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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1986/10/27 読売新聞朝刊
[教室は変わるか・12年ぶりの授業改革](5)道徳の時間(連載)
 
 「皆さんは正しいと思ったことを自分から進んでやったことがありますか」
 教師歴三十二年のベテラン岩戸久子先生は、三年一組の道徳の時間をこう切り出した。
 「けんかしてるのをとめたことがあります」「台所が汚れていたのでそうじしました」……。無邪気な答えが次々と返ってくる。
 そんなやり取りの後、この日の本題「よわむし太郎」に入る。弱虫の太郎が、弓を構える殿様の矢面に立って白鳥を助けた話である。正義と勇気。子供たちに考えさせながら授業が進む。小道具が持ちこまれた。手作りの太郎の絵は、縦二メートルもある労作だ。この前で、児童が思い思いに殿様と太郎役を演じる。
 東京都足立区立千寿二小で道徳の授業をのぞいた。ベテランと中堅の先生も、それぞれの工夫をこらしていた。教師歴十八年の先生は足立区教委が独自に編集した道徳資料の「影絵」を見ながら、「感謝の気持ち」を教える。
 東京・目黒区教委も今年「地域に根ざした道徳資料」を区内の先生に配布した。地元に伝わる昔話や郷土の偉人、古老の話、区内の行事などを素材にした道徳用の物語を収録している。
 その一つ「やっとできたトマトソース」は、菅刈小の神戸恵美子先生が昨年、教壇で使った手作りの物語だ。トマトソース作りを手がけた相原与吉氏を地元の地誌で知り、三か月かけて資料を集めた。「創意・進取」をテーマに道徳の授業で使ってみた。舞台の西郷山はいま、子供たちの遊び場となっている。身近な素材に、児童は目を輝かせた。
 道徳は教科ではない。通信簿に道徳の欄はなく、教科書もない。それだけに、教師にとっては腕を振るえる場でもあり、やっかいな時間でもある。そこで、手っ取り早く、出版社の道徳副読本がもてはやされる。
 中央教育研究所(海後宗臣理事長)が全国八百の小学校を対象に、この八月にまとめた調査結果だと、教材として副読本を使っている小学校は七割に及び、目黒や足立区のように地域資料を使う学校は一割にすぎなかった。
 中間まとめで副読本の「奨励」を打ち出した教育課程審議会。その行く手には、副読本の教科書化の方向が見え隠れする。
 再び、中央教育研究所のデータ。道徳用教科書の採用について三割を超える小学校が賛成し、条件付き賛成を加えると六割に上った。「指導しやすい」「あれば便利」という理由が多かった。
 全国連合小学校長会は昨年十一月、臨教審に出した「意見」で、道徳の「教科用図書」への検定制度適用と無償配布を検討するよう求めた。同会の横溝昭平・教育課程委員長(東京・港区立白金小校長)は「誤解された面もあるが、教科書化を求めたものではない」としながらも、「道徳の時間を別の授業などに当てたり、テレビの道徳番組を見せて済ましている学校がまだまだ多い」と指摘する。
 バラつきもある教育実態を画一化しようというのが教科書化の狙いだが、熱心に道徳と取り組む先生たちは戸惑いを隠さない。足立区教委の馬淵金男指導主事は「地域や学校、学級の実情にあわせて授業を工夫するのが道徳だ。幅を持たせた現在の道徳教育を否定する方向に行かなければいいが……」と話す。
 「やっとできたトマトソース」の神戸先生もかつては副読本とテレビに頼っていた。「最近は手ごたえが違う。子供たちが道徳の時間を楽しいと言ってくれるんです。やっぱり押し付けではダメなんですね」。
 日本人としての自覚を持って国際社会に貢献する――ことを目標に掲げた道徳教育の強化と画一化。「中間まとめ」には、副読本のほかにも、国語に道徳教材の採用、特別活動での道徳実践、学校行事での日の丸や君が代の明確化など、盛りだくさんな内容が盛り込まれた。
 だが、それも、現場の多様な試みや努力を無視するのでは、逆効果になりかねない。
(おわり)

 
 
 
 
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