日本財団 図書館


1998/07/02 読売新聞朝刊
[社説]学ばなければ卒業できない
 
 文部省の大学審議会が、「二十一世紀の大学像と今後の改革方策」について、中間まとめを公表した。提言内容のポイントは次の三点に集約されよう。
 卒業時の学生の質の確保を重視するシステムに転換する。高度専門職業人を養成する大学院修士課程の設置を促進する。付加価値競争を促すため組織運営体制を整備し併せて評価システムを確立する。
 目指すべき当然の方向だろう。少子・高齢化が進む中で、量的に減っていく人的・知的資源の確保は、質の飛躍的な向上で補う以外にない。国際的に見て、「競争と協調の時代」に突入してもいる。
 大学の大衆化が進み、志願者全員が入学できる時代になるのもそう遠くない。放置すれば「入りやすく、かつ出やすく」なってしまう。学部教育の再構築と大学院を中核に据える新たな処方せんを出すタイミングは今をおいてない、と言っていい。
 そうした状況認識からだろう。中間まとめは、これまで十年間の改革を検証し、なお多くの問題が残っていると指摘する一方で、戦後の大学制度をも洗い直し、不備なもの、あいまいなものは法改正を含めて明確にすべきだと提言している。
 中間まとめは、大学の学部と大学院を通じて、「課題探究能力の育成」を基本に据える。これで、学力観の転換を目指す初中教育との整合性が一応は取れる。ただ、ともに多様化が進む大学と高校との円滑な接続には、なお問題が残る。双方の役割分担と連携のあり方の検討が必要だろう。
 学部レベルでは、教養教育の重視をうたうと同時に、授業の事前学習の指示と厳格な成績評価を実施することで、安易な進級や卒業認定の抑制を求めている。
 そのためには、カリキュラムの中身と教授法の改善が避けられない。それが確立されれば、提言の言う「学部三年」で卒業できる例外措置も生きてくるだろう。
 大学院では、例えば、経営管理や法律実務、公共政策、教員養成など高度専門職業人の養成に特化した修士課程の設置を目指す。同時に、社会人向けに、修士の「一年集中コース」と「長期在学コース」の制度化を提言している。
 大学と社会を往復してキャリアアップを目指す要求は今後も高まっていくだろう。早急に実現させたい。
 大学はいずれ、研究志向のほか、教養教育重視型や専門職業人の養成に重点をおくところ、生涯学習機会の提供に力点をおくタイプなどに機能分化していくだろう。
 そうした中長期的な課題に対応していくには、大学側の責任ある意思決定と実行が欠かせない。中間まとめが過度の「学部自治」を戒め、学長・学部長主導の運営に改めるとしているのは必然の流れだ。
 さらに、現在「努力義務」にとどまっている自己点検・評価と公表を義務化し、第三者機関の客観的評価によって予算や補助金を配分する方向も打ち出されている。
 大学は「大競争時代」に突入する。改革努力を怠れば、存立基盤が危うくなる。すべての大学人にその自覚が求められる。

 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION