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2000/01/25 読売新聞朝刊
[社説]学校活性化に人事考課生かせ
 
 東京都教育委員会が、教員の能力や業績を五段階評価して人事に反映させる新たな人事考課制度を、この四月からスタートさせる。学校の活性化に欠かせない試みとして注目して行きたい。
 新制度では、教頭が第一次、校長が第二次評価者となり、「学習指導」「生活・進路指導」など四つの分野で教員の能力、意欲、実績を評価する。都や区市町村の教育委員会は、それを人事配置や昇任、昇給の判断材料として活用するという。
 教員の勤務評定については、一九五〇年代に日教組の「勤評闘争」が大きな論議を呼び、結局、多くの県で制度は有名無実化したままになった。都にも現在、三段階評価の制度があるが、人事面に反映させないという原則が貫かれてきた。
 その結果、学校では一般社会では考えられないような慣行もまかり通っている。
 昨年都議会で取り上げられた「成績特別昇給制度」の実態は典型例だ。勤務評定とは別に設けられたこの制度では、校長が毎年、成績優秀者を教委に推薦することになっている。ところが、学校によっては教員組合が作成する名簿に従って輪番で推薦者を決めていたというのである。
 校内人事についても、職員会議が選出する「人事委員会」で原案を作成、校長はそれを承認するだけという例が、都議会で報告されている。
 能力・業績主義は時代の求めと言っていい。社会が激しく変化する時代には、一人ひとりの力を見極めて、それにふさわしい処遇をすることで、組織の活力を生み出す必要があるからだ。
 学校も例外ではあり得ない。ぬるま湯的な人事や学校運営が行われていては時代に取り残される。何より、そうなった時に第一に被害を受けるのは子どもたちであることを思わなければならない。
 都政モニターの調査でも、今の制度を変えて処遇に反映させる必要があると答えた人が七割を超えた。世間では能力主義がもはや常識になっていることが分かる。
 新制度には都教職員組合などから反対の声も少なくない。社会的な深い根を持ついじめや学級崩壊などに無益だとする論、管理が強まってむしろ弊害があるとする論などが、代表的な反対意見だ。
 新制度は、年度当初に全教師に一年間の目標などを書いた自己申告書の提出と、その際管理職による面接を受けることを義務付けている。これがポイントになる。
 管理職と一線の教員が毎年一回、自己申告を介して、様々な問題をきたんなく話し合う。そんな場が実現すれば反対論の多くも沈黙せざるを得ないだろう。この過程にこそ新制度の意義があると言える。
 そのためにも、評価が、学校に権威主義や管理主義をもたらすようなことは避けたい。求めがあるなら、評価を本人に知らせるという風通しのよさがあってもいい。
 要は、人事考課を通じて学校を生き生きとよみがえらせる。新制度の真の狙いはそこにあることを、関係者全員がよく理解して取り組んでほしい。

 
 
 
 
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