が同じ土俵で話し合い、教育の条件整備や内容改善で前進を見た例がいくつかある。とはいっても「参加するが、提案せず」「参加・陳情」にとどまっているところが少なくない。確かな変化は「上からの改革には何でも反対」の旧来派が居場所を失いつつあることである。
 こうした中で、日教組の「二十一世紀ビジョン委員会」が文部省、教育委員会をパートナーと位置付けた中間報告をまとめた。これによって、参加・提言型は定着の方向に向かうことが予想されるが、それが成果を上げるには、克服すべき課題がある。
 組合員一人ひとりに教育実践の力量と時代変化を読み取る見識が求められる。組合としては政策立案能力が欠かせない。現状では、力不足は否めないだろう。学校五日制、脱偏差値、高校教育の多様化、新学力観など、文部省から打ち出された施策に対する現場や日教組本部の対応や分析を見ても、的確さに欠けている。
 中間報告は各単位組合に対して「教職員や父母の要請を的確に把握し、その課題解決に向けた政策立案能力と交渉機能の強化が求められる」とし、日教組本部には、これ以外に教育情報センターの役割を求めている。
 こうしたことは教育の担い手である教師集団には当たり前のことであり、これが実現しないと、多くの人々の支持は得られないだろう。
 教育の自治や行政も見直す必要がある。中間報告は、学校について自主権を拡大する一方で「学校協議会」を設け、管理、運営への住民参加をはかることを求めている。教育委員会は財政自主権の確立をめざすとともに、地域教育政策センターとして、教員、教育団体、住民などによる教育政策の策定をする役割を挙げている。
 このように地方分権を色濃く打ち出しているが、中央との関係についての明確な提言がない。文部省については教育・文化の総合政策官庁、教育委員会の総合調整機構と位置付けているが、具体的な権限の見直しには触れていない。これでは、目指すべき教育行政の全体像は見えてこない。
 父母や教師の考えや知恵を教育政策に反映させることが大事なのはいうまでもない。文部省と日教組は協調の時代を迎えたいま、政策立案・決定の望ましいシステムを探ってほしい。


 
 
 
 
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