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2001/11/07 読売新聞朝刊
「ゆとり」より「学力」 完全週5日制、私立中の4割導入せず/東海3県
 
◆「公立と差別化」思惑も
 来年四月から小、中、高校で「学校完全週五日制」がスタートするが、東海三県の私立中学三十八校のうち、来年度は導入を見送る学校が全体の四割を超える計十七校にのぼることが、読売新聞や各県教委の調べで分かった。学力低下への懸念があり、公立校との差別化を図りたいという私立中学側の事情がある。また、試験や学校行事などでの登校も含めると、土曜日登校を実施する学校は約六割の計二十三校にのぼる。文部科学省は国公私立を通じての実施を求めており、私学の“独自路線”は議論を呼びそうだ。
 岐阜県では、八校全部が導入を見送るほか、愛知県では二十校中五校、三重では十校中四校が来年度の導入を見送る方針を決めた。再来年度以降に導入する学校が二校あり、検討中が三校だった。
 導入を見送る理由は、「受験を気にしている生徒の要望にこたえたい」(岐阜・鴬谷中)、「授業時間を減らしては学力の保証が出来ない」(名古屋中)など、受験対策や授業レベルの維持を挙げる学校が多く、「公立との差別化を図り、学校の特色にする」(愛知・春日丘中)という学校もあった。
 五日制に踏み切る学校も、「補講やテスト、行事を土曜日に実施する」(愛知淑徳中、愛知・大成中)、「試験休みを廃止し、学校行事を土曜日にする」(愛知・南山中男子部)など六つの中学で、土曜日も登校させる。また、土曜日は休みにするものの「六十五分の五時間授業にする」(愛知・滝中)、「朝の小テストや七時間授業をする」(名古屋女子大中)など平日の授業の充実で、従来以上の授業時間を確保するところもあった。
 学校五日制は「ゆとり」教育や家庭回帰を趣旨としている。遠山文科相も六日の閣議後の会見で、完全五日制の導入を私学団体に改めて要請していく考えを示している。
 これに対し、愛知県内の私立中教頭は「授業時間を減らしては丁寧な指導は出来ない。土曜日などに学習塾に通うようでは、『ゆとり』は生まれず、実態は変わらない」と指摘する。
 
◆多彩な経験本来の目的
 名古屋大教育学部長の安彦忠彦教授(カリキュラム論)の話「授業時間を減らすことが『ゆとり』につながるかどうかは議論が分かれるが、家庭や社会で多彩な経験をさせるのが週五日制の目的だ。相変わらずの受験重視で見送るのであれば、本来の趣旨に反する」
      
《学校週5日制への東海地方の主な私立中学校の対応》
学校名(所在地) 対応
・愛知 
愛知
(名古屋市千種区)
5日制を導入するが、学力を低下させないため、第1、第3土曜の補講を検討している
金城学院
(同市東区)
キリスト教系なのですでに完全5日制。土曜日はけいこ事などに充てている生徒が多い
名古屋女子大
(同市瑞穂区)
5日制を導入。朝の小テストと7時間授業も実施し、現行より授業時間を増やす
愛知産業大三河
(岡崎市)
現行通り土曜日は隔週授業。ただし、学校行事や地域学習、体験学習を集中させる
桜丘
(豊橋市)
5日制に移行。土曜は全員出校の行事と希望者参加の体験学習など計13回程度実施
・岐阜 
帝京大可児
(可児市)
土曜の休日は月1回。学習内容を易しくするだけの文科省の姿勢には同意できない
麗沢瑞浪
(瑞浪市)
毎週土曜に授業を実施。寮生が8割以上で家に帰せないためと、学力を落とさないため
・三重 
セントヨゼフ女子学園
(津市)
未定。中高一貫なので難しい。何を「学力」とするのか校内で議論したい
高田
(同)
再来年度から導入を検討。「ゆとり」教育というが、大学入試は全く逆方向で動いている
皇学館
(伊勢市)
5日制は実施するが、隔週で行事や課外授業を行う。授業時間は確保したい

 
 
 
 
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